【第31話・再会してみようか その1】
「ガセ・・・?」
「えぇまぁ、お恥ずかしいことで。」
村・・・というよりは、街に近い規模の集落、目の前にいるこの村の村長が、バツの悪い顔で言った。
やっとのことで、海を渡り、目的の村、そう、村人が忽然と消えたという噂の場所までやってきて、この結果だ。
まぁ、嫌な予感はしていた、村の入口まで来たとき、普通に人々が行き交っていたからだ。
そんなわけで、村見物もそこそこに、怪奇現象が流れた原因を聞くため、村長に会いに行った。
とはいえ、理由を聞かれたとき、本当の事を言うと間違いなく変な子だと思われるので、その事は伏せたのだけど。
表向きには怪奇現象マニアとして、この村に起こったことに興味があると告げた時、村長に言われた言葉が冒頭だ。
呆然とする私の横から、レーベンが口を挟んだ。
「で?何でこんなことになったんだ?」
すると、村長は、突然口を挟んできたフードを目深に被った彼の風体に少しいぶかしげな顔をしながら言った。
「えぇ、PTAの声明文を受けましてな、声明を出してから村襲撃まで、奴等の迅速な行動は有名でして、被害が出ない内に、即刻村人全員に避難勧告を出し、村人達が一時的に全員避難したことが捻じ曲がって伝わってしまい、怪奇現象騒ぎとして周囲の村々に流れたのでしょう。」
PTA・・・か、そういえば、先生と別れ際、そんな話をしていたような、ってゆうかそんな設定があったことすら、すっかり忘れてたわ。
それにしても、話が出てからたまたまかもしれないけど、ずっと音沙汰無しって、私の生活が物語か何かだったら、設定忘れちゃっていた、ってパターンよね。
改めて考えてみると、この名称、テロリストっていうより、父母会よね?あまり危険じゃ・・・いやいやいや、ある意味、最強なのかもしれないな。
そんな私の考えをよそに、村長と、レーベンが話していた。
「PTA・・・か、いい噂は聞かねぇな。」
「はい、でもどうして、私共のような、何も無い村に、声明文が送られて来たのか、甚だ疑問でして。」
「まぁ、過激な思想を持ったヤツの考えなんて、わからんさ。それで?実際のところ、被害はあったのかい?」
「それが・・・全く何も無いんですよ、多少、村人の家の中を物色したみたいな跡があったくらいですかな、しかし不思議なことに、金品や貴重品には、一切、手をつけられていなかったのです。噂に聞くPTAって団体は過激な事を好むと聞いていますが、意外と紳士的な集団なのかもしれませんね。」
「そりゃ意外だな。俺もアイツ等には襲われたことがあンだがな。そうは見えなかったものの・・・うーむ。」
その後も、PTAに関して、大人二人の難しい会話が続いていたその時、私の手を引かれると同時に声がした。
「ねーねー、リステルちゃん、何かおじさんたちの話、難しくてよくわからないからさー、村の中見て回ろうよー」
この前の海賊騒ぎの後、力を使い果たし、すっかり元の子供の姿に戻った樹木の精霊マリブが、私の裾を引っ張っていた。
確かに、PTAの話はちょっと気になったものの、話を聞くところによると、アテが外れたみたいだ。それに、もうここには来ないのだろう。
そして最初、怪奇現象云々の噂から、次元の狭間的な物があるんじゃないかと期待して来たけど、どうやらどこにでもあるただの村らしい。
軽く村の中を見て回って次に行かないとね。そう思いレーベンに言った。
「レーベン、もう行こうよ。」
「あぁ、そうだな。とりあえず、めぼしいところだけ見て回って、次に行くとするか。マリブ、待たせてすまなかったな。そんじゃ村長さんよ、ありがとうな。」
そう、別れを告げて、村長宅を後にした。
□■□
「そういえばさ、さっき聞きそびれたんだけど・・・PTAって、テロリストの集団だっていうことはわかったんだけどさ、ぶっちゃけ目的は何なの?」
とりあえず、と、村の酒場に入り、食事を頼んで、遅めの昼食を摂りつつ、レーベンに訊いた。
すると
「もがものすごうだぞくえくさ!」
食い意地がはっているレーベン、口に物を一杯に詰め込んだまま、喋り出した。
あーあぁ、テーブルのあちこちに、食べ物のカケラが飛び散っちゃってるわ、マリブなんて、大人しく食べてるのに。
ここらへんに関しては、レーベンが一番子供よね・・・と。
「あー、はいはい。急に聞いて悪かったわよ。とりあえず、ごっくんしてから喋ろうね。」
すると、ややしばらくして、思い切り食べ物を飲み込んだレーベンが、『フゥ・・・』と、ため息を一つつくと、語り始めた。
「『パーフェクト・タイム・アソシエイション』略してPTA、ま、名目上は『完全完璧な時間を創ろう』そういう目的で集まっている組織だな。世の中から汚物を完全に排除して、悩み事や、争い事が無い、安心した暮らしを送れるといった世界を作るという目的で活動してンだとよ。まぁ、やっていることは、破壊活動だけどな。最初はマトモに活動していたらしいけどよ、組織がデカくなるにつれ、活動資金も要るんだろうな、難癖つけてはめぼしい街を脅して金品を要求。それに応えられないとなれば、組織に反逆したっていう汚名を着せて、大義名分の元、破壊活動をやるっていうタチの悪い連中さ。組織があまりにもデカ過ぎるのか知らねぇが、そこそこの軍隊じゃ太刀打ち出来ねぇんだ。ガセかもしれんが、以前、どこかの王国が滅ぼされてるんだとよ。その噂が広まって、自分のところが脅かされない限り、手を出そうとしねぇ。ぶっちゃけ野放し状態だな。」
「ふーん、どこの世界にもあるのね、そんなことって。それにしても、この世界、英語みたいなものもあるのね、突っ込みどころ満載で、どこから処理していいか、わからなくなるわ。」
「『エイゴ』?何だそりゃ?また元の世界の話か?まぁいい、問題のPTAだが、構成員の中には、ただ暴れたいがために、組織に参加する連中もいるってことだから、完全に迷走しきっちまってる。とはいえ、トップは誰なのか、どこで何やってんのか、さっぱりわからんけどな。」
「それにしても、詳しいのね、レーベン。もしかして、その組織に・・・」
「居たことあるわけねぇだろ!そんな胡散臭いところ。昔、用心棒みたいな仕事をやってた頃、ちょっと関わったことがあってな。」
そう、レーベンが言うと、少し悲しそうな目をして、遠くを見た
「何があったの?」
「あぁ、今思い出しても、ゾっとするな。酷ぇ有様だったんだ。その時、俺は用心棒みたいなことをやっててな、主の屋敷がいきなり襲われてよ、用心棒仲間と必死に戦ったんだ。どのくらい戦っていたかは覚えてねぇが、気がついた時には、目の前が血の海でよ、味方なのか敵なの、かわからねぇ死体に囲まれて、一人で立ってた。ただ、今でもはっきりと覚えてるのはな、俺の雇い主が、血まみれで、生きてるのか、死んでいるのかわからないまま、引きずられていく姿だった。本当は護んなきゃいけねぇ身なンだがよ、次から次へとわいてくる敵に絶望感を感じながら戦っていたせいもあってな、黙って見てることしか出来ねぇでいたんだ。それにしても、ホント、良く生き残ったもんだ。」
「レーベン・・・何か・・・ごめん。」
「何もリステルが謝ることはねぇって、それに昔の話だ。あの頃は、まだ技術的にも未熟だったしよ、それに、カネで雇われた寄せ集めの集団だ、団結なんて、あったもんじゃねぇ。なるべくしてなった、そう今では思ってる。」
「そっか・・。」
レーベンも色々あったんだな。とはいえ、PTAというのは、かなり暴力的な集団なのね。
彼ですら、敵わなかったんだ。うっかり出会おうものなら、命の保証は無いんだな。以前、先生が言っていたように、この村からは、早く出た方がいいみたい。
しかも、子供の姿の時は、ちょっと五月蝿いマリブも、この場の雰囲気を察してなのか、ちょっと俯いたまま、黙ってしまっている。
少し重くなった雰囲気を振り払うように、元気に皆に言った。
「ま、とりあえず、お腹も満たされたし、ちゃっちゃと村を探索しましょ。」
すると、マリブが顔を上げて、私に言った。
「うん、わかった。それでリステルちゃん、これからどこ行くの?」
「そうね、やっぱり探索となれば、村の東側にある森の中かな。ここから近いし。やっぱ、次元の狭間なんて迷惑千万なものが現れるったら、人気の無いところでしょ?それじゃ・・・」
と、立ち上がろうとした時、不意に誰かに呼び止められた。
「ちょっとそこのお客様。」
「はい?」
振り向くと、見慣れないおじさんが笑顔で立っていた。手にはお盆のようなもの、その上にはグラスが三つ。
「当店をご利用いただき、ありがとうございます。見たところ、旅のお方ですな?」
そう言いつつ、私達の前にグラスを置いた。
「え?頼んでませんけど。」
「当店からのサービスでございます。これは、これから村の特産品として、売り出そうとしているジュースでして、旅の方にも是非感想を・・・というわけでして。いやはや。」
そう言いつつ、暑くもないのに、汗を拭いていた。
なんだろう、この人、汗っかきさんなのかな?そう思い、一口つけた。
すると、口の中にちょっとドロっとした感触と共に、何とも言えない、甘い香り、トロピカルフルーツを彷彿させるような味が広がった。
「あれ?ちょっと美味しい!コレ!」
思わず声を上げる私に、レーベンと、マリブも次々と口をつけた。
「美味しい!」
「うん、うまいな。」
レーベンも、マリブも喜んでいる。これは個人的に、ちょっと買いだめしておきたい飲みのもだな。
そう思った時、急にレーベンの顔と、マリブの顔が歪んで見えた。
頭の中が、ボーっとして、まぶたが重くなってきている。あれ?一体私、どうしちゃったんだろう。
その時、何か嫌な予感が走り、変換師の鞄を、見えないように、服の中に突っ込んだ。
どんどんと、薄れてゆく意識。次第に座っていることが、億劫になり、机に突っ伏したとき、かすかに男の声が響いた。
「・・・長、やりましたよ。コイツ等の始末、どうしますか?」
□■□
・・・。
・・・。
冷たっ!
頬に何か、冷たい物が当たり、それで目を覚ました。
顔を上げ、薄ぼんやりとした光の中、周囲を見回す。無骨な造りの壁に、石の床、そして、鉄格子。
「ここ・・・牢屋なの?」
部屋の外の壁に、ロウソクがチロチロと、灯っていた。
「ウソ・・・でしょ?」
状況を把握した途端、鉄格子に駆け寄ると、それを掴んで叫んでいた。
「ちょっと!私が何したって言うのよ!早くココから出してよ!」
押しても引いてもビクともしないのは、わかっていたが、そうすることしか出来なかった。ややしばらくして、冷静になったその時、思わず呟いていた。
「はは、やっぱりこういうシュチュエーションの時は、鉄格子掴んで叫んじゃうのか。やっぱ私もベタだなぁ。」
良く考えりたら、RPGで、よくあるシュチュエーションよね。
ゲームでイベントとして、こういう状況に陥ったとき、『とりあえず、フラグ立てるために、鉄格子の前で○ボタンよね。まぁ、無駄なんだけどさ。』、なんて思っていたけど、実際、自分がこういう目にあうとは。
大概、不自然に置かれた壺の中に、有益なアイテムとか、地面を調べたら隠し階段とか、オーリンとかいうオッサンとか、居そうなものだけど・・・
そんなことは、ないわね。何考えてんだろ、私。と、その時
「リステル、大丈夫か?」
レーベンの声がした。とりあえず、彼が居た。それだけで、何か安心出来るのは、何でだろう。
咄嗟に振り返り、彼を見た。剣は取られているものの、どこにも怪我は、無さそうだ。
「レーベンこそ大丈夫?それにマリブは?」
「あぁ、隅でまだ寝てる。荷物は取られちまったがな。はてさて・・・どうしたものか。」
こんな時にも、マイペースな彼。いつもの落ち着いた喋り方だ。
慌てたり、落ち込んだ様子は微塵も見えなかった。そりゃそうか、酒場で聞いた話からすると、レーベンにしては、生ぬるいくらいだもんな。
「何か・・・この村、胡散臭いわね。多分、しばらくもしないうちに、接触してくるはずよ。動くのはそれから、ってとこかしら。」
「そうだな、俺も同じこと考えてた。ま、やっこさんの出方を見ますかね。」
レーベンがそう言うとまた、ゴロリと横になった。
私も、その背中に寄り添うように、彼にくっついて、横になり、とにかく待つことにした。
つづく
‐ここから後書き的なものです‐
すっかり更新が停滞しておりました。
楽しみにしてくれていた方々|(ってかそんな人居るのか・・・?)すみませんです。
ワタクシ、一応社会人ですので、仕事が忙しいということもあり、すっかりご無沙汰しておりました。
次は近いうちにあげられたらいいなぁ、なんて思っておる次第です。
それではまた、作者でした。




