【第27話・海水浴に行ってみようか】
「青い空っ!」
「白い雲っ!」
「そして・・・輝く砂浜、キャッホーイ♪」
水彩絵の具のついた筆を、コップに張った水にそっとつけたような、青と、白が混ざった縞模様のピキニの水着、そして、腰には、パレオ。
それを身に付け、燦々と降り注ぐ太陽の下、寄せては返す波打ち際に向かって、私は走り出した。
その私の後ろを、同じような格好だけど、色が淡い、エメラルドグリーンの水着を付けた、マリブが追いかけてきている。
そのまま海に向かって、思いっきりダイブした。それと同時に、塩辛い水が私の口先を撫でる。
あぁ、この異世界も海の水は塩辛いんだ。
ふと、横を見ると、マリブも頭から海に突っ込んで、楽しそうにしていた。
こうやってみると、樹木の精霊、そして実年齢124歳と、私よりかなりの年上ということになるけど、行動パターンは幼い見た目と同じ、10歳くらいの子供にしか見えない。
少しして、どっぷりと海に潜っていたマリブが、顔を出した。そして
「ぷはぁ~っ!ねぇねぇ!リステルちゃん、あたし、海って初めてだけど、楽しいところだね!」
そう、私を見て言った時。
「おいこら、リステルは人間だからいいとして・・・だ。マリブ、お前、樹木の精霊なのに、体ごといきなり海水に浸かるなんて、自殺行為もいいところだぜ。早くあがんな。」
私がこの旅を始てからの、最初の連れとなったシベリアンハスキーと人間の合の子、この世界では、『獣人』と呼ばれるレーベンが私達を波打際から呼んだ。
そんな彼も、海では海の格好ということで、いつも体を隠すために着ている、茶色のゆったりとしたフードではなく、上半身裸。そして腰には、白地に、真っ赤なイチゴの模様がプリントされたトランクス型の、水着。
とはいえ、裸・・・とはいっても、ベースが犬なので、勿論、全身フッサフサである。
「アンタ、顔の毛の色が青いと思ったら、全身真っ青なのね。それにしても・・・そのイチゴの水着、体と、すごくミスマッチというか、アンバランスというか、物凄く格好悪い。プププ・・・。」
彼の姿に、思わず吹き出すと。
「しょうがねぇだろ。体のサイズに合うっていったら、コレしか無かったんだからよ。」
本人でも自覚があるらしく、私から視線を逸らした。
「まぁ、そんなことは置いておいて、折角だから、レーベンも、泳ごうよ。」
未だ海に入ろうとしないレーベンにそう言うと
「だーかーらー、ここには遊びに来たわけじゃねぇんだって、何回も言っただろ?そもそも・・・」
と、何か、長ったらしい話が、続きそうな予感がしたので
「もしかしてレーベン、泳げないんでしょ?」
彼の話の腰を折ってやると
「失礼なヤツだな。俺だって泳ぎの一つや二つ、出来ンだよ!」
と、ザブザブと、私が立っている、腰くらいの深さのところまで来ると
「ちょっと見てろ!」
と、勢い良く泳ぎ出したんだけど、案の定、彼の泳ぎ方は
犬かき。
・・・やっぱり。
「あ、え・・・と、アンタが泳げることはわかったわ。もういいわよ。それで?ここに来た理由って何だったっけ?」
すると、泳ぎを止めたレーベンが、手の平を顔に当て、天を仰ぐ
「あー・・・やっぱり人の話、これっぽっちも覚えちゃいねぇ。いいか?もう一度言うぞ、今度はちゃんと聞いとけな。あのな、リステルとマリブ、お前達が海水に浸かった状態でも、ちゃんと術を発動出来るかのテストに来たんだぞ。特にマリブは樹木の精霊だ。海水に浸かった途端、いきなりおかしなことになりかねんから、その辺のテストも兼ねてたンだがよ。リステル、お前は海見た途端、いきなりはしゃぐわ、マリブに至ってはいきなり頭から突っ込むわ。最初、マリブが海に突っ込むのを見た時、心臓がちょっと止まったような気がしたぞ。まぁ、特に何ともないようだから、結果オーライってとこか。」
言い終わると、『やれやれ・・・』とでも、思っているのか、首を横に振った。
そう、言われてみれば、そうだったんだっけ。あれは数日前のことだった。
□■□
「船に乗るぅ?」
ふらりと立ち寄った、ギルド直営の酒場。そこで三人、食事を摂っているとき、レーベンが言った言葉に、思わず聞き返していた。すると、彼は答える。
「あぁ、さっき小耳に挟んだんだがな、海の向こうのとある村で、人間が忽然と消えたらしいって噂を聞いたんだ。それってちょっと、怪しくねぇか?」
「それって、ただの誘拐とかの一種じゃないの?危険だよ。」
「そうでもねぇらしいんだ。人が居なくなった家からは、その瞬間まで、食事をしていたような感じで、食いかけの皿なんかが、そのまま残されてンだとよ。しかも、誰かと争った形跡も無いっていう話だ。不思議だとは思わねぇか?」
「・・・確かに。」
「だろ?もしかしたらもしかすると、次元の狭間なんかが、そこにあるかも知れねぇ。行ってみる価値はある。ま、危険だと思ったら、すぐさま引き返せばいいし。とりあえず、その村に行くためには、船に乗らなきゃならん。」
歩きで行けない場所・・・か、この訳もわからない異世界で、船に乗るなんて不安だらけだけど、行ってみる価値はありそうだ。
「それもそうね。」
と、その後、三人で船着場へ来た。
私は、この世界の船といったら、ショボい木造で、漁船に毛の生えたくらいの大きさと、設備だと思っていたんだけど、想像とは全く違う姿に思わず驚き呟いた。
「すごいね。」
「そうだろ?どうせお前、異世界の船だからって、ショボいのを想像してただろ。こっちの世界にもな、こんくらい作る技術はあるってことよ。」
ここに来るまで、レーベンとマリブに、日本の船のことを、話して聞かせていたのだ。それは、鉄で出来ていて、中には売店やお風呂もあって、ちょっとお金を出せば、個室に、ベッドもある。そんなことを。
「すごいね!リステルちゃん。あたし、船ってのは初めてだよ。」
私の横では、マリブが、きゃあきゃあ言っていた。
「それで?早速乗るの?」
と、レーベンに、尋ねたところ。
「すぐには乗らねぇ。ちょっと、テストしてみたいことがあってな。」
「テスト?」
「あぁ、万が一ってことがある。残念だが、この世界の海ってのは、あまり安全じゃねぇんだ。一応、船には戦う準備も出来ているがな、残念なことに、海賊が出るんだ。」
「ええぇ・・・。」
「だから、最悪の事態を想定して・・・だ、一般的には、海水に強い種以外、木ってのは塩に弱いんだよ。うっかり海水に浸かった状態でも、ちゃんとリステルは術を、マリブはおかしなことに、ならないかを試してみなけりゃいかん。」
「ふぅん・・・。レーベンって、見かけによらず、慎重派なんだね。」
「何だよ、見かけによらずって。」
と、そんなわけで、急遽、船の旅の前に海水浴となったわけだった。
□■□
「サブスタンスチェンジ!」
ポーチにいつも、忍ばせてある草を掴んで、術を発動させた。
それが、みるみるうちに、形を変えて、鞭になる。これは、最初、レーベンが、私に追い剥ぎまがいのことをした時、応戦した、草の鞭。それを見て、レーベンが言った。
「ほぉう。リステルの方は大丈夫そうだな。そんじゃマリブ、お前もちょっとやってみろ。」
と、今度は、マリブに言う、すると
「わかった。」
小さく頷くと、目を閉じて
『ル・・・ル・・・ゥ・・・。』
歌っているような術の詠唱を始めた。その言葉に呼応するように、どんどん、髪の毛が逆立つ。マリブも大丈夫か?と思われたその時
「・・・ダメだぁ。」
マリブが声を出した。
髪の毛はちゃんと逆立っていたのに、何がダメなんだろう?と、
「ウソ、ちゃんと髪の毛が逆立ったわよ。」
「違うの、何かダメなの、これ以上無理・・・。」
「そっか、でも・・・術が使えないマリブって、ただの子供よね。」
と、言葉が出たところで、後悔した。マリブに子供という発言は、彼女に対しての地雷。うっかりそれを踏んでしまった。
ヤバっ!と、思ったところで、時既に遅し。瞳に一杯涙をためたマリブが
「リステルちゃんのバカぁ!あたしが本気を出せば、髪の毛を変化させることくらい・・・。」
と、再び目を閉じ
『ル・・・ル・・・ゥ・・・』
ちょっと言葉の強さが違う、と、思ったとき、髪の毛が逆立つと同時に、マリブの姿が次第に大きくなっていった。
とはいえ、いつまでたっても髪の毛が逆立つばかりで、一向に変化しない。ややしばらく、頑張るマリブだったが、不意に詠唱を止め
「ふん、ダメか。」
と、そこには、パーフェクトボディの大人マリブ。
この間、本人が『大きくなるのは、稀。』って言っていたのに、何でピンチでもないのに、ホイホイ大人の姿になれんのよ!
ファンタジーの初期設定には、がっかりだよおぉぉぉぉぉっ!
さっき作った草の鞭を、無言で、『ベチっ』と地面に叩きつけつつ、心の中で、にし○かすみこ的なツッコミを大爆音で入れていた。
とはいえ、体は大きくなったものの、着ている水着が大きくなるわけはないので、一見、ピッチピチの水着を着ているような姿になった。
・・・小さい水着からはみ出た下乳が、何かエロいんですけど。
「レーベン、あたしは、海水に触れると、ダメみたいだな。体はすでに乾いている筈なんだが、どうやら、塩気で術が制限されるみたいだ。」
術が出なくなったことに、さほど驚いていない様子で、表情を変えずに言う、大人マリブ
「ってゆうか、マリブ、早く着替えるか元に戻るか、してくんない?その格好で、人前に出たら、色んなところから、苦情が来そうよ。」
「苦情?」
私の言葉に、首を傾げる大人マリブ。
この子ってば、全っ然わかってねぇ!まぁ、精神年齢が幼く、ファッションセンスに至っては、『レディ・○ガ』みたいだからな。
「とにかく、色んな人・・・いや、特に男性から、好奇の目で見られたくないでしょ?」
すると大人マリブは、レーベンに言った。
「レーベン、リステルちゃんはああ言っているが、どうなんだ?」
「水着がキツそうで、苦しそうだが、特に何とも思わんぞ。」
だーかーらー、犬に訊いても意味ないでしょ!・・・とはいっても、私の周りの男ったら、レーベンしか居ないんだよなぁ。するとまた
「リステルちゃん、残念だが、自分の意思では元に戻れないんだ。それに、レーベンも、おかしくないと言っている。着替えといっても、普段は私の髪の毛から編んだ蔦を、巻きつけているだけだから、術が制限されてしまっている今となっては、どっちにしろ無理だな。」
あー・・・どうりで、服が要らなかったわけか。何でずっと、一緒に居たのに、気付かなかったんだろ。
この世界に居すぎて、だんだん日本人としての感覚が、ニブくなっているのは確かだ。
とりあえず、大人の姿になったマリブに、ちょっと言っておかねば。と、
「時にマリブさん。」
「何だ?」
「頼むから、その姿の時に私のこと、『ちゃん』付けは止めてね。」
「あぁ、そうだったな。」
と、表情も変えずに言った。
・・・畜生、これだからファンタジーは嫌なんだ。
つづく
‐ここから後書き的なものです‐
・・・寒い。
ここ最近の冷え込みようはもう、異常です。
ワタクシ作者。雪国の住人でして、雪や寒さは慣れているハズなんですが、今年はどうも、そうもいかないです。
さらに悪いことに、ストーブの設定温度を上げていたせいか、100リットルの灯油が半月で無くなりました。
そんなわけで、妄想の世界くらい、夏まっ盛りにしようと、今回のお話を上げたわけです。
現実逃避ですが、それが何か?
そんなわけで、次回に続きます。
あ、内容を読んでいただいた方は、何となく気づかれていたでしょうが、今回、お酒の紹介のコーナーはお休みです。
次回あたり、ありそうですよ。ってなわけで、作者でした。




