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【第30話・遭遇してみようか その4】


 私の目の前で、マリブがキャプテン・モルガンの水球弾を一身に受け、水しぶきが上がり、姿が見えなくなっていった。

 これは・・・ただでは済まない。私が一発、二発、モロに喰らって思ったこと、それは思った以上に攻撃が重たいこと。

 堅い何かで、思いっきり殴られたような感触。未だに痛む、脇腹を抑えつつ叫んでいた。


 「マリブっ!マリブーーーーっ!」


 何でよ・・・何で私なんか庇ってんのよ!さっき逃げなさいって言ったのに!

 アンタは、私を呪い殺すのが目的なんでしょ!?どうして、殺そうとしている相手を庇うのよ!

 そして、手をこまねいているまま、マリブが危険にさらされてしまった。その悔しさから思わず、視界がぼやけたその時だった。 


 「ドリアード族の我に、水で挑むとは・・・愚かなことよ。」


 水の中から低い女の声がした。これは・・・マリブっ!


 「マリブ・・・マリブなの!?」


 私の呼びかけると、マリブが静かに言った。


 「あぁ、我がこんな水の攻撃でやられるわけないだろ?まぁ正直、最初は塩水かと思って驚いたがな、アイツの扱う水は、真水らしいな。都合の良いことに、体についた塩分が流れてくれた。さてと・・・反撃といこうか。」


 そっか、モルガン船長の扱っている水は、真水なんだ。そういえば先生が前、言っていたんだよな。


 『水の変換師が扱う水は、真水に近くないと、うまく操ることが出来ないんだ。ま、樹木のお前には関係の無い話だが、覚えておいて損は無いぞ。』


 そういえば、先生、今ごろ何やってんだろう。まだ新しい変換師の育成とか地味にやってるんだろうな。と、思っていたその時

 

 『ル・・・ルゥ・・・』


 歌うような詠唱が聞こえた。これは、マリブが力を使うときの彼女独特の詠唱。それが終わるや否や、水の中から見たこともない種類の木々が伸びてきた。それが、甲板一面を覆う。


 「なん・・・だと・・・?」


 突然の状況の変化に、戸惑いの声を上げるモルガン船長。彼の足は、ジリジリと後ずさりをしている。 

 

 「さぁて・・・我が動けない間、随分とリステルちゃんに酷いことをしてくれたもんだ。ドリアード族を怒らせたら、どうなるか・・・身を持って知るがよいぞ。」


 大人の姿になると、表情があまり変わらないので判別はつきづらいのだが、マリブは怒っているのか、怒気の孕んだ低い声で一言、『行け。』と呟くと、髪の毛が変化した(つた)の一部が、慌てふためいているモルガン船長の取り巻きに絡みつき、空高く持ち上げ締め上げた。


 「グアッ!」

 「ギャッ!」

 「ヒィィィッ!」


 蔦に絡みつかれ、うめき声を上ながら戦闘不能に陥る取り巻き達。

 一方の船長はさすが、皆の頭を張っているだけあって、マリブの蔦の攻撃を何とか弾き返している。

 絶対的なピンチのはずなのに、その状況とは裏腹に、モルガン船長はうすら笑いを浮かべていた。そして


 「クク・・・ククククク・・・心底驚いたぞ、貴様が幻と言われたドリアード族とはな。これは高く売れそうな素材だ、みすみす逃してたまるものか。それに、塩水に浸かると術が使えなくなるという思わぬ弱点があるとはな、それなら吾輩にも考えがある。」


 そう言うと、船の柵をヒラリと飛び越えると、海に飛び込んでいった。


 「何?いきなり投身自殺とか、ありえないんだけど!」


 突然のモルガン船長の行動に、びっくりしていると、船長が落ちて行った方から声がした。


 「クク・・・クククククク・・・ここはどこだか、わかっているのか?」


 勝ち誇った声、その言葉に気づいた。ここは海上、彼にしては、武器となる水だらけじゃないの!

 すると、再びモルガン船長の声が響いた。


 「サブスタンスチェンジ、い出よ、リヴァイア3号!」


 

 【ま゛ーーーーーーっ!】



 間の抜けた声と共に、私達の目の前に、水で出来た大きな蛇のような竜が姿を現した。

 その竜の首のにまたがるモルガン船長の姿があった。そのまま彼の体は上へ上へと舞い上がる。その高さは、私の身長の二倍・・・いや、三倍ってところだろうか。

 しかし、ネーミングが気になるなぁ。


 「リヴァイアサン・・・号?」


 そう、思わず呟く私に、モルガン船長が怒鳴った。


 「ちっがーうっ!リヴァイア・3号だ。変なところで切るでない!」


 「いやいやいやオッサン。このみてくれ、しかも水で作っておいて、否定しても説得力に欠けるわよ。まぁ、水の変換師で、水から作ることを考えたら・・・さ、気持ちはわかるんだけど、いくらなんでも神獣に手を出すのはどうかなぁ・・・?って、思うのよね。」


 「だから、違うと言っておる!このリヴァイアは、試作、初作を経て、改良作まできてやっと、実用性にこぎつけたのだ。だから、『リヴァイア・3号』。どこにも不思議な点は無かろう?」 


 「えー・・・。ここにうっかりオリジナルが通りかかったら、間違いなく怒られるわよ。どうすんのよ、アンタはともかく、巻き添えを喰ったらたこっちがたまらないわ。」


 「えぇい、うるさいうるさい!吾輩のこの、『リヴァイア3号』の恐ろしさ、とくと味あわせてやるわっ!行けっ!」


 船長の声と共に、水竜の口から吐き出された水のビームが一直線に私達を襲った。さすが、どこかの神獣をパクっているだけあって攻撃は強そうだ。

 それを物語るように、当たったところは柵だろうが、床だろうが、どんどん壊れていく。

 痛む脇腹を押さえながら、避けようとしたところ


 「リステルちゃん、大丈夫か?」


 大人マリブが、私の前に立ちはだかった。そして


 『ル・・・ル・・・ゥ・・・』


 また、彼女独特の、歌うような詠唱が始まると同時に、目の前に樹木の壁が出来上がった。それが、水竜の放った水のビームをことごとく跳ね返していく。すると、壁の向こう側から


 「なん・・・だと?」


 モルガン船長の声。それに、大人マリブが


 「フン、あたしは若いとはいえ千年樹だ。そんな攻撃など痛くも痒くもないな。」


 落ち着き払って言った。するとその時 


 「リステル!マリブっ!大丈夫か!?」


 レーベンの声がした。その声に振り返ると、頭だけ、フードを取った彼が、肩で息をしながら、そこに立っていた。


 「レーベン!船酔いの方は大丈夫なの?」


 「動いてたら、気にならなくなった。」


 「動いてた?」


 「あぁ、俺も船室で襲われたんだよ。まぁ、大したことないヤツだったから、全員まとめてこづき回してやったんだ。そいつらの口ぶりから、お前らが、危ない目に遭ってンのを知って、来てみたら案の定・・・ってヤツさ。」


 レーベンがそう言うと、私に笑顔を見せた。その笑顔につられるように、大人マリブも私を見て、笑っていた。

 その二人の顔を見て思う、そう、これで全員集合。どんなヤツが来たって、負ける気がしないのは何故だろうな。

 その思いを胸に、モルガン船長を見据えたその時。


 「ククク・・・さすがは樹木の精霊・・・と、いったところか。そこの獣人と、草使いの女は放っておいても害はなかろうて、そうなると、まずはお前から片付けてやる!サブスタンスチェンジ、ソルトレイン!」


 モルガン船長の言葉と同時に、甲板の上に、塩水の雨が降った。

 彼の狙いは、大人マリブの力を封じる作戦なのだとわかったものの、咄嗟に反応できず塩水をかぶり、再び力を封じられてしまった。


 「クッ・・・。」


 悔しそうな顔で、身をよじる大人マリブ、悪いことに樹木の壁を出したま戻せなくなってしまっているので、身動きも出来なくなってしまったようだ。


 「フフ・・・ハハハハハ!これで吾輩は無敵っ!圧倒的有利!絶対的な力の差!お前達はまるで、地面を這う虫ケラのようだな。どうだ?大人しく降参せい。」


 モルガン船長は、おおよそ周囲から『ざわ・・・ざわ・・・』とか聞こえてきそうな口調で言い、勝ち誇った顔をしている。


 「リステル・・・ヤバいな、どうするよ。」


 来て早々、目の前にあるピンチに困ったのか、レーベンが私に耳打ちをした。

 考えろ、考えるんだ私。あ、そういえば、打開策が無いわけでもないのか。後は、時間だな。


 「レーベン、ちょっと。」


 レーベンに手招きすると、私は顔を近づけ耳打ちした。その言葉に無言で頷く。その顔を見て、作戦が伝わったのがわかり、モルガン船長を見て言った。


 「ちょっとモルガン船長さん、いいかしら?」


 「何だ?」


 「『吾輩を倒せるものがあるものか』って、三回言えたら降参してもいいわよ。」


 「ほぉう・・・なかなか面白い趣向だな。ならば言ってやろう、天にも届くようにな。」


 そう言うと、ニヤリと笑い天を仰いだ。

 彼は今、絶対的に安全な場所に居るとタカをくくって、完全に油断しきっている。しかも、私から視線を逸らせた。うまく行き過ぎだけど、この瞬間を待っていたのだ。

 そしてすぐさま、『サブスタンスチェンジ』と、小さな声で詠唱すると、私の掌の中の草が伸び、レーベンに巻きつけた。そして、体を浮かすことが出来るくらいになったところで、更に術の力を強める。すると、彼の体が少し宙に浮いた、その時だった。


 「吾輩を倒せるものがあるものか!」


 モルガン船長が言うのが聞こえた、その声が終わると時を同じくして、私の草のロープを巻きつけたレーベンが、地面を蹴ると言った。


 「ここにいるぜ。」


 身体能力の高い獣人の跳躍力と、変換術を込めた草の力で、ジャンプしたレーベンが、声が終わる頃にはモルガン船長の目と鼻の先まで距離を詰めていた。

 いきなり目の前に現れたレーベンの姿に、驚いたのか船長がおののきながら言った。

 

 「バ・・・バカなっ!」


 「バカはてめぇだ。ってゆうか油断しすぎなンだよ。リステルが言ってたぞ、こういう輩には、『レベルを上げて、物理で殴れ。』って、ま、何のこっちゃ意味不明だが、こういうこったろ?」


 そこまで言うと、レーベンが剣の柄を握り、叫んだ。



 『剣技、コシヒカリっ!』 【ズゴォっ!】



 彼が振りぬいた剣の一閃が、船長の体をしっかりと捉えたのだった。


  □■□


 モルガン船長との戦いが終わり、レーベンは捕らえられた人達の開放。そして、私はマリブが樹の精霊だとバレないように、その間、陰で真水で彼女の体についた塩水を洗い流した。

 その後、すっかりと元通りになった甲板の上には、縛り上げ、ひとかたまりにしたキャプテン=モルガン一味が転がっている。


 「いやぁ、どうもどうも、一時はどうなることかと思いました。それにしても、ありがとうございます。しかし、どうやってこの凶悪な海賊を打ち負かしたのですか?」


 私達の乗った客船、【メリーゴーイング】の船長だと名乗る男の人が、私の手を取り喜んでいた。

 とはいえ、さすがに本当の事は言えない、なので


 「いえ、あのー、ちょっとした作戦です。」


 そうとしか言えないでいると


 「そうですか、それで?どんな作戦なんですか?」


 嘘っ!?まだ突っ込んでくんの?


 「あー、『みんながんばれ』的な感じで、ベホ○ミとかヒャ○ルコを駆使・・・いや、平たく言うとバーン、ババーンとやりました。はは・・・あははははは・・・」


 「そうですか。良くわかりませんが、あなたがたのおかげです。お礼はこの船の船長である私、『ル=フィー』が、させていただきますよ!」


 ・・・『ル=フィー』って。


 そんな大層な名前をぶら下げておいて、あっさり海賊に捕まらないで欲しかったな・・・。

 ともあれその後、船長からのお礼として、食堂に呼ばれ、豪華な食事を振舞われたのだった。

 最近、まともな食事らしい食事をしていなかったため、この予想もしていなかったプレゼントは、金品を貰うよりも、とても嬉しかった。

 と、その時、ある疑問が浮かび上がり、お礼がてら船長に聞いた。


 「すごく美味しい料理、本当にありがとうございます。ここのコックさん、腕がいいんですね。是非お礼が言いたいので、お名前をお聞かせ願えませんか?」


 そんな私の言葉に、船長は笑いながら言った


 「そうですか、彼もこの船を海賊の手から救って下さった方々に美味しいと言ってもらえて、光栄に思うでしょうな。わかりました、彼の名は・・・」




「『ヨジ』です。」




 あー・・・一時間進んじゃった感じか。

 

  

 つづく

 -ここから後書き的なものです-


 ギックリ腰が再発しました。

 ・・・とまぁ、年末にヤった腰を無理矢理ドーピングしつつ、だましだまし仕事してたら、ついに崩壊したってところですね。いやー、痛かった。

 そんな時、母親に貰った『ロキソニンテープ』、平たく言うと、湿布薬に痛み止めを配合したヤツなんですが、これを貼ると・・・


 腰の痛みが嘘みたいに取れる。


 もしかしたら、嘘なのかもしれない。

 それにしても、すごいね、『ロキソニン』。風邪に頭痛に、それだけじゃなく、整骨院勤めの友人が、『疲れた時にもいいんだぜ☆』って言ってました。現代の万能薬とはこのことか。

 そのうち、この本編でも、それっぽいのが登場するかもしれません。

 そんなわけで、作者でした。


 ~追伸~


 今回は、お酒の紹介コーナーはありません。

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