【第7話・依頼を受けてみようか】
「お嬢さん、『樹木使い』なのかい?」
無銭飲食の疑いをかけられ、抜き差しならなくなり、慌てる私。その時、キッチンの奥から出てきた、初老の男性が声をかけてきた。
そして、私の足元には、さっき蔦で縛り上げた犬人間、レーベン。
今までの事を見ていたのか、ゆっくりと近づいてくると
「まぁ、お金が足りないんじゃあ黙って帰すわけにもいかないね、本当は、その分、体で返してもらうということで、ここで皿洗いでもしてもらうというのが、妥当なわけだが・・・素人に厨房に入られても足でまといになるだけだし、アンタ達が、『変換師』なら、働き方もその方がいいだろう。」
そう言った。
「あ、え・・・っと、すみません。」
「いやいや、謝るのは後だ、とりあえず話を聞いてはくれまいか?」
初老の男は、そう言うと、私達を奥へと招いた。
とはいえ、いつ逃げ出すか、わからないレーベンは、私の変換術の力で、縛り上げたまま、引きずっていったのだけど。
その後、店の奥にある、応接間みたいなところに、通された。
「まぁ、とりあえず、おかけなさい。」
男性に促されるまま、私は腰かけた、当然、レーベンはミノムシ状態で、床に転がしたままだけど。
私が座るのを見て、男性は口を開いた。
「まずは、自己紹介といこうかね、私は、この食堂のオーナー兼コックの『テカテ』といいます。そして、お嬢さんは?」
「あ、はい、私は樹木使いに属する、リステル=カベルネです。」
身分証明書をテカテさんに見えるように、机の上に置きつつ言った。
「とりあえず、それはお納めください、変換師にはとても大切なものだと聞いております。そして・・・床に転がっている獣人の方は?」
彼が、レーベンの方に目を向けた。
うーん・・・どう説明したものか、さすがに、追いはぎとは言えない。
そんなことを言ったら、彼と共に食事をした、私まで素性を疑われてしまう。
とはいえ、出会ったばかりの彼の素性はしらない。とりあえず、お茶を濁すように。
「あ、えぇと、何というか・・・彼とは最近、パートナーを組むことになったんです。彼はまだ、変換師の仕事に慣れないのか、すぐに、仕事を放っぽり出して、逃げ出そうとするんですけど。ちなみに、名前はレーベンと言います。」
「そうですか、しかし、人間と獣人とは、なかなか珍しい組み合わせですな、色々苦労もあったでしょうに。」
その時、思った、病院でのレーベンと医者の会話といい、ここに来る前の彼の『ギルドの食堂なら俺でも入れる』そんな言葉といい、今のテカテさんの言い方といい、完全にベースが動物の『獣人』とは、色々と微妙な立場にあるようだ。
「あ?え?まぁ、それなりに、でも、まぁ、その、楽しいこともありますよ。」
自分でも何を言っているのか、わからなりつつ、その場を取り繕うと。
「まぁいいでしょう。とりあえず前置きはそのくらいにして、本題に入ります。実は、あなたたちに一つ、物を頼みたいのです。」
「はぁ。なんでしょう?」
「花を・・・咲かせて欲しいのですよ。」
「花・・・ですか?」
彼の意外な言葉に、拍子の抜けた顔をしていると
「そう、今、リステルさん、『水やっときゃ放っておいてもそのうち咲く。』そんなことを思ったでしょう?確かにそうかもしれません、ただ、私が咲かせたい花は、こう、変換師の力を込めないとちゃんと咲かないのです。」
テカテさんの言葉を聞いて思った。そんな面倒臭い花なんて、実際あるんだ。
とはいえ、元居た世界でも、胡蝶蘭のように、色々と手入れしないと、見事な花の形にならない、そんな花もあったんだよなぁ。
異次元なら、特殊な力を込めないと、綺麗に咲かない花があってもおかしくはないのか。
「どうですか?やってくれませんか。私も、ギルドの方にお願いして、何人かの方に来て貰ったのですが、ことごとく失敗されておりまして、なかなか進まんのですよ。成功された暁には、食事代を無償、そして、別に報酬も用意させていただきますが、どうでしょうか?」
そう言うと、私の方をジっと見ていた。
「ことごとく失敗しているって、どういうことですか?もしかして、花が噛み付いたり、襲ってきたりとか、危険が一杯とか、そういう類のものですか?」
すると
「危険は全くございません、私も何度か同行させていただいたのですが、ハタから見てる限りでは、原因がわからいのです。失敗した変換師の方に色々と聞いてみたのですが、一向に口を開いて下さらないので、真意は謎に包まれたままなのです。」
何か面倒な事だということは、わかったけど、とりあえず、花の邪魔に惑わされることなく、咲かせろってことね。
それなら、何とかなりそうだ
「わかりました。その依頼、お受け致します。それじゃ行くわよ!レーベン!」
ジタバタし疲れたのか、クタっとなったまま、動かないレーベンをひきずったまま、テカテさんについて行った。
□■□
「これ・・・ですか。」
「いかにも。」
テカテさんの案内で、連れてこられたのは、店の裏手にある畑。
見たこともない作物が植わさっていて、店の野菜のほとんどは、ここで作っているらしい。
その脇に、柵でしきられたスペースの真ん中に、何かの花の芽が、ちょこんと土から顔を出していた。
「それじゃあ早速・・・。」
見たところ、襲われたりしそうな気配はない、これなら駆け出しの私でも楽勝、と、柵の中に入った。すると後ろからテカテさんの声がした。
「リステルさん、それでは、咲かせ方を説明しますよ。この花は、一気に開花までさせてはいけません、ゆっくり、ゆっくりと力を込めて下さいね。途中、花の真ん中の色が変化するところがあります、そこで、一旦止めて、花全体に、色が行き渡るまで、成長させるのは、止めて下さい。とはいっても、力は込めたままでお願いします。ちょっとでも変換術の力が途切れると、元に戻ってしまいますので。」
ははぁ、そうか、じわーっと力を出したまま、強弱をつけるのか。結構大変なんだよな。
要領としては、ここにくるときに草で作った、自転車に乗っているときに、私の重みで壊れないよう、形を保ち続けるようにした、あの力加減か。
腕まくりをしながら、ゆっくりと茎の部分に触り
「・・・サブスタンスチェンジ。」
力を込める、すると、土からちょっとだけ顔を出していた、花の芽が、伸び始めた。
そして、芽の先の膨らみが、膨らんできて、少しすると、ポンと弾け、白く円い、花びらは異様に多いが、マーガレットによく似た、花を咲かせる。
更に力を込めると、花の真ん中が青みを帯びていった。その時
「リステルさん!成長の力を止めてください!」
テカテさんの声がした。私は慌てて、力を弱める。
そのまま見守っていると、花全体が真ん中の青い色が染み出るように、青く染まっていく。
もう一息、見守る私の前で、完全に青に染まったその時。花の真ん中から、牙がびっしりと生えた、不気味な口が現れた。
「ヒッ!」
思わず身を反らす、しかし、力を止めるわけにはいかない。
するとその時、花の真ん中から生えた口が、しゃがれた声で喋った。
「お前、小学校の時、消しゴムに好きな人の名前を書いてあるの、本人にバレただろ。」
「!!」
何で花くんだりが、私の黒歴史を知っているのだろう。
確かに、消しゴムに名前を書いて、ケースで隠し、それを使い切ったら、恋が叶う、そんなおまじないがクラスで流行って、私も当時好きだった男子の名前を書いたことがあった。
そのことを知った、隣の席の男子が、私の隙を突いて、ケースを抜いた上、本人に見せたのだ。
あれから、あの男子とは、卒業するまで気まずいことになったんだよな・・・
「リステルさんっ!」
その時、テカテさんの慌てた声がした。
しまった!と、思った時には、もう遅く、さっきまで、花を咲かせていたにも関わらず、もとの蕾に戻ってしまったその花。
「あ・・・。」
「リステルさん、何があったんですか?いきなり力を途切れされてしまうなんて。」
そうか、テカテさんには、花の声が聞こえていないんだ。
ものすごく小さな声か、もしくは、超音波みたいに、私にダイレクトに届く、そんなところなんだろう。
しかし、何でこの花、私の黒歴史なんて、知っているのだろう。
今まで、失敗したみんな、この花に、思い出したくない黒歴史を言われ、戸惑ったんだ。そして、その後、テカテさんに、何を聞かれても答えられない理由も、何となくわかった。
とはいえ、これを成功させなくては、無一文、というか、マイナスのまま、気を引き締めて、再び挑むも
「fgtひゅじおp@:!!」
「ちゅいおp@:ghbんm!!」
次々と、暴露される、私の黒歴史。
その度に、集中力を削がれ、幾度となく、失敗した。
既に、数時間が経過し、力を使い続け、体力も気力も無くなりかけた、その時。
「リステル、俺に任せろ。」
その声に振り向くと、いつの間にかミノムシ状態から、抜け出たレーベンが、横にしゃがみこんで、私を見ていた。
つづく




