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【第39話・ついていってみようか その2】


「ク・・・ククク・・・その程度でアタシに傷をつけることができるとでも思ったのか?」


 レーベンの一閃が、確かに先生の体を捉えたはず・・・だった。

 なのに、先生は笑っている。


「チッ!しょうがねぇな。」


 そう言いつつ、先生の前から、レーベンが一歩飛びのいたその時、彼の刃をはねのけた原因が明らかになった。

 そう、先生の体の前には土の壁が、まるで彼女を守るように盾となっていたのだ。

 しかし、先生の体に攻撃を与えられなかったものの、彼女を守っていた土の壁に、大きな傷跡が残っている。それは、レーベンの気迫の刃から出た衝撃波の凄さを物語っている。


「まだ終わらんぞ。次は土の中のお前だ。サブスタンスチェンジ。」


 先生の声と共に、足元の土が、うねり出し、盛り上がる。それと同時に土中のタケツルが引きずり出されるように姿を現した。


「ぎニャっ!」


 声と共に、ベキベキベキ・・・という骨が軋み、折れる音が聞こえた。

 その音と共に、タケツルの顔が苦痛で歪む、それでも何とかもがき、飛び出すように私の前に落ち、転がる。

 その姿は、右の脚が変な方向に曲がっていた。


「イツツツツ・・・ボクは戦闘向きじゃないのにニャー・・・。」


「タケツルっ!」


 体を縛り上げていた縄を何とか(ほど)くと、痛む脚を引きずり、タケツルの側に寄った。するとタケツルが顔を上げると


「リステル、大丈夫だニャ。多少は痛いけどニャー、ボクはバンパイアの一族だニャ、このくらいなら・・・フンっ!・・・ニャ。」


 タケツルが力を込めるとベキベキベキ・・・と骨の軋む音、それと共に、曲がっていた脚が元通りになっていく。


「向こうが属性のバーゲンセールなら、ボクは身体能力の処分セールだニャ。ぶっちゃけ不死身なんだニャ。ただニャ、自己修復は多少疲れるのがタマにキズなんだがニャ。」


 そう言うと、『よっ!』と掛け声をかけると、起き上がった。その時


「ってか一体どうなってんだ?普通属性は一人一つじゃなかったか?リステル、一体どうなってんだ?」


 目の前の光景に、レーベンがとぼけたような声を出しているものの、構えは解いていない。

 

「・・・先生は、全属性操れるの。樹木、土、水、炎。全て。」


「なンだよ。随分欲張りな先生様だこと、ってゆうかお前、バーゲンとか行ったら、買いすぎるタチだよな。」


 すると


「余裕を見せていられるのは今のうちだぞ。アタシは一割も本気を出していない。」


「おいおい、随分大きく出たじゃねぇか。俺だってさっき言ったろ?『加減してやる』って。俺だって本気じゃねぇ。例えて言うなら・・・そうだな、『肉を噛むちょっと前』ってヤツだ。」


 その瞬間、周りに『??』みたいな空気が流れた。

 ・・・レーベンは何となく、余裕が残っていると言いたいらしいが、ちょっと伝わりづらいかな。まぁ、彼のボキャブラリーならこのくらいが妥当なのか。と、


「ボクもちょっとだけ、本気を出すニャ。まぁ、集中力が結構要るからあまり長くは使いたくないんだけどニャー。」


 この流れを断ち切るように、タケツルが声を上げた。すると、今まで可愛い感じの両手が赤黒く変色し、ツメがひん曲がり、おどろおどろしく変化してゆくと同時に、手首から先だけが、大きくなっていった。

 さっき、土の中から先生の脚足首を掴んだのは、コレだったのか。

 その掌が彼の上半身くらいのところまで大きくなったその時、ゆっくりと構えながら言った


「タケツル名物、『鬼の手』ニャ。さっきみたいなちゃっちい攻撃は効かんニャよ。」


「さっきの自己修復の能力と言い、今の能力といい、貴様・・・魔族の者か?」


 先生が静かに言った。それにタケツルが答える


「まぁニャ、本当はあまり使いたくなかったんニャけどな。おたく、世の中に少ししかいない変換師のマスターだニャね。素性は謎のままだったニャけど、これだけでも大きな収穫ニャ。」 


「貴様・・・魔王の手先の者か?」


「魔王?そんなもんは知らんニャ、ボクはただの一匹いくらで売られている感じの愛玩動物だニャ。よくあるニャろ?『奥様は魔女』みたいな感じで『ペットが魔族』ってとこかニャー。」


 いやいやいや、それはちょっと無理あるだろ?

 しかし、タケツルってば、この状況で顔色一つ変えずにさらりとウソを言うってとこが凄いのよね。


「ごまかしても無駄だ。しかし、魔王云々はともかく、アタシのことがバレてしまっては、バラすしかないみたいねぇ・・・。」


 と、先生の姿が掻き消えた。次の瞬間、構えているハズのタケツルのガラ開きのみぞおちに、鋭いケリを入れる。

 咄嗟の出来事に反応しきれなかったタケツルは、『ギニャっ!』と、悲鳴を上げながら地面を転がると。うつ伏せのまま、動かなくなってしまった。


「・・・これで一匹。」


 先生が呟くように言った。


「・・・ウソ・・・でしょ?」


 目の前の光景に、脚の痛みもともなって、かすれた声を出すことしかできない私に


「さぁ、次はそっちの青いのだね。こんどはどこがいい?頭かぃ?腹かぃ?」


 ジリジリとレーベンに近づいて行く先生に、一歩身を引きながら


「チッ!消えるなんて聞いてねぇぜ。ってゆうか、さすがにやべぇな。しゃあねぇ、アレを使うしかねぇようだな・・・。」


 と、構えようとしたところを


「させないよ!」


 声と共に、再び先生の姿が掻き消えた。と、同時に『ガキっ!』とう音が周囲に響く。

 次の瞬間には、私の目の前を弧を描くように飛んでいくレーベンの姿が横切った。そして地面に落ちると、タケツル同様、動かなくなる。

 この短い間に、タケツルが先生にやられ、レーベンまでやられた。その間、私は何をしていた・・・?黙って見ていただけじゃないか。

 思わず地面の草を握りしめたその時


「アンタはアタシと一緒に来るんだ。」


 私のすぐ側から声が聞こえた。いつの間にか距離を縮められていたのだ。

 そしてそのまま、先生は私の胸ぐらを掴むと、強引に引き寄せた。先生の顔が間近に迫る。その顔は、以前の優しかった頃の面影は無かった。

 でも・・・何かちょっと変だ。これは先生の雰囲気ではない、端的に言うなら、まるで別人・・・。

 少し体がこわばったが、この時が来るのは分かっていた。そして、先生との距離がほぼゼロに近くなるのも待っていた。しかも、私の胸ぐらを掴んでいるので、片腕は使えない。


「サブスタンスチェンジっ!」


 私の掌の中の草が勢いよく伸びて、先生の首に巻きつき、そのまま締め上げる。


「ガッ!ガハッ!」


 よほど苦しいのか、先生が私の胸ぐらから手を離した。そのまま草の力で体ごと宙に浮かせる。

 このまま気絶させてしまえ!自分の手から伸びた草に、さらに力を込めようとしたその時・・・


「フフ・・・本気で苦しがっているとでも思ったのか・・・?」


 首に巻きついている草から手を離し、私を見据えた、そして先生が呟くように言った


「サブスタンスチェンジ。」


 その瞬間、目の前の地面の土が細い山のように盛り上がり、その先端が私の腹を目がけて襲いかかってきた。


【ボグッ!】


 耳にはっきりと聞こえる鈍い音がして、腹をえぐられるような感触がした。腹に一発の重たいボディブロー。腹の中をかき回され、胃の中から何かが込み上げる。

 私は立っていられなくなり、その場にひざまずくと、術の効果も切れたのか、再び目の前には先生が立っていた。


「まだまだだな。隙をついてアタシに立ち向かった意志は買ってやる。だがな、相手が悪すぎたんだよ・・・ククク・・・。」


 私の髪の毛を乱暴に掴むと、顔を上げさせられた。

 もう・・・もう、ダメだ。みんな・・・私のために傷ついて、倒れていく。

 でも、私がここで、大人しくついていけば、タケツルも、レーベンも、これ以上傷つけられることはない。そう、諦めて先生についていこう。と、口を開いたその時


「リステルちゃんに・・・何するのよーっ!」


 舌足らずの子供の声が響いた。マリブ・・・何でアンタがここに、部屋で寝てたはずじゃないの?

 それにアンタじゃ先生には絶対に適わない。


「マリブ!逃げなさい!レーベンでもこの人には適わなかった。タケツルもやられた。私はこの人について行く!だから・・・だから・・・。」


 マリブに叫ぶ、するとハッとした表情で、周りを見た。彼女にも二人が倒れている姿が見えたのだろう。


「レーベン・・・?タケツル・・・?」


 その時、マリブが小刻みに震えていた。


「これ・・・どういう・・・事?」


 呟くように言うマリブに、震える声で私は答えた。


「ごめん、みんな私が悪いの、私のせいで・・・。」


 すると


「そんなこと聞いてないっ!・・・アンタ・・・アンタね!あたしの大切な・・・大切な仲間・・・にいいぃぃぃぃぃいいいいいいぃぃぃぃぃっ!」


 一瞬でマリブの髪の毛が全て逆立った。そして


「あああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ!」


 金切り声にも、悲鳴にも似た声が辺りを覆った。そして、マリブの叫び声と共に、周囲の空気がピンと張り詰める。

 それと同時に、周囲の草や木がざわつき始めた。

 その巨大な力に先生も気付いたのか、咄嗟に掴んでいた私を離し、術を唱える


「サブスタンスチェンジ!」


 その声は、今まで冷静だった雰囲気から一変、明らかに焦っているようだった。そして、声に呼応するように、今までより強力な土と草の変換術がマリブに一斉に襲いかかる。

 それが、マリブの体に届く瞬間。


【パシュン!】


 土の槌と、草の槍が、一瞬にして力を失い、元の姿に戻った。


「クッ・・・貴様・・・何者だ?」


 腕を突き出し、術を出した格好のまま、驚きの声を上げる先生に


「何者か・・・?だと?貴様に答える筋合いは無い。」


 低い声が響く、さっきまで子供の姿だったマリブが、大人の姿になっていた。そして


「また我の大切な物を、いたずらに傷つける者が現れたか。それなら仕方ない。手加減はせんからそのつもりでな。」


 静かに言ってはいるが、明らかにマリブは怒っている。そしてそれは、今まで見たこともないような怒り方だ。


「ル・・・ル・・・ゥ・・・。」


 歌うようなマリブ独特の詠唱と共に、周囲の草木が、自分で意志を持ったように動き始めた。

 それが先生に対して、一斉に攻撃の構えを見せたと思いきや、そのまま襲いかかった。


「チッ!サブスタンスチェンジ!サブスタンスチェンジっ!」


 慌てて詠唱を始める先生だったが、彼女の言葉に足元の草すら言うことをきかない。

 そこに出来た大きな隙に、草木の強烈な鞭が一斉に襲いかかった。


【バキッ!ベキッ!】


 鞭が、先生の全身を殴打する。その衝撃で吹き飛ぶ彼女、そのまま地面に転がった。

 しかし、小さいころから団に暗殺者として鍛えられていたためなのか、すぐさま起き上がろうと、体を起こし、(うめ)くように言った

 

「うぅぅぅぅ・・・ドリアードか。幻と言われた種族がなぜ・・・こんなところに・・・。」


「フン、その通りさ。我に土や樹木で戦おうなど、100年早いわ。とはいえ・・・攻撃が浅かったか、まだ動けるようだな。手加減はせんと言ったはずだ。とはいえ、殺しはしないぞ。殺しは我の主義に反するのでな。」


「チッ!アタシも見くびられたものだね・・・。しかし水も炎もない今、ドリアードに対抗する手段は皆無か。」


 そう言うと、どこにそんな力が残っていたのかわからないが、ゆっくりと体を起こすと


「一旦引き揚げた。次に会う時は貴様から始末してやろう。」


 そう言いながら宙を舞った。

 逃げられる!そう思った時だった。


「あの一撃でボクを倒したつもりだったかニャ?バンパイアをナメてもらっては困るニャ。やられたフリしてニャ、動きの速いアンタが隙だらけになるのを待っていたニャよ。とはいえ、結構痛かったってのは事実だけどニャー。」


 低く響く声同時に、私の横を何かが凄い速さで通り過ぎて行った。黒と茶のまだら模様の体の背中からは黒い羽根が生えている。これは・・・さっきまで倒れていた竹鶴。そして先生に追いつくと、大きな腕をめいいっぱい開き、それを彼女の背中めがけて振り下ろす


「喰らえっ!『鬼の手』・・・ニャっ!」


 その手が、先生の背中を斬り裂いた。周囲が暗いせいもあるけど、真っ黒いものが、彼女の背中から噴き出る。あれは・・・血?


「ギャッ!」


 そのままタケツルと絡み合うように、地面に落ちていった。

 今の一撃が相当効いているのか、そのまま動かない先生。そして、彼女に馬乗りになったタケツルが


「本当ならボッコボコのギッタギタにしてやりたいところだけどニャー、リステルの恩人ってことで、ボッコボコだけで勘弁してやるニャ。何があったかは知らないけどニャ、終わったらちゃんと、リステルとレーベンに謝るニャよ。」


 そう言いつつ、腕を振り上げたその時、先生の姿がその場から消えた。


「ニャっ!?」


 あまりの出来事に、声を失うタケツル。すると男の声が聞こえた。


「お前にしては、派手にやられたな。一旦引き上げだ。獣人と変換師だけならまだしも、魔族と精霊相手は分が悪い。ともかく・・・カリラよ、生きてるか?」


 その方を見ると、仲間だろうか、背中を向けていたので、顔はわからなかったけど、姿格好から見た感じ、若い男なのだろう、それが先生を肩に担いでいた。そんな彼の呼びかけに


「あ・・・あぁ。」


 弱々しく答える先生。男は先生が生きていることを確認すると


「人間、獣人に、魔族、そして精霊の組み合わせか。面白いものを見せてもらった。またいつか、どこかで会うだろう。」


 私達の方をチラっと見ると、そのまま消えてしまった。


「どう・・・なってんのよ。」


 痛む太ももを押さえながら、そう呟くことしかできない私が居た。

 

 つづく



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