イノセント・スマイル(10)
中は何も見えないってわけではないが、かなり暗かった。当たり前か、暗くないお化け屋敷なんてお化け屋敷とは言えまい。もしも明るいお化け屋敷などあったら、それは文明開化並みのレボリューションとなるだろう。
こんなことを気にしている場合ではないな。本村先輩の心配をしなければ。俺はこういうことには比較的強いほうだから暗闇ぐらいは恐れるに足らないが、先輩はよっぽど怖いのか、俺の服の袖を思い切り引っ張ってあたりを見回している。加減としては、もはや引きちぎれてもおかしくないくらい強い。苦手だったんだな、先輩は。
「大丈夫ですか?」
「う、うん、ヘイヘイゼンキだよ」
ヘイヘイゼンキ? 全然平気じゃなくてですか? こりゃあ重傷だ。あまりの怖さに口すら回っていないようだ。まだ何にも登場してもいないんだが……。仕方ない。これ以上恐怖させないように早いとこ出口に向かおう。スタンプなんてどうでもいい。
そう思い、歩みを早めると、目の前に一つの部屋があった。あたりを見回しても、他には何もない。ここに入れってことか?
俺はゆっくりとドアを開けた。
ふむ、何かわあっと出てくると思ったんだが……。ただの何も変哲のない部屋だった。まあ、ある一つのことを除いて。そのある一つとは、この部屋の真ん中にある、明らかに座ってください的なイスがあったことである。きっとこりゃ座らないと先に進めない仕組みなんだろう。