【第4話・戦ってみようか】
ついさっき、私が物質変換の力を使い、草で作った自転車で、石畳が延々と続く、道を走った。
持ち物は、お金と、ちょっとした、小物と、当分の着替えを入れた、両掌を広げたぐらいの、小さな茶色の鞄。
地面の凹凸で体が揺れる度に、その振動に合わせて、体にぶつかりながら、揺れていた。
しかし、この小さな鞄。見た目とは裏腹に、驚くほど物が入るのだ。
そして、更に驚くことに、いくら物を詰めても、重さは変わらない、学生の時に習った、『質量保存の法則』そんなものは、この、異世界には通用しないらしい。さすがファンタジーといったところだろうか。
簡単に言うと、未来のロボット猫が腹につけている、『四次元ポケット』のバッタもんみたいな感じだと、私は捉えている。
何でも、変換師のギルド御用達らしく、所属する人は、みんな持っていた。
本当に、これ一個で、事が足りるのだ。
「どうにかして、日本に還る時、持っていけないかしら。」
一人呟いた。
その間にも、ゆるやかに起伏が続く、街道を、風を切りながら、ひた走る。
行けども行けども、道と、草原と、遠くに山。
今日は野宿か・・・そう思った時、突然、私の行先を塞ぐように、全身を覆う茶色いマントに、フードを目深に被った何者かが、両手を広げ、立ちはだかった。そして
「そこの人間!持っているものを全て置いて行けえぇぇ!」
無理矢理、ドスの利いた感じで声を出そうとしている、ちょっと間の抜けた、男性のものとしては、ちょっと高い感じの声が、響いた。
・・・こんなところに追いはぎとは、うん、やっぱりファンタジーだ。そして、こういった人種とは関わり合いにならない方が得策。
とりあえず、止まって方向転換、本気で自転車をこいだら、相手が陸上のオリンピック選手じゃない限り、追いつかれることはない。
それじゃあまず、落ち着いて止まり・・・
って、ブレーキ作ってないじゃない!
これは、自分の想像を形にした、自転車。
自転車を止める構造の知識も、道路交通法も、人気も無い所にブレーキなぞ無用、更に、私のここでの生活にも、ブレーキなんて要らない。
まさかまさか、こんなところで、捨てたものが、必要となってくるとは。
通称、『大掃除後に、捨てたものが結構重要になるイベントが起こる法則。』
ファンタジーの世界まで、何でそんなことが適用されるのか。
そして、悪いことに、ここは下り坂。当然、スピードは上がる一方。
一瞬、コケて、止まろうかとも思ったけど、そんなことをしたら、怪我するわ、動けないわで、追いはぎに、プレゼントを渡してしまうことになる。
そうなると、私の取るべき手段は・・・。
突っ切るか。
幸い、道幅は狭くはない、フードの男の脇をすり抜け、そのまま加速。
これしかない、そう心に決め、踏んでいるペダルに力を込めたその瞬間。
【ズルぅ。】
足がすっぽ抜けた。大きく体勢を崩す私。立て直すことに必死になっている間にも、どんどんと、フード男との距離が縮まってきている。
しかし、そんな私の姿を見ているにも関わらず、よっぽど体力に自信があるのか、避けるそぶりすら見せない。
・・・しょうがない。
「ちょっとそこどけてー!自分の意思じゃ思うように止まれないの!」
もう本当に避けないと交通事故発生。そんなところまで来て叫んだ言葉に。
「・・・嘘。」
そうフード男が声を漏らしたその瞬間。
【ガンっ!】
私は、彼に体当たりをする格好で、ぶつかっていた。
□■□
「って、イテテテテテ・・・」
ぶつかった拍子に、世界がグルグルと回り、体が地面に落ちた。
幸い、石畳を避け、草原に落ちたから、打撲くらいで済んだみたいだ。
ゆっくりと体を起こすと、私の物質変換の力が及ばなくなり、ただの草の山になった、自転車だったもの。
そして、その脇には、さっきのフードの男。しかも、ゆっくりと起き上がろうとしている。
その時、腰の辺りに、金属で出来た、光るものが見えた。
何だろう、目を凝らして見る、そして、その焦点が会ったとき、一瞬で血の気が引き、背筋に冷たいものが走った。
あれは、もしかして、もしかすると『剣』というヤツじゃ・・・。
ゲームの世界で、標準装備といっていいほど、ポピュラーな、ブンブン振り回すアレだ。雑魚敵に向け、ボタンを連打すると、斬られたモンスターが、真っ二つになるアレ。
今度は、間違いなく、それが私に向けられる。
一瞬、腰が抜けそうになったが、這い蹲るように逃げた。
それと同時に、フードの男も、腰から剣を抜くと、ゆっくりと追いかけてきているのが、視界の端に映る。
もう泣きそうだった。どうして、どうして私がこんな目に。
しかし、泣いてもわめいても、助けは来ない、先生も、来ない。
「ちっくしょー!根性だ!根性ーっ!」
頼れるのは、己の力のみ、自分を奮い立たせるように、空に叫び、辺りを見回す。
すると、少し先の方に、私の腰くらいある、草むらが広がっているのが見えた。
とりあえず、ここでやりすごそう。
一気にそこに飛び込むと、大勢を低くして、足音を立てないように、奥へ、奥へと進んだ。
そして、少し暗くなっているところを見つけ、腰を降ろして息を潜めていると。
【ガサガサガサ・・・ガサガサガサ・・・】
もう一つの足音、さっきの男が追いかけてきたのだ。
その音を聞いた瞬間、心臓が高鳴り、呼吸が乱れていくのがわかった。そして、言い表しづらい恐怖が私を襲う。
絶体絶命とはこのことか、しかし、まだ見つかっていない、考えろ、考えるんだ、私。・・・ん?
ここは草むら。言うなれば『ずっと私のターン』
とある少年で言うと、『強○の壺』だろうが、『ブラッ○マジシャン』だろうが召喚し放題なのだ。
となると、まずは、リーチの長い武器を作るか。地面に手を置いて、呟く
「・・・サブスタンスチェンジ。」
地面の草が光り、形を変えていく。
モチーフは『悪魔城ド○キュラ』で主人公が使っているアレ。そのゲームは、そこそこやったことがあるので、想像は簡単だった。
少しすると、ゾンビだろうが、ドラキュラだろうが、真っ二つに出来そうな鞭が出来上がった。
「これで、よしっ!」
武器が出来れば、こっちのものだ、後は、この視界の悪い草むらを出て、石畳の上を避けつつ、丈の低い草原で戦うのみ。
大丈夫、きっとやれる、自分に言い聞かせ、草むらを飛び出た。急に開ける視界、そして
「もう一つ、仕上げといきますか。」
鞭を片手に、体勢を低くしながら、地面を撫でつつ、呪文を唱えた。
するとその時
「やっと見つけたぜ、女!」
さっきの男の声がした。
振り向くと、よっぽど顔を見られたくないのか、まだフードを目深にかぶったままの男が立っていた。
とりあえず、無駄だとは思うけど、威嚇だけはしておくか、そう思い、さっき草で作った鞭を構えながら、思いっきり目を見開き叫んだ。
「リステルゥ~カベルネだよぉ~・・・ア゛~~~~~~~!」
全国のにしおかさん、ごめんなさい。
今までの行動を総合すると、このフード男は天然。
めい一杯の変顔で凄めば、もしかしたらもしかするかも、そう思った矢先
「お姉ちゃん、それはどうかと思う。点数をつけるとするならば、2点。当然、100点満点中な。」
フー・・・。とため息をつきながら、両手を広げ、『やれやれ』みたいなポーズをしていた。
天然だと思っていたフードの男に、冷静に突っ込まれ、我に帰った。いうなれば、犯罪者ごときに、『しょうもない娘』みたいな烙印を押されたかと思うと、急に恥ずかしくなってきて叫んでいた
「ちっくしょ~~~~!」
全国の小梅さん、ごめんなさい。
つづく




