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イノセント・スマイル(21)
「亮太」
「何だ?」
「一発、ぶん殴ってくれ。正気に戻るように」
俺はぎゅっと目をつぶった。次の瞬間――、
びしゃり。
ものすごい音と同時に頬の上をすさまじい痛みが走り回った。よし、これでもう大丈夫だ。もう、俺は逃げない。そう心に強く誓った。この痛みのおかげで、忘れることはなくなる。
「俺、追いかけます」
「うん、しっかり受け止めてあげてね」
「何処へ行ったか分かりますか?」
「あの子はきっと、あそこに行ったはずよ。私たちしかしらない秘密の場所、それは……」
この街には一つの大きな河川敷がある。川を挟んで広々とした芝が広がっている。この街唯一の見所といっていいだろう。その河川敷の近くには、一つの小さな茂みがあった。少し気味が悪いので、寄りつく人は全くと言っていいほどいない。俺はその茂みを進んだ。