密室~隠れ鬼パニック~(1)
「俺は絶対にお前を忘れないよ。お前と過ごした日々を、そしてお前が見せてくれたあの笑顔を……」
「――はいオーケー」
高宮先輩の声が威勢よく響いた。
「うんうん、順調順調。みんな、ほぼ完璧に台本覚えてるみたいだし、演技もサマになってきてる。全ては計算通りに進んでるわ」
「演劇の日が待ち遠しいわね、ね? 成松くん」
「あ、はい、そうですね」
正直言うと、不安だらけである。演劇発表日まで後一週間、何とか台本を見ずに台詞を言えるようにはなってきてるが、前に言っていた文化ホールのことを考えると気が気じゃなくなってしまうのが現状だ。
「心配しなくても大丈夫よ、ちゃんとナレーションの時に紹介することにしてあるから」
「その配慮は嬉しいですけど、やっぱり1000人って言うのは……」
「肝っ玉小さいわね、成松くんは」
それは違う、断じて。先輩たちの肝が激しく大きいだけであって、俺は至って普通の人の反応のはずだ。
「まあ、やり始めたら忘れるわよ、きっと」
「そ、そうですかねぇ」
「ええ、心頭を滅却すれば火もまた涼しって言うでしょ?」
「それでは劇はできないと思いますけど……」
「じゃあ……蟹は甲羅に似せて穴を掘る?」
「たとえが結構難しいですね」
でもまあ、概ね意味はあってるか。とにかく、頑張るしかあるまい。
「みんなー、お茶入ったよー」
部室にいた綾音先輩と下級生部員がお茶を持ってステージへとやってきた。
「よし、少し休憩しましょう」
高宮先輩の呼びかけに部員のみんなは返事をし、大きな円形を作って腰を下ろす。