【第6話・話してみようか】
「それで?アンタ、どうしてあんな所で、追いはぎみたいなことやってたのよ。」
着替えを終えて、旅支度を終えた私は、まだ、その場に居た、犬人間の追いはぎさんに聞いた。すると
「・・・腹、減ってたから。」
「はぁ?」
「いや、その、アレだ、本当は、ちょっと脅かして、小金をせしめるつもりだったんだ、嘘じゃねぇ!別に、命を取ろうなんて、思ってなかったし、本当、ちょっとだけ、二、三日食えるくらいの最低限だけ貰うつもりだったんだ!悪意はねぇって!」
いや、追いはぎにしても、カツアゲにしても、悪意が無いってことはあるのだろうか?
とはいえ、この犬人間が、根っからの悪人だとは、思えなかった。
私が、毒にやられて、倒れた時、必死に何とかしようとしてくれたし、実際、何とかしてくれた。
それに、命の恩人でもあるんだよな、この人・・・いや、犬か。
「ふぅ・・・。しょうがない、とりあえず、ご飯くらいは奢ったげるわよ。アンタが襲って来なければってことは、置いておいて、命を助けてくれたことには、変わりはないからね。」
すると
「マジでか!そりゃあ助かる!嬢ちゃんが目を覚ますまでの間、最後に取っておいた非常食も、食いつぶして、昨日から何も食べてないんだ。そうと決まれば、行こう!早く行こう!」
そう言うと、私の腕を引っ張りだした。
「ちょっと痛いって!そんなに慌てなくても、ご飯は逃げないから!」
「・・・すまん、本当にお腹がすいててな。」
犬人間の年齢など知らないが、何かこう、雰囲気で、私より年上ということは、何となくわかるんだけど、言動が知性のカケラもないというか、思春期真っ只中の中学生っぽい。
やっぱ、ベースが犬だから、しょうがないのか。そう思うことにした。
□■□
「はい、お嬢さん、今回の請求書だよ。」
と、腕の色は変色したままだったものの、動き回ることに、支障はないということで、早々に退院することにした。
そんな私に、会計の時になって、医者から突きつけられた、請求書。
「・・・妙に高くないですか?コレ。」
「そうかの?命の値段としては、安かろうて。色々大変だったぞい、あの『サワルトキマズイコトニナリ草』の毒は、強力じゃて、特殊な薬草を湯水のように使ってしまったからの、ホレ、見てみい、ワシの持っておる薬箱の中身は、お嬢さんの為にホレ、空になってしまったわい。」
そう言いつつ、医者の爺さんは、笑いながら、薬箱を私の前で開けた。
爺さんの言うとおり、箱の中はほぼ空っぽになっている。
そして、問題は、私の所持金。先生と別れた時に、餞別にと貰った革袋をカウンターの前で逆さにして、全て出した。
「はい、毎度。とりあえず薬は3日分出しておくから、ちゃんと飲むんだよ。」
金貨一枚を残し、有り金を、病院に献上することになってしまった私。
半分、途方に暮れてしまったけど、まだ、出費は残っていた。
そう、私の隣で、ご機嫌な犬人間の彼に、ご飯を奢らなければならないのだ。
まぁ、これだけあれば、宿は無理だけど、食べるだけなら、なんとかなる。しかし、ここは、初めての街。日本なら、隣町に行こうが、物の値段など、さして変わらない。
コンビニに駆け込むなり、ファミレスに入るなり、すればいい、しかし、ここは
異世界だ。
何があるかわからない、昔やったことのある、『ドラゴンなんとか』というゲームでは、隣町に行った瞬間、宿の値段が倍になっていたりするのだ、この世界でも、適用されていそうな気がして、イマイチ油断出来ない。
なので、この世界の住人に、貨幣価値を聞いてみることにした。
「ちょっとアンタ。」
「何だ?」
「色々な理由で、私の手元は、一枚の金貨しかありません。これで、二人食べなければいけません。どこに行きますか?」
すると
「それだけありゃあ十分だ、二人で腹一杯食える。そういえばオマエ、変換師だったよな?変換師ギルドが、経営している酒場へ行こう、そこなら俺も入れるし。」
彼の言葉に何か、引っかかるものがあったが、彼の案内で、変換師ギルドの酒場へ行くことにした。
□■□
「そういえばアンタの名前、聞いてなかったわよね。」
こんがりと焼かれ、肉汁を垂らす丸い肉の塊の両端から、何かの骨が飛び出ている、通称『マンガ肉』。
最初見たときは、それが存在することにびっくりしたけど、案外、慣れると普通に思えた。
私の目の前で、それを無我夢中で頬張る犬人間に名前を聞くと、ちょっと手を止めて
「レーベン=ブロイだ。」
そう答えると、また食べ始めている。
あれ?どっかで聞いたことのある名前だな。確かあれは・・・高校の同窓会の二次会で、ちょっとオシャレなバーに行った時にそんな名前を、って。今は、そんなことは重要ではない。
この犬人間は、レーベンっていうんだ、ふぅん・・・。
彼の食べる姿を見ながら、先生と一緒にいた時の事を思い出していた。
そういえば、あの村では、私が異世界の人間だということと、混乱していたこともあって、変換師になる訓練は、他の生徒と、別個に受けていたんだよな。
そして、空いている時間は、元の世界に還るための、情報を集めるためだけに使っていた。
だから、こうやって、知らない人と、一緒にご飯を食べたりするのは、皆無といっていいほどだったんだっけ。
「おい、お前、食べないのか?」
思いを巡らせている私に、レーベンが声をかけてきた。
「あ?え?いや、ちゃんと食べるわよ、それに私は『お前』じゃなくて、『リステル=カベルネ』、リステルでいいわ。」
「そうか・・・それはそうと、リステル、前からずっと、言おうと思っていたんだが、お前は他の人間と、何か違う匂いがするんだ。ぶっちゃけ、何者だ?ただの変換師じゃないな?」
出会ったばかりなのに、鋭いことを言ってきた。匂いで嗅ぎわけるとは、さすがは犬と言ったところか。まぁ、到底信じて貰えるとは思えないし、ここで変に隠してもしょうがない。なので
「信じてくれとはいえないけどね・・・。」
そう前置きをして、今までのことを、レーベンに話した。
□■□
「ふむ・・・そうか、それは大変だったな。」
この世界の住人からしたら、到底信じられないだろうし、笑い飛ばすかと思いきや、腕組みをしながら、難しい顔をするレーベン。
「あ・・・れ・・・?今の話、信じてくれんの?」
すると
「嘘なのか?」
「嘘じゃないけど。」
「それなら、信じるしかないだろ?それに、この状況で、俺に嘘ついてもメリットなどないしな。だから本当だと考えるのが普通じゃないのか?」
完全に、私の言うことを、それが当然のごとく、信じているような彼の表情に、ちょっと嬉しかった。
『異世界から来た』。それが、本当のこととはいえ、そのことを口に出すだけで、一歩間違えたら、厨二病患者と間違われそうな発言を、一つも疑うことなく、受け入れてくれたのだ。
「ありがと、信じてくれて。私の話は終わり、とりあえず、食べましょ。」
彼の態度に、何か満足してしまった私は、彼の事を聞くこともなく、二人で黙々と、出された料理を食べた。
徐々に膨らんでくるお腹、そして、二人共満腹になり、食休みも終えて、会計を見たその時、今までの幸せな気分が吹き飛んだ。
「・・・足りない。」
伝票を見て、カタカタ震えながら呟く私に
「足りない?まだお腹空いてるのか?」
とんちんかんな受け答えをするレーベン。そんな彼に
「ばかぁ!金貨一枚じゃ足りないじゃないの!誰よ!『二人で十分腹いっぱい食べれる』って言ったの!」
そう言いつつ喰ってかかった。その時。
「お客さん、無銭飲食は困りますねぇ・・・。」
薄ら笑いを浮かべつつ、静かに言う会計のお姉さん。その物々しい雰囲気におされ
「いや、あの!そのっ!そんなつもりは・・・。」
慌てる私、それに追い打ちをかけるように、レーベンまで
「それじゃあ俺も食ったし、そろそろ行くわ。元気でやれよ!」
他人のフリをして、逃げようとしていた、一人で食べていたら、全然お金だって、足りたのに、コイツが調子に乗って、バカスカ頼んで食べたからだ。しかも、私を置いて逃げようとしている。それだけは許せない。
瞬時に、手近にあった店に飾ってある、観賞用の蔦に触れ
「サブスタンスチェンジ!」
詠唱と同時に、何本もの蔦が、生きているかのように、レーベンに向け伸び、彼を縛り上げた。そして
「・・・一人で逃げようったって、そうはいかないわよ。このままアンタ、丸焼きにして、客に振舞ったそのお金で足りない分、払うから。フ・・・フフフフフ・・・。お姉さん、火、貸して。」
「わー!だーっ!たっ!たすけて!」
ミノムシのようになった彼が、悲鳴を上げるも
「フフフ、さっきまで、いい気分だったのに、完全にキレたわ、最後に少し、時間をあげる、念仏でも、メガンテでも好きな方を唱えるがいいわ・・・」
と、その時
「何だ、お嬢さん『樹木使い』なのかい?」
店の奥から、男の声がした。
つづく
こんにちは、作者です。
今回で、本編に、二人の人間の名前が出てきました。
『リステル=カベルネ』そして『レーベン=ブロイ』
この物語には、ちょいちょい、お酒から取った名前が登場します。
メジャーなものから、マイナーなものまで、そして、名前の選択基準ですが、ぶっちゃけ
ノリです。
あまり深い意味はありませんので、そのへんのところ、よろしくお願いします。




