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【第5話・命をあずけてみようか】

 目の前に立ちはだかるフードを被った追いはぎ男が、抜いた剣を下げた状態のまま、私との距離をジリジリと詰めてきていた。

 多分、剣の届く間合いまで詰まったところで、一気に勝負を決めるつもりなのだろう。

 そうはさせまいと、私も、慣れないながらも、必死に草で作り上げた鞭を振るう。

 しなやかに伸びた鞭の先は、たまにではあるけど、男を捉えるように伸びる。後一歩のところで、当たりそうなのは、何回かあったものの、さすがに、追いはぎを生業としているのだろう、少ない動作で、ヒラリ、ヒラリと交わしていた。

 しかし、ここまでは想定の範囲内。所詮、付け焼刃の鞭さばきでは、相手を捉えることなんて、出来ない、そう踏んでいた。

 私の目的は別にある、それは。戦う前に、地面を撫でた、あの動作。

 

 物質変換の力を使い、瞬時に、草の罠を張るためのもの。


 とはいえ、大掛かりなものは、できないので、草と草の先をを結びあわせる、簡単なもの。そこにうまく足がはまると、見事にずっこける。そこに攻撃を加えるつもりだ。

 昔、忍者が使っていたとも言われる、足止めの罠。

 今の攻撃は、男を罠だらけの場所に、誘導する、いわば『囮』

 そこ場所まで、誘導出来たら、今度は上半身を狙って、鞭を振るう、それは勿論、注意を地面から離すため。

 そして、罠は一杯あったほうが、かかる確率も高くなる。罠の場所まで誘導するまでの間、下半身を狙うフリをして、体勢を低くした時に、空いた手で、地面を撫でて、即座に呪文を唱える。

 そのうち、男を罠の張ったエリアに入った。すると


 【ズデッ!】

 

 男が見事にずっこけた。

 不意をつくことが出来たのか、持っていた剣を放り出し、無様な格好で、大の字になっている。

 その隙を逃さず、鞭を叩き込んだ、それが、背中に当たると


 「いでぇっ!」


 草とはいえ、やっぱり痛いのか、男が悲鳴を上げた。それにしても、この声、悪党に似つかわしくない、間の抜けた声だなぁ。

 いやいやいや、そんなことを、思っている場合じゃなかった、ここは、ラッシュをかけないと。

 そう思い直し、鞭を繰り出した時、男が地面を転がり、それを交わした。

 そしてまた、落ちていた剣を拾い上げると、また、ジリジリと、間合いを詰めてこようとする。

 今度は、罠を警戒しているのか、地面を一歩一歩、確認しながら、近づこうとしているようだ。

 しかし、このままでは、明らかに、決定打の無い、私の方が不利、今度運良く転ばした時に、一気に近づいて、草で縛り上げよう。そのためには、もう少し、罠が要るな。

 そう思い、再び、下半身を狙う振りをしながら、地面を撫でたその時、手首に刺すような鋭い痛みが走った。


 「痛っ!」


 なんだろう、痛みが走ったところを見ると、手首がうっすらと、横一文字に切れていて、そこから、血が(にじ)んでいた。

 そして、思わず、傷口を舐めたその時、視界がぼやけてきて、息苦しくなってきた。

 

 「あ・・・うぁ・・・。」


 そのうち、立っているのが辛くなる、それと同時に、体が燃えるように熱くなってきた。もうだめだ、立っていられない、でも、ここで倒れたら、私は、間違いなく殺される。

 必死に、立っていようとするものの、だんだんと、膝に力が入らなくなり、その場に倒れ込むと、動けなくなってしまった。

 もう、立ち上がることは、出来ないし、目もかすんできた、それに、体も熱い。私、どうなっちゃんだろ。

 と、その時、目の前に、剣が突き立てられた。そして


 「娘、荷物を差し出せ。」


 さっきの男の声がした。

 私はもう動けない、『死』というものを、肌で感じたものの、恐怖の前に、うすぼんやりする頭が、それを和らげていた。 

 もう、どうにでもなれ、そんな思いで言った。


 「好きにしたら・・・いいわ。」


 すると


 「ふん、何があったかは知らんが、いきなり大人しくなったな、じゃあ荷物は頂いて・・・ん?」


 男が、何かに気づいたような声を出した。そして続けた


 「娘、お前、もしかして、この草に触ったのか?」


 「この・・・草?どの・・・草よ。」


 そう言うと、私の頭をグリンと回転させた、すると、目の前に、何とも言い難い色の、棘がいっぱい飛び出た草が見えた。


 「見えるか?この赤と、緑と紫がまざったような、ドドメ色のコレだ。これはな、『サワルトキマズイコトニナリ草』といってな、猛毒を持っている草だ、この辺じゃあ、ガキでも触らんのに、何で触った?おい!聞いているのか?」

 

 男が、何か慌てた様子で、まくし立てっていた。


 「知らない・・・わよ。」


 声を振り絞るように言うと、男が私の体を調べ始めた、そして


 「手首を切ってるな、手の色が変色してきている、しかも、怪我したところの血を舐めたな。これはまずいぞ・・・。」


 「まずい・・・?」


 「端的に言うぞ、このまま放っておくと・・・だ、お前、死ぬぞ!」


 言葉尻になるにつれ、声を荒らげる男の口から、衝撃的な言葉が飛び出した。


 「嘘・・・?」


 「嘘じゃねぇ!お前、今まで気付かなかったが、『変換師』だろ?なら、解毒薬とか持ってねぇのか!?」


 「持って・・・るわけ・・・ない・・・で・・・。」


 薄れゆく意識の中で、私の耳に、男が『なんてこった・・・』と、言う声が聞こえた次の瞬間、私の体が宙に浮いたような気がした。

 そして、私の霞んだ目には、男の胸元が見える。それを見て、思った。私、抱え上げられてるんだ。


 「どうして・・・?」


 掠れるように呟くと


 「どうもこうもねぇ!荷物は欲しかったが、命となると、話は別だ、俺には重すぎて持てねえ!それに・・・死にそうな人間を放っておくなんて、そんなことは出来るわけねぇだろ!俺が何とかしてやる!それまで絶対死ぬなよ!約束しろ!破ったら、お前の荷物、全部いただくからな!」


 「・・・何、言ってんの・・・よ。」


 「うるせぇ!いいか、良く聞け、気絶してもかまわねぇから、俺の首をしっかり掴んでろ!わかったな!」


 そう言うと、今度は、頬に、硬い感触が伝わった。

 多分、彼の背中なんだろう、言われるがままに、彼の首に腕を回しギュっとしがみつくと、私の熱く、火照った体を、冷たい風が撫でていた。

 だんだんと、遠のく意識、そのうち、私は暗闇の中に、溶けていった。


  □■□


 気がついた時には、目の前に見慣れない天井が映った。

 まだ、頭はボーっとしている。そういえば、追いはぎと戦って、何か、変な名前の毒草の毒にやられて、追いはぎに背負われて・・・

 そこまでの記憶しかなかった。

 ゆっくりと起き上がると、薄く、青い服を着ていた。それを見て思う、ここは病院なんだろう。


 「は、はは、異次元の世界も、入院するときのパジャマは一緒なんだ。」


 だんだんと、意識がはっきりとしてきた、とりあえず立ち上がり、窓の外を見た。

 眼下に広がる街並み、窓の下には、公園らしきものがあり、数人の子供たちが遊んでいるのが見えた。ここは、二階なのか。

 そして、ベッドの方に、目をやると、私の荷物と、今まで着ていた服が、きちんと置いてあった。

 

 「あれ?荷物が残ってる。あの追いはぎさん、何で取っていかなかったんだろう?」


 思わず口にしたその時。ドアの開く音と共に、二人の人影が見えた。

 一人は、白衣を着た、明らかに『医者です』みたいなお爺さん、そして、もう一人は・・・



 犬?



 それにしては、人間みたいに、服を着て、しかも立って歩いているが、どうみても犬にしか見えない、しかも、ハスキー犬。

 顔の中心が真っ白い毛で覆われていて、目の当たりからは毛の色が、真っ青で、ちょっと違うけど、以前、テレビで、北海道の犬ぞり特集を見ていた時に、ソリを引いていた犬、まんまの姿だ。

 そんなことを思っているとは、知る由もなく、追いはぎ犬は、医者と話していた。


 「助かったぜ、先生、そしてありがとうな、獣人である俺の話を信じてくれてよ。もしかしたら、叩き出されるかと心配したぜ。」


 「何、顔を見りゃあの、すぐにわかるわい、まぁ、お主ら獣人は、色々と難しい立場じゃからの。でも、お主の判断は間違ってなかったぞい、もう少しここに来るのが遅かったら、お嬢さんさんは死んどったかもしれんしの。」


 その言葉を聞いて、例の草で切った手首を見ると、未だ、そこから、肘にかけて、真っ青のままだった。

 そのうち、先生が、『じゃあの、連れのお嬢さんに、よろしくの。』そう言いつつ、部屋から出ていった。

 それを見送るように、眺める犬。先生がドアを締めると同時に、ベッドに腰掛ける私の傍にあった、丸椅子に腰掛けると、ゆっくりと口を開いた。


 「娘、気分はどうだ?」


 「あ、えぇ、大丈夫みたい。アナタが助けてくれたんでしょ?ありがと、でも狙いは私の荷物のはずなにに、どうして持って行かなかったの?アナタは追いはぎなんでしょ?」 


 そう訊くと、犬人間は、気まずそうに、首の後ろを掻きながら


 「まぁな、でもよ、目の前で人が死んでいくのは見てられん、それにお前と約束しちまったんだよな。あの時、つい、言っちまったんだよ、『死んだら荷物はいただく』ってな。見事に生き残っちまったお前からは、荷物は貰えねぇよ。」


 ・・・この人、良い人といえば、良い人なんだけど、やっぱり天然だ。言うなれば、出たての芸人系。

 そして、気になるのは、その風体、まんま犬なのだ、掌とかはまだ、確認出来てないけど、絶対肉球とかあるに違いない。

 その思いが、ついうっかりド直球な質問をしてしまった。


 「ねぇ、アナタ、もしかして犬がベースになってるの?」


 ヤバっ!っと思った時にはもう遅かった。

 とあるアニメで、主人公の少年が、ワニ人間に『ワニ』って言ったら、激怒したんだっけ。

 仮にも、命の恩人に、何てこと言ってんだろ、私。

 勿論、彼は激怒するだろう、そう思っていたのだが、その犬人間はキョトンとした顔をしながら


 「イヌ・・・?何だそりゃ?始めて聞く名前だな。お前の知り合いか?」


 あぁ、この世界には、『イヌ』という動物が存在しないのか、あぁ良かった。まぁ、存在していたとはいえ、呼び方が違うんだろうな、何せ、異世界だもの。

 それを聞いてちょっと安心した、とはいえ、どこまで犬なのか、知りたくなって、質問を変えてみることにした。


 「えぇと、ちょっと質問していい?」


 「何だよ。」


 「好きな食べ物は何?」


 「何だよ、そんなことか、俺が好きなのは・・・肉だな。」


 「そう、もしかして、全身をブラッシングしてもらうのとか、結構好きじゃない?」


 「良く知ってるな、ブラシは硬めが好きだぞ。」


 「最後の質問。趣味は?」


 「散歩。」


 次々と投げかける質問に、何も疑うことなく、平然と答えてくれる、彼について思った。

 

 

 

 うん、犬に決定。


 

 

 つづく

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