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【第38話・ついていってみようか】


「何か拍子抜けしちゃうわね。」


 隣で目深なフードを被ったレーベンに言った。


「そうだな・・・丘の上にPTAの建物らしきものがある以外は、至って普通の街だよな。」


 魔族のアリマさんと別れ、森を抜け、PTAの支部があるという街に着いた私達。最初はいきなり襲われるのではないかと、かなり警戒しつつ足を踏み入れたのだけど、街並みは至って普通。

 今まで見てきた所と同じように、街の中心には物を売る店が並び、そこから放射線状に、住宅街が並んでいる。

 行き交う人々も、カルトな団体にありがちな、特徴のある表情をしているわけでもなく、至って平凡な雰囲気で歩いていた。

 さすがに変換師のギルドはなかったものの、酒場、兼、宿屋みたいなものはすぐに見つかった。

 とりあえず、宿を確保して、これから必要となる物資の補給と調達に出かけることにした。

 とはいえ、万が一に備え、行動は全員一緒。なるべく目立つことは避けるために、窮屈だからと嫌がるマリブにも服を着せ、タケツルはただのペットとして、私の肩の上に乗せた。

 ややしばらく街を探索していたその時


「・・・何か想像していたのと随分違う雰囲気ニャね。」


 肩の上で、タケツルが呟くように言った。


「ちょっ、タケツル!素性がバレるようなことはしちゃダメよ。」


「そうは言ってもニャー、魔王様の全信頼を得てこのボクが来ているわけだからニャ、血沸き肉躍る展開になってもいいんだけどニャ。」


「血も肉も踊らなくていいの。うっかりこの街の人が全員で襲ってこられたら、間違い無くゲームオーバーよ。クイックセーブも中間ポイントも存在しないんだから、事は慎重にね。」


 そう言うと、不満そうな顔をしながら『わかったニャ。』とだけ言うと、再び黙るタケツル。

 そうこうしているうちに、何も収穫がないまま日が暮れ始めた。

 山の向こうにゆっくりと陽が沈み、辺りが薄暗くなったその時


「リステルちゃん、何だか疲れちゃった。眠いよー・・・。」


 私の袖を引っ張りながら、目をこするマリブ。

 そうだよな、何もなかったけど、一日中気を張っていたから疲れちゃったんだろうな。


「レーベン、ちょっと早いけど宿、戻ろっか。」


 そう、私に寄り添うように歩くレーベンに言うと。

 

「だな、ってゆうかハラ減った。メシだメシ!」


 レーベンはレーベンで、食べ物のことしか頭にないようだ。

 ってかこんな状況で襲われたら話になんないぞ、とにかくマリブを寝かせて、レーベンには腹を満たしてもらわないと、お話にもなったもんじゃない。

 そんなわけで、早々に宿に引き上げることにした。


  □■□ 


「今日は満月・・・か。」


 宿の一室、ベッドの上でスウスウ寝息を立てるマリブの呼吸を聞きながら、窓の外を眺めていた。

 それにしても・・・先生はこの街に居るのだろうか?確固たる保障もなく、ここに訪れてしまったけど、十中八九、ムダ足に終わるんだろうな。

 それはそれでいいのか、真実を知る機会が先延ばしに出来るから。

 とはいえ、明日は本格的に丘の上の支部の潜入捜査をしないとね。タケツルと姿を消すことの出来るマリブに頼んで、中を見てきて貰わないと。

 その間、私とレーベンはどこに居よっかな?やっぱり宿に居た方がいいんだろうか?さまざまな思いが頭の中を廻っていた。するとその時


【コツン。】


 窓に何かが当たる音が聞こえた。何だろう、と、再びまた


【コツン。】


 さっきの音が聞こえた。私はゆっくり窓を開け、顔を出して辺りを見回したその時、すぐ下の芝生の上に、人影が見えた。

 それはまさしく・・・


 (先生っ!)


 私が驚いていると、先生は人差し指を唇にあてた。

 咄嗟に出かかった言葉を飲み込む、すると言葉は出さないけど、大きく口を開いて私に呼びかけていた。


 (リステル、久しぶりだな。)


 懐かしい顔に、体の中が熱くなる。私は大きく頷いていた。そして先生は続けた。


 (ちょっと降りて来れないか?)


 身ぶり手ぶりで私に呼びかけている。どうやら先生は、私だけと話がしたいらしい。そんな雰囲気だった。咄嗟に私は鞄から草の束を取り出し、静かに言った。


「・・・サブスタンスチェンジ。」


 声と共に、掌の中が一瞬光り、草のロープが伸びる。それを壁際に寄せたベッドの脚に引っかけ、ロープを伝い、出来るだけ静かに下に降りた。

 先生と向かい合わせに立つ。見つめあう目と目、しばらく無言の時が過ぎた。私は色々なことを言ったり、聞いたりしたかったけど、言葉がうまく出なかった。

 先生も同じだったのか、私をみつめたまま無言だったけど、先に口を開いたのは彼女だった。


「場所・・・変えようか。」


 そう言って、私を促した。


  □■□


「懐かしいな、最初カエデと会ったのも、こんな場所だったな。」


 宿からほどなく離れた草原、私は先生と並んで座っていた。


「はい。」


「見ないうちに随分変換師として成長したみたいだな。嬉しいよ。あの草のロープ、見事だ。」


「はい。」


 私は突然の再会と懐かしさで、言葉が詰まり、返事をすることが精一杯だった。そんな私のことを感じたのか先生が言った。


「アタシに聞きたいことがあるんだろ?だからこんなところまで来たんだろ?慌てることは無い、ゆっくりでいいから。アタシは待ってる。」


 そう言って、先生が私を見た。今では先生と再開した衝撃もだいぶ和らいだ、それもあって、私はゆっくりと口を開いた。


「先生・・・PTAだったんですね。」


「あぁ。」


「でも最初、言ってました。『PTAはテロリストの集団だ』って。それならどうして、そこに身を置いてるんですか?」


「理想のためさ。それ以上でもそれ以下でもない。」


「理想?この前会った村で、村長を刺したの・・・先生ですよね?先生が言う理想のために、人を殺してもいいんですか?」


 私は先生をジっと見据えて言った。すると、先生は私から視線を少し逸らせると


「そうだ。理想のためなら、多少の犠牲はつきものなんだ。」


「私には理解できない。ってゆうかしたくない!犠牲ありきの理想の達成なんてっ!」


 思わず声が怒気をはらんでいた。すると先生は静かに言った。


「気持ちはわかる。それに、理解してくれとは言わない。それに、理解して欲しくないんだ、カエデだけには。アンタは優しい子だ、しかも異世界の人間だ。カエデの居た世界では、殺人っていうのは、うまくはいえないが、一生引きずらないといけない傷みたいなものだろ?アタシみたいに血にまみれた生活を送って欲しくない。アタシはもうダメだ。子供の時から暗殺者として、団に育てられてきたんだ。」


「それってどういう・・・?」


「アタシの小さい頃、村が人間の率いる軍隊に襲われた。父や母もそこで亡くなったんだ。生き残ったアタシは、まだ創設間もない団に拾われてな、最初は復讐のために必死に己の力を磨いたんだ。それに、後で聞いた話だが、アタシ達の村を襲った理由、それは近くの国の王がな、領地を広げるために、言うことを聞かない亜人の私達の粛清に乗り出したんだよ。国同士で力関係で優位に立つためだけに、アタシの村は滅ぼされたんだ。それを知って幼心に思ったんだ。国なんて一つでいいってな。多少いざこざは残るが、村が滅ぼされることはないって思った。だからそのために、国に対抗するために、力をつけている最中なのさ。」


「・・・。」


 私は何も言えず、ただ俯くことしかできないでいた。

 元の世界でも宗教や、国境のことで争い、戦争や、内戦に巻き込まれ命を落とす人が居るって聞いてる。

 日本では、それが他人事のような感じで捉えられているけど、この世界では当たり前のことなのだろうか。

 

「でも、アタシが生きている間に、理想が現実となる日は来ないかもしれない。でも、その(いしずえ)になることが出来ればそれでいいって思ってる。」


「先生・・・。」


 と、その時、先生が小さく『ウッ!』っと漏らすと頭を押さえた。


「先生っ!どうしたんですか?」


「いや、何でもないただの頭痛だ。と・・・話はここまで、とりあえずこれからアタシと一緒に来ないか?」


 先生が言った。一緒に行く?どこへ?


「今からですか?」


「あぁ、嫌とは言わせない。」


 そう言いつつ、私の腕を取った。咄嗟に振り払おうとしたけど、すごい力で掴まれていて、振り払うことが出来ない。

 背筋に冷たいものを感じつつも、違和感を感じていた。何だろう、急に人が変わったようにも思えた。


「一緒には行けません。たとえ行くとしても皆と一緒に行きます!離してくださいっ!」


 早くここから逃げないと!そう手を振り払おうとした時


「聞き分けの無い子だよぉ・・・カエデったら。昔かっから跳ねっ返りだけは強いんだから・・・。」


 顔を上げると、月明かりに照らされた先生の顔は、笑っていた。

 それは、ただの笑みではない、何かに取りつかれたようにも見えた。


「いっ・・・嫌っ!」


 無理に腕を抜こうとした時、何かに(つまず)いて地面に転がった。先生も私に巻き込まれるような形で、地面に転がっていた。

 私が起き上がると同時に、先生がゆっくりと起き上がってきた、そしてその手に持っているのは、銀色に光るナイフ。それをゆっくりと私に向けながら


「フフ、ちょっとだけ痛い思いをしてもらうことになりそうねぇ。大丈夫、殺しはしない、刺すのは脚だから、フフ。」


 このままではマズい、腰も抜けそうだ。でも、こんなピンチは幾度となく、乗り越えてきたじゃない。

 そう、先生と別れてすぐにレーベンに襲われた時だって、こんな状況だった。大丈夫、腕は動く、まだ、動くんだ。しかもここは草原。だったらやることは一つ。


「サブスタンスチェンジ!」


 地面に置いた掌から先生に向かって草の鞭が伸びていった。このまま縛り上げてレーベンに助けを呼ぼう。と、思ったのも柄の間

 

「サブスタンスチェンジ。」


 先生の声、それと同時に私の草の鞭が力を失い、地面に落ちた。


「な・・・ぜ・・・?」


「なぜもクソもあったもんかい。誰がアンタに変換術を教えたと思ってるんだ?ちょっと特別授業をしようかね。サブスタンスチェンジ!」


 その瞬間、草に触っていないはずの先生の方から、何本もの草の鞭が私に伸びると、あっという間に縛り上げられてしまった。それを見て、先生は笑いながら言った。


「変換術ってのは、こう使うんだよぉ。それじゃ、約束通り脚を刺しておこうかね。」


 と、ナイフを振り上げ、それを振り下ろす、それと同時に、私の脚に熱いものが走った。



「ああぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!」



 視線を落とすと、私の太もものあたりに、先生のナイフが刺さっていた。

 これが・・・これが『刺される』という感触なのか。言葉では言い表せない激痛。しかし縛られているため、どうしようもできない。

 私が出来ることといえば、涙を流す、それだけだった。するとまた


「もう一本、残ってるねぇ・・・。」


 先生がナイフを振り上げた。もうダメだ。ごめん、レーベン、マリブ、それにタケツル。みんなに注意しておきながら、一番軽はずみな事をしたのは私だった。

 次にくる痛みに備えて、体をこわばらせたその時


【ガキン!】


 固いものがぶつかる音、それと共に


「クッ・・・!」


 先生の声がした。恐る恐る目を開けると、少し離れたところ、そこに立っているのは真っ青な顔、レーベンが居た。

 しかも、少し離れているにも関わらず、『グルルルルル・・・』と、低く唸っているのが聞こえる。

 彼のこの声を聞くのは二度目、相当怒っている証拠だ。


「おい・・・お前、リステルの先生だってな。テメェはやっちゃいけねぇことをした。お前は仮にもリステルの親代わりなンだろ?その子供みてぇなヤツにナイフ突き立てるってのは心底気にくわねぇ!」


「貴様・・・。」


「本来ならここでバラバラにしてやりてぇが、コイツの親ってこったから、手加減してやるが、無事に済むとは思うなよ。」


「フン、術も使えん貴様ごときがアタシに指一本触れられるかな?」


「ケッ!指なんて触れる必要はねぇさ。剣技!キヌヒカリっ!」



【ズゴォっ!】



 レーベンの抜刀と共に、気迫の刃が先生を襲った、しかしそれは、彼女の体をかすったものの、空振りに終わった。


「クッ!面倒な技を持ってやがるな。しょうがない、ここは一時撤退しよう。」


 と、地面に降り立ったその時、地面から大きな手が突然現れ、それが先生の足首を掴むと同時に、タケツルの声がした。


「・・・甘いニャ。敵は一方向から来るとは限らんニャよ。」


「何っ!?」


 先生は慌てて身をよじるも、がっちりと掴まれた手に阻まれ、動けないでいた。

 声は確かにタケツルのものだけど、あの小さな体のどこに、先生を動けなくするパワーがあるのだろう、しかも、あの大きな手。本当にタケツルのものなのだろうか?


「レーベン、今ニャ!とっととやってしまうニャ!」


「でかしたタケツルっ!剣技!コシヒカリっ!」



【ズドォンっ!】



レーベンの放った一閃が、先生の体を捉えたように見えた。


  

 つづく 



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