【第34話・再会してみようか その4】
「兄ぃ!もう走れないでやす!一休みたいでやすぅ!」
俺の後ろから、マッカイの声がした。それを無視して、俺は走り続ける。
チッ!しかし何で、俺等がこんなことしなきゃならねぇんだよ。
それに、姿は見えねぇが、すぐ側には俺等の目の前で、鉄格子を折り曲げた『マリブ』ってのが、見張っているンだよな•••。
「マッカイ!モタモタすんじゃねぇぞ!俺等が逃げた事をあの村の連中に知られたら、証拠隠滅して、逃げるかもしれねぇ。そうなったら、俺等に残された道は•••、わかるよな、マッカイ。」
そう、あそこを出る前、レーベンとやらが言っていた事を、思い出していた。
『いいか?俺の記憶だと、ここから近くに大きな街があったはずなンだ。そこ行って、役人の連中を引っ張って来い。脱獄犯として、顔が知られてるお前等なら、目の色変えて追ってくるハズだ。巧く誘導して、金を偽造してる現場に突っ込んじまえ。後は、アドリブで立ち回るんだ、わかるな?くどいようだが、お前等が助かる道は、これしかねぇンだ。ぬかるなよ。』
「なぁにが『ぬかるなよ。』だ、ナメやがって•••。」
思わず呟く、そして、目の前には、レーベンが言った通り、高い壁に囲まれた大きな街が広がり、門の前には番兵、そしてその横には、詰所みたいな物が見えた。
「チッ!ここまで来たら、やるしなねぇっ!マッカイ、気合い入れろよっ!」
後ろを走っている、かなりへばりぎみのマッカイに一声かけると、一直線に番兵に向って行った。
□■□
「ねぇレーベン、あいつら、ちゃんとやってくれるかしら。」
ホワイトとマッカイが走り去る後ろ姿を眺めながら、呟くように言うと
「まぁ、大丈夫だろ?それに、マリブが付いて行ってるって、信じこんでるみたいだしよ。」
「えっ•••!?マリブ、付いて行ってないの?」
「まぁな、おい、もう出て来ていいぜ。」
レーベンの声に
「んー•••もういいのー•••?」
声がすると同時に、マリブが姿を現した。
「ちょっ•••!ちょっと待ってよ、さっきアンタ言ったわよね!?『コイツを見張りとしてつける』って。その後すぐに、マリブが姿を消して。あ、もしかして、あの時耳打ちしてたのって•••。」
「そうだ、コイツに『ここに居ろよ』って言ったんだよ。なぁ。」
するとマリブも、レーベンを見ながら頷いた。
「でもどうして•••?あの二人を野放しにしたようなもんでしょ?ここに戻って来る保証はないわよ。」
「そン時はそン時だ。まぁでも、散々脅しておいたからな、ちゃんと戻って来るだろうさ。それに、役人引っ張ってくンなら、アイツ等がうってつけなんだ、俺等が言ったって、村ぐるみの犯罪で、規模がデカすぎるし、何せ証拠も偽造された金貨しか無ぇからイマイチ弱いしな、四の五の言わせねぇで引っ張って来るには、これしか方法が無かったのさ。」
「それなら尚更、マリブを付けた方が、良かったんじゃないの?」
「ダメだな。うっかり誰かが来て、一人減ってンのがバレてみろ、どう説明するよ。あいつらはケチな悪党だって言えば、獣人だってのあるから、鉄格子曲げての脱獄も不思議じゃねぇし、それに、役人に報告に行くなんて、夢にも思わんだろ?今怖いのは、証拠隠滅と、技術屋が残ることだ。工場をなんぼブッ壊しても、面子が残ってたら意味無ぇんだ。根元から絶たないと、またどっかで偽金作りを始めンぞ。」
「そっか、わかった、そうしたら私達はそれまで何したらいいの?」
レーベンに言うと
「まぁ、俺等は特にやることが無ぇな。その時が来るまで、ゆっくり寝てるとするか。」
彼はそう言うと、地面にゴロリと横になった。
『果報は寝て待て』•••か。
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「せんだ!」
「みつお!」
「「ナハナハナハ!」」
あれからどれだけ時間が経ったかわからない。どんよりとした空気が漂う中、暇を潰していた。
途中、巡回の人が来て、ホワイトとマッカイが居ない事で、軽く騒ぎになったものの、レーベンが小悪党だと説明したら、何かすぐに収まったようだ。
あまりに暇だったので三人で始めた『せんだみつおゲーム』だったのだが•••
「なぁリステル、これ、三人でやるにはちょっと無理無ぇか?」
「•••そだね。」
仕方ない、それじゃあ次は、拳と拳くっつけて、親指立てるアレでもやろうか。
•••ってゆうか、アレの正式名称って、何て言うんだろ。
「じゃあ次は•••」
と、言いかけたその時、外が、騒がしくなった。
ここは地下、外の音はあまり聞こえない。しかし、大勢の人が行き交う足音が、ここが地下だからだろうか、地面を通して響いていた。
「やっと戻ってきやがったか。」
レーベンが呟く。そして
「なぁ、ちょっと外見てきてくれねぇか?」
マリブを見た。すると、『わかった。』と言うと、彼女の姿がスーっと消える。ややしばらくして、マリブが戻って来て言った。
「前に出てったレーベンみたいな人が居たよ。何か、追いかけられてるみたいだけど。後、村の人達があわててる。」
良かった。ちゃんと戻って来たんだ。
「マリブ、ありがとうな。それじゃ今度は俺等の番だ、この騒ぎに乗じて、首謀者を捕まえるとしますかね。まぁ、十中八九、あの村長なンだろうけどな。」
レーベンが立ち上がりながら、マリブの頭を撫でた。すると
「今度はこっち?わかった。」
そう言うと、髪の毛を樹に変えたマリブが、それを鉄格子の隙間に差し込んだ。
□■□
「もう、走れないでやすっ、胸の中が爆発しそうでやすっ!」
「馬鹿野郎っ!ここまで来たんだ、ゴールまでもう少しなんだよ。」
ヨロヨロと走るマッカイを見て、檄を飛ばす。そして、その後ろからは、役人が20人前後だろうか、怒声を上げて、追いかけてきていた。
それを見て思う、最初はちょっと疑っていたものの、脱獄の罪ってのは死罪なンだな。じゃなけりゃ、こんなに追いかけて来る訳がねぇ。
さっさとあそこに逃げ込まねぇと。確か•••村の東側、山場の斜面にある、一見ただの洞窟にしか見えないが、一歩中に入るとあら不思議、綺麗に整備された何かの工場だ。
大勢の役人を引き連れ、山の斜面を駆け上がり、洞窟の中へ飛び込んだ。
俺等に続いて、役人達が入る。それと共に、彼等が目の前の光景にざわつき始めた。作戦成功。それを見計らって大声で言った。
「うっかり偽金作りの現場を見つけてしまった。どーしよー。」
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「うまくいったようだな。」
ホワイトとマッカイに続いて、なだれ込む人達を見て、レーベンが呟いた。
うまく行きすぎと言っても過言ではないけど、これでPTAがここを使う事は、できなくなるんだろうな。
「おい、リステル。ぼさっとしているヒマぁ無ぇぞ、俺達は首謀者の確保だ。」
そう言うと、レーベンが不意に駆け出した。
その走りに迷いはない。あたかも、村長の居場所をわかっているような、そんな感じすらおぼえる。
多分、匂いか何かで判断しているんだろうな、たまに止まっては、鼻をひくつかせ、匂いを嗅いでいる素振りを見せる。
そんな彼の後ろを、マリブと二人走った。すると、遠くではっきりとは見えなかったけど、覚えのある顔、あれは間違いなく、村長だ。
しかし、何か様子が変だ。逃げるどころか、目の前に立ちはだかった何者かに対し、怯えたように、後ずさりをしながら、叫んでいた。
「やめろっ!頼む!やめてくれ!」
怯える男に近づくにつれ、二人の姿がはっきりと見えてきた。
一人は、間違くこの村の村長。そして、もう一人の姿を確認したその時、一瞬、呼吸が止まった。なぜなら、その人、いやこの世界では『亜人』と呼ばれる種族だったからだ。
しかも、見覚えのある顔だ。
「・・・先生。」
私は思わず呟いていた。そして、私が見守る中その亜人は、持っていた細身の剣を、振り上げた。
「まっ・・・待ってくれ!ワシは仲間じゃろ!あの時、誓ったはずじゃ!ヌシらの仲間、そう・・・」
必至で命乞いをする村長の言葉を遮るように、無情にも亜人の手に持った剣が、胸に突きたてられた。
「ガフッ・・・!PT・・・えー・・・。」
ゆっくりと崩れ落ちる村長、亜人はその生気を失った体から、剣を引き抜くと、その血を振り落とすように払った。
地面に村長の血が、ベチャっと広がる
「うそ・・・でしょ?」
私は目の前で起こった出来事が、信じられなかった。
一つは、目の前でリアルに人が死んだこと。そして、二つ目は命を奪った犯人が、先生に良く似ていたこと。
ううん、もしかしたら、他人の空似かもしれない。亜人はかなり人寄りの容姿とはいえ、獣に近い。
あれが、先生だなんてことはありえない。それに、彼女は今でも、私がこの世界に来て、初めて訪れた、ここからずっと離れた村で、変換師の先生をしているハズなんだ。
それに、先生は言っていた。『私はここを離れるわけにはいかない。』そして、『PTAはただのテロリスト集団だ。』って。
そんなわけはない、そんなわけはないんだ。
色んな思いが交錯し、目の前に殺人鬼が居るという危険を忘れ、ボーっと立ち尽くすことしか出来ないでいると、不意に亜人が顔を上げた。
そして、私の事に気づくと、一瞬、体が止まり、すぐに私から目をそむけると、背を向けて、歩きだした。
私はその背中に叫びたかった。『先生!』と。
でも、どうしてもそれは出来ずにいた。もし、本当に先生なら、彼女はテロリスト集団の一員という、受け入れがたい事実を突きつけられることになる。
どうせなら、うやむやのままにしたい。そんな私の弱い心が、言葉をグっと飲み込ませた。
そのまま何も言わずに去ろうとする亜人を見守っていると、どこからか、もう一人亜人がやってきた。そして、彼女に言った。
「カリラ、村長はちゃんと始末したようだな。さっさと引き揚げるぞ。」
!!
『カリラ』・・・カリラって・・・先生の・・・名前・・・。
まさか、どうして?どうしてなの?PTAって、テロリストだって、言ってたじゃん。近寄るなって、言ってたじゃん。憎んでいるような顔・・・してたじゃん。どうして?どうしてよ!
突然、自分の体が熱くなり、そしてどこか、冷え切ったような感覚を覚えた。
それと共に、頭痛とも吐き気とも思える、けだるさ、そして、腹の中では胃の中の物が、全てひっくり返るような感覚。
信じていた者に裏切られた、体の底から湧きあがる、怒りにも、悲しみにも似た何かを吐き出すように、私は叫んでいた。
「うぅああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
とめどなく涙が流れ、自分の意思ではもう、止めることができずにいた。
錯乱するということは、こういうことなのだろう、半分薄れゆく意識の中で、声が聞こえた。
「何だ?あの女、村の者か?カリラ、お前知っているか?」
「いや、知らない顔だ。」
「とりあえず、女の傍にいる三人もまとめて始末しておくか?」
「やめておけ、さっさと戻るぞ。」
・・・先生、どうして?
つづく




