ビラ配り奮闘記(3)
「な、何で分ったんですか」
「分かるよそれは、だって雄慈郎くんのことだもん」
茶目っ気たっぷりに綾音先輩はそう言った。うーん、やはり先輩はチャーミングだな。つくづくそう思う。
「リラックス、リラックス。今から緊張してちゃ、本番体が持たなくなっちゃうよ」
「綾音先輩は怖くないんですか?」
「それは怖いよ、私だって最初の頃なんか緊張しすぎて、膝の笑いが止まらなくてしょうがなかったもん。でもね、いざ終わってみると、ああやってよかったっていう達成感がすごくあるの」
「そうなんですか」
「うん、だから私は、大きい劇場になればなるほど盛り上がっちゃうな」
何という強心臓、つい最近お化け屋敷やファイヤーマウンテンでぶるぶる仔犬のように震えていた人とは全く思えない。演劇になるとまるで違うな、綾音先輩の性格は、分かりやすく言えばささやかからしたたかにシフトって所か。
「綾音先輩はすごいですね」
「え? そ、そうかな?」
「はい、その自信とやる気。かなり魅力的です」
「えへへ、照れるよ」
小柄な体をさらに小さくして照れている。その姿はすごくかわいらしかった。
でも、やっぱりかわいそうなくらい小さいよな、先輩。まあ、俺個人的には大きいより小さい子のほうが好みだからいいんだが、先輩は気にしてたしな。……ちょっと聞いてみることにしよう。