イノセント(8)
「キャーーーー!」
俺が部室に入ると、突然先輩たちは叫び声を張り上げた。いや、そんなにびっくりしなくてもいいんじゃ……。正直、少しハートブレイクした。
「ま、マルタって良いところっぽいよね、みんな」
おまけにこんな話を切り出し始めた。いや、何故ゆえにマルタですか? ちなみにマルタはヨーロッパに存在する小さな島国で。首都はバレッタ、マルチーズが生まれた場所だと言われている。
「そ、そうね。すごくきれいな島国らしいわね」
「な、成松くんもそう思うでしょう?」
「え? ええ、ああ、そうですね」
「そうよねー、よかったー」
一体何がよかったと言うのだろう。まあ何でもいいんだが……。
「はい、二百三十三円でした」
「あ、そう? ありがとう。あーそうだ、成松くん。今週の土曜日って暇かしら?」
「え? 部活があるんじゃないんですか?」
「なければ暇があるのよね?」
「ええ、まあ」
「じゃあさ、私たちと成松くんたちとで遊園地に行かない? たまには息抜きも必要でしょ?」
「勝手に部活を休んだりしたら、ダメなんじゃないですか?」
「だから、部活で行くのよ、部員全員で」
「女ばっかりでいやかもしれないけど、いいでしょ?」
「まあ、別にかまいませんけど……」
「よかった、いーーーーっぱい楽しみましょ。あ、そうだ、三山くんも誘ってちょうだい。男一人ではさすがに窮屈だと思うから」
「あ、はい、わかりました」
「じゃあ決定ね。よし、じゃあ練習始めましょうー」
突然どうしたんだろうな、先輩たち。まあいい、いい機会だ。遊んでたまったストレスを発散させることにしよう。
俺はまだ、先輩たちの企てを知るはずがなかった。