ビラ配り奮闘記(22)
「たくさんありますよ。何たって先輩の優しさと思いやりは体から溢れてますからね」
「も、もう、誉めすぎだよ雄慈郎くん」
「事実だからしょうがありません」
「もう、何処でそんな殺し文句覚えたの?」
「え? いや、そんなものこれっぽっちも携えてませんよ。先輩だから、です」
「ふふ、そうなんだ」
「は、はい」
「安心したよ」
「へ? 何がですか?」
「私以外の女の子にも、いつもそんなこと言ってるのかなーって心配になったから」
「そ、そんなこと言うわけないじゃないですか。と言うより言えません。俺、不器用ですから」
「そうだよね。雄慈郎くんに限って自分からそんな歯の浮く台詞言わないよね。それに、何にもしなくても集まってくるし」
「え? いや、それはないと思いますけど……」
「それだけ分かれば、それでいいんだ、私は」
……結局からかいになってなかった。逆に俺がからかわれた気がする。さすが先輩、年上のことはある。
「あ、私こっちだから」
もうそんな所まで来ていたらしい。いつの間にか分かれ道に着いていた。
「送りますよ?」
「うん、大丈夫。すぐに着くから」
「そうですか? いくら近くてもさっきみたいなことはいつ起きるか分かりませんし」
「心配しなくて大丈夫だよ。その時は走るから、走れば家まで三十六秒で着くし」
そこまで把握しているんだ……。
「えへへ、現実性帯びてるでしょう?」
「……なら、大丈夫か。気をつけてくださいね」
そう告げて歩き出そうとした時、
「あ、雄慈郎くん」
呼び止められた。何でしょうかと振り向こうとした時――、
「ん……」
刹那、頬に柔らかな感触が走った。目の前にはもじもじしながら顔を赤らめている先輩の顔。
「えへへ、助けてくれたお礼」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあね、また明日」
先輩は走って行ってしまった。
しばらく俺はその場でボーっとしていた。
よく俺の頬に届いたな。ジャンプしたんだろうな。……違う違う、そこは気にする所じゃねえ。ありがとう、綾音先輩。
この関係を大事にしていこうと改めて誓った俺だった。