【第36話・面会してみようか】
「初めまして、魔王です。」
「ヤバいよ、本物だよ。」
以前、テレビで見たことのあるまんまの『宮殿』。そして、これまたテレビで見たことのある、まんまの『謁見の間』。そして、これまた(以下略)の『玉座』に鎮座す魔王の前に、私達は居た。
その魔王の姿は、顔はレーベンを怖く、いかつくしたような感じ、でっかくて、黒を基調としたローブみたいな物を着ていて、頭から角なんか生えてて、いかにも『危険ですよー、噛み殺しちゃいますよー』みたいな感じだ。
そんな風体な上、今居る所は無駄に大きい長方形の部屋、くり抜かれただけの窓の外の景色は、どんよりとした暗闇の世界だった。
そして、室内に目をやると、壁には、馬やら虎やら、はたまた見たこともない生き物が、鎧兜の姿で綺麗に整列している。
それがまた、私の恐怖を増幅させていた。と、その時、再び魔王と名乗ったソレが、口を開いた。
「このような場所に来客とは珍しい、ここにどのような御用かな?」
御用も何も、そんなものあるはずはない。
とりあえず私の目的は、ただただ日本に還ること。そして、寄り道的な感じで先生に会いに行くって用事はあるけど、『魔王を倒す』なんて目的は、これっぽちも無い。
そんなもんは、金髪ビューティフォーの幼馴染の嫁さんを連れた、どこぞの半裸の男の仕事だ。
私が頭を抱えていると、魔王はゆっくりと立ち上がり、玉座から下へ続く階段を、私達の方に向かって降りてきた。
「やややややばいってレーベンっ!今、私達のレベルっていくつだっけ?いや、それよりもアンタ、『まじんぎり』とか『はやぶさぎり』とか覚えてないの?とはいえ、魔王と戦うなら光の玉よね、うっかり持ってなかったかしら・・・。いや、その前に草の束・・・草の束・・・。」
変換師の鞄の中を、半狂乱になりながらまさぐっていると
「リステル、落ち着け。ってゆうか言ってることの半分以上、意味不明だぞ。」
おなかが空いている時以外、どんな状況でも冷静沈着。レーベンが落ち着いた声を出した。
「ばかぁ!何落ち着いてんのよ!いい?魔王ったら大概ラスボスなのよ!村々を襲って、金品を巻き上げ、この世に混沌と破壊をもたらす存在なの!それを倒すためには、『勇者』っていう設定に無茶ぶりされた人が、全国を回って各村々で、『伝説の武器』を集めつつ、賢者の石や、召喚魔法でガチガチに武装して。それでやっと乗り込める場所なのよ!今の私達じゃ、場違い甚だしいの!おわかり?」
すると
「リステル、それはお前の世界で・・・の話だろ?」
レーベンったら『やれやれ・・・』みたいな顔をしていた。それに反論しようとしたその時だった。
「何!?そんな魔王の風上にもおけない輩が居るのか!よし、そこのお前、この娘と一緒に行って、討伐して来い!」
驚きの声を上げる魔王、そしてその指示に、両脇から、牛の姿で、ごっつい鎧を着た側近が『ハッ!』と、言うと、私達のすぐ後ろに控えた。
「あ・・・?れ・・・?何か話の展開がおかしいんだけど。」
何ですぐ襲って来ないんだろ?そういえば、この『謁見の間』的なところに通されてしばらくたつけど、メラ○ーマ一つ放ってくる気配がない。
すると、私の横で、知らないうちに跪いていたレーベンが言った。
「魔王様、私共はただの変換師の一行でございます。旅の途中、うっかり迷い込んでしまいまして、そこをこの城の衛兵に見つけていただき、通された次第です。そして、こちらの娘は名をリステルと言い、樹木の変換師ですが、元は異世界から迷い込んで来た人間でして、多少記憶が混同しております。そのせいか、たまに意味不明な事を申しますが、悪意はありません。お気に障ったのならお詫び申し上げます。」
魔王の前でも落ち着いた感じで、堂々と話していた。
そうだ、そういえば、ここに連れてこられる途中、レッド○リーマーにそっくりな悪魔みたいなものに襲われた上に拉致されて、気が動転しているところ、あれよあれよといううちに、謁見の間まで連れてこられたんだっけ。
「そうか、異世界とはな、それは大変な経験をしたな。」
レーベンの言葉を疑うことなく信じきって、大きく頷く魔王。
さんざんこの世界の人に会って、私が異世界の人間ということを、幾度となく話てきたけど、この世界の住人って、異世界に対してオープンすぎやしないか?日本だったら指さして笑われるか、警察に連れてかれるぞ。
それにしても、魔王の様子が変だ。この部屋の中のオブジェを見る限り、おどろおどろしいというか、禍々(まがまが)しいというか、悪の権化というポジションがしっくりくるはず、なのに何この紳士的な態度。そう思っていると
「娘、リステルと言ったな、少し話を聞きたい。これから部屋を用意させるから、用意が出来次第、私の所に来るがよい。」
魔王がそう言うと、私達に背を向けた。
□■□
「レーベン、今日ばかりはアンタの落ち着きようにちょっと呆れたわ。」
「何でだ?大人ならTPОをわきまえるのが当然じゃないか。お前こそ、珍しく大人げなかったぞ。一体どうしたんだ?」
「だってー!魔王だよ?さっきもチラっと言ったけど、悪の権化だよ?あの時、『死』って言葉が見え隠れしたわよ。」
ここは魔王が部屋を用意している間にと、通された客間。そこには私達三人だけだった。
「ねー、リステルちゃんのお話、さっきから聞いていて不思議に思ったんだけどさー、この辺りは『魔族』ってのが居るから『魔王』っていうのが居ても不思議じゃないと思うんだけど。」
さっきまで黙っていたマリブが口を開く。
「魔・・・族・・・?」
「そう。数が少ないけど、ちゃんと居るよー。ってゆうかリステルちゃんの世界も居たでしょ?魔族。」
「居るわけないでしょ?私の世界には、人間しか存在しないの。そもそも、獣人だって、精霊だってこの世界に来てからよ。」
「えー、何かつまんない世界だね。」
「つまんない言うな。私からしたら、この世界が無茶苦茶なのよ。」
その後、三人でやいのやいの話をしていると、客間のドアがゆっくりと開き、誰かが入ってきた。
そこに目をやると、何かちょっと、露出の高い女性が入ってきた。
何かどっかで見たことのあるまんまの姿だなぁ、名前は思い出せないけど、チラっと見たのが確か、口から氷を吐くモコっとしたアザラシみたいなのと戦っていたんだよな、背中にコウモリの羽を生やして、手をヒラヒラさせてた感じ。
あぁそうだ!何か光の玉を出しながら『ポークビッツ!』とかなんとか言ってたのがやけに記憶に残ってるなぁ。でも名前なわけないわよね。
「お客さま、部屋の準備が整いました。魔王様がお待ちです、どうぞこちらへ。」
ポークビッツ(結局、名前を思い出せなかったのでコレに決定)が私達に部屋を出るように促し、私達が出るのを見計らうと、扉を閉めて、前に立って歩き出した。
その後を無言でついて行く。広く、長い廊下を延々と歩いた。
周りのオブジェから、あまり居心地の良いものではなかったけど、いきなり襲われるような気配はなかったので、来た頃よりは、ずいぶんと落ち着きを取り戻せていた。
ややしばらく歩いた後、ポークビッツが立ち止り、すぐ横のドアをノックして
「魔王様、連れてまいりました。」
すると中から
「ご苦労。それでは下がってよいぞ」
魔王の声、それに『かしこまりました。』とだけ言うと、ポークビッツの姿がスっと消えた。
それに少し驚いたものの、マリブも同じようなことが出来るのを何度か見ていたので、悲鳴を上げるまではいかなかった。
・・・だんだんこの世界に毒されてるな、私。
□■□
「ふむ・・・そうか。」
私の話をひとしきり聞いた後、テーブルを挟んで座っている魔王が、大きく頷いていた。
そして、魔王を見て思う。付き合いはさっきの謁見の間的な場所と、ここで私が話した少しの間だけど、どうやら悪ではなさそうだ。
どっちかというと、レーベン寄り、常識人というか、紳士的というか。どんなに待っても、小さな村一つすら襲わなそうだ。
そんな魔王の態度に、ちょっと疑問をぶつけてみた。
「あの・・・ちょっといいですか?失礼な質問かもしれませんが。」
「かまわんよ。どうぞ、お嬢さん。」
「この世界・・・いや、魔王の仕事ってどんなことするんですか?」
すると、魔王は『ハハハ・・・』と笑って言った
「人間にも『王』というものは居るだろう?人間をまとめるのが『王』なら、魔族をまとめるのが『魔王』というだけだ。それ以上でもそれ以下でも無い。おわかりか?」
「おわかりです。」
何か安心した。姿格好はアレだけど、ただの王様なのか。その言葉にホっと胸を撫で下ろしたその時
「それにしても何で君達は我が領地に侵入してきたのかね?まぁ、侵入だけならまだよい。君達が居たところ、あそこは瘴気が漂っていて危険なのだ。見回りの者が見つけたから良かったものの、あのまま進んでいたら、命の保証は無かったぞ。」
魔王がそう言った。
そうなんだ、あのレッド○リーマーにそっくりなあの赤いのは、私達を助けてくれたんだ。
人は・・・いや、魔族は見かけによらないのね。
「すみません。目的地に行くためには、この森を越えなければならず、やむなく侵入した次第であります。いつの間にか道に迷ってしまい、あの場所に居ました。」
そうだった。私達は今、PTAを追っている。とはいえ、戦うためじゃない、あくまで、先生に一目会って、話を聞き、真実を知るため。
そのために、あれからPTAの情報を集め、あの街に小規模ながら根城があるということを突き止め、向かうところをここに連れてこられたんだったっけ。
「あぁ、あの森の先の街か、しかし・・・あの街に近づくのは危険だということは知っているのか?もしかしてあの団体の加入希望者か?それならここを通すわけにはいかないな。」
PTAという単語が出た瞬間、表情が曇った。さすが魔王だ、怒るとやっぱちょっと怖い。
「ちちちち違います!ただ・・・人に会いたいんです。日本に還る前に、どうしても。」
「ほう。」
私は話した。先生のこと、そして、この間あった事件のこと。そして、私の目の前で人を殺めたことも。
話が進むうち、体の中から熱いものが込み上げてきた。未だ、あの先生が、いや、あの姉御肌で、優しかった先生が、人を殺し、テロリストの集団に組みしていることが、悔しかったし、悲しかった。
何か深い事情があるのかもしれない、もしかしたら脅されて、加担しているだけかもしれない。私の中で色んな思いが交錯していった。
その時不意に魔王の声がした。
「娘・・・泣いているのに気付いてないようだな。よほど衝撃であったのであろうな。事情はわかった。私もその件について、手を貸そう。」
「ふえっ!?」
慌てて目を擦り、聞き返すと
「とりあえず、私の配下を一人、お前たちに預けよう。好きに使ってくれ。」
そう言うと、さっきのエロいお姉さんを呼び、なにやら耳打ちした。すると無言で頷くと、どこかへと消えていく。
そしてしばらくもしないうちに、扉がノックされた。それに
「よし、入れ。」
魔王の声に、何かが入ってきて、魔王の横に控えた。
その姿を見てちょっと驚いた。立って歩いていることについてはもう、ツッコミは入れるつもりはないけど、どう見ても黒と茶の縞模様のネコだ。
膝の上に乗せて、喉辺りを撫でたら絶対『ゴロゴロ』とか言うだろう。
そして、そのネコが口を開いた。
「魔王様、お呼びかニャ?」
『ニャ。』って言ったぁぁぁぁぁっ!もう・・・もう、ガチでネコだ。ガチガチのベタベタだ。もうネコ以外の何物でもない。
私は心の中で、ツッコミをフルスイングで何度もしていた。
「あぁ、これからお前はこの物達と同行するのだ。何かあったらすぐに知らせるのだぞ。お前の仕事はあの街の潜入捜査だ。わかったな。」
すると、魔王の言葉にネコが頭を深々と下げながら言った。
「わかりましたニャ、命に代えても魔王様の命、果たしてみせますニャ。」
その言葉に魔王は、私達を向きなおして言った。
「そういうことだ、こ奴はこう見えても結構使えるヤツでな、足手まといになることは無いだろう。それで・・・名前は何だったかな。」
「魔王様、酷いニャ、ボクはタケツル。タケツルだニャ。」
「そうかすまない、それじゃリステルに、レーベン、そしてマリブ、タケツルのことを頼んだぞ。」
そう言うと、タケツルと呼ばれたネコが、ペコリと頭を下げた。
アレだ、ファンタジーの世界でよく言う、『使い魔』的ポジションか。いきなりの旅の仲間の増加は軽く不安だけど、魔王様の折り紙つきなら大丈夫よね。
「フラっと現れた私達のために、わざわざこんなことまでして下さって、ありがとうございます。でも・・・どうして?」
そう、どうして魔王は私達のために、ここまでしてくれるのだろう。すると
「我々もPTAには手を焼いていてな。動きを知るために、色々と詳しい情報を集めようとしていたところなのだよ。それに・・・」
「それに?」
「レディに目の前で泣かれたら、男として放っておけないだろ?」
そう言うと、はにかんだように笑った。その笑顔を見て思った。
・・・畜生。魔王のクセに、シブすぎるんだけど。
つづく
~今日のお酒の紹介のコーナー~
『竹鶴』
ザ・ウィスキーですね。(あくまでワタクシの中で・・・のお話ですが)
居酒屋や、スナック、パブ、クラブまで幅広く置いてあるお酒です。
さすがのワタクシもこればっかりは飲んだことがあります。ま、それでもやっぱり、苦手なものは苦手なんですが。
ウィスキー好きの友人が言うところによると
「クセがなくて、万人に受け入れられるんじゃないかなぁ。」
って言ってました。
とにもかくにも、どなたでも見る機会があるウィスキーじゃなかろうかと思いますよ。




