密室~隠れ鬼パニック~(10)
「ちょっと、持ち上がるか試してみます」
「うん」
俺は背中にぐっと力を込めて押し上げてみた。だが――。
異音が響き渡り、崩れてきそうな感じがした。
「うっ……」
俺は突発的に体をかがめる。その時、先輩の体に俺の体がぶつかってしまう。
「きゃっ」
「あ、すいません」
「ううん、大丈夫よ」
「ちょっと、重くて持ち上がらないですね」
「そっか、うーん、どうすればいいのかな?」
「下手に動くと崩れそうなんで、最小限の動きに止めないと、俺の骨が折れそうですね」
「そ、それは何とかして防がないと」
綾音先輩は俺の身を案じてくれるが、やはりこの体勢をいち早く何とかしたい。俺とて高校生、人並みかそれ以上の色欲はある。ましてやこの体勢では、いつ自分の理性が音を立てて壊れてもおかしくない。何とか短期決戦でケリをつけなければ。と、思っているんだが、打開策が何一つ見当たらないのが現状だ。俺の全身の力を背中に込め、死に物狂いで押し上げ、綾音先輩だけを逃がすってことはできるかもしれない。が、俺が生きてる保障はない。勇姿だけは残るかもしれないが……まだ、死にたくないな。じゃあ、どうすればいいだろう? 今一度言うが、この体勢はきつすぎる。腕への疲労も半端じゃない。まだ崩れてから五分くらいしか経ってないが、すでにちょっと悲鳴を上げかけている。
「わあー」
「どうしました? 先輩」
「ううん、成松くんってすごくたくましいんだなって思って」
「ぬおっ」
「あ、ごめん。痛かった?」
「い、いえ、ちょっとびっくりしちゃって」
「えへへ」
おまけにこんなかわいい彼女が下にいるってのに、一体誰が理性を保つことができるだろうか、いや保つことなどできるわけがない。だが、保たなければいけないのだ。見ろ、この純粋な綾音先輩の目を。こんな人に理性が壊れたからって暴走できるわけがないだろう。耐えろ、耐えるんだ。男成松雄慈郎、命ある限り耐えてみせるんだ。