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【第26話・叶えてみようか】

 

 「歩きながら話そうか、これから行く、泉のことを。」


 少し、足を引きずりながら歩く、オーナーに誘導されるように、外へ出た私達。屋敷の入口から裏手に伸びる草が刈り取られただけの、粗末な道を進んでいる時、彼がポツリと言った。そして続ける。


 「皆もお察しの通り、これから向かう泉は、本当に何でも願いが一つ叶うんだ。でも、問題は、その願いに対して、それ相応の代償を払わないといけない。」


 「代償?」


 私が言うと、オーナーは


 「一つを得ると、何かを失うってことさ。例えば先代・・・父だね。父が、何を願ったかというと、『先見の目』。商売で、次に何が当たるのか、その感覚を願ったんだ。現金なんて使えば無くなるけど、感覚ってのは、その人が生きている限り無くならないし、無限に金を生む。ただ、その願い事の代償として、父は、光を失った。その日から、目が見えなくなってしまったんだ。」


 「そんな・・・。」


 「未来を見据える目を貰ったことで、現在を見ることができなくなってしまったのさ。しかも悪いことに、ある時、その秘密と、精霊を呼び出す言葉を、酔った勢いで、うっかり喋ってしまったんだよ。そういう噂は、すぐに広がるもので、後から後から私利私欲にまみれた人間が押し寄せてね、この街の治安が、一気に悪くなってしまったんだ。その日を境に、街の至るところにゴロツキや、浮浪者が集まってね、それはもう酷い有様だった。だから、僕は願ったんだ。『僕以外の人は、誰もここに、近づけないようにしてくれ』ってね。父の願いのおかげで、商売はうまくいったし、生活する分には困らない。僕の願いは、この街が、元に戻ることだったからね。」


 「もしかして、オーナーが足を引きずっているのって・・・。」


 「察しがいいね、願いが叶って、僕と一緒じゃないと、近づいた者は、具合が悪くなったり、動けなくなったりするようになった、でも、その代償で、僕にも、呪いがかかったみたいなのさ、最近じゃ、歩くことも困難になってきてね。でも、後悔はしてない、この願いを言う前に、僕の知らない間に忍び込んで、願いを叶えた者の末路を見てきたからね。」


 そう言うと、遠い目をした。

 堕ちていった人たちのことは詳しく語らなかったけど、その表情を見て思う。彼は、何人もの人が願いを叶えた後、堕ちていくのを、目の当たりにしてきたのだろう。


 「でもどうして、私達を、連れて行こうと思ったんですか?」


 すると


 「不思議に思うのも、当然だね。君に関しては、私利私欲にまみれた、願いをしないと思ったのさ。だって、君がこの世界で、お金持ちになったり、不老不死を願ったところで、君からしたら異世界のここで、どんな願い事を叶えようが何もメリットが無いだろ?純粋に、『日本』というところに還りたい、それを願うと思ったからさ。そういう事に、僕は願い事を使おうと思ってるのさ。それに、後ろの二人も、多分、変な願い事はしないだろうしね。まぁこれは、僕の商売人としての勘だけど。」


 と、言いつつ、オーナーは、笑っていた。

 『願いと共に、その代償を払う』・・・か、勿論、私の望みは、日本に還る、その一点だけど、それも個人の願いを叶えることではないのだろうか?

 私が還った後、この世界は、どうなっちゃんだろ?もしかして、私が還ったことにより、破滅の道を歩むのだろうか・・・。


 「お、そろそろだぞ、リステル君、それに、後ろの二人も、願い事の準備は、出来ているか?」


 気が付くと、歩を止めたオーナーの前に、広がるのは、かなりの大きさの泉。

 泉というより、湖と言った方がいいのだろうか。

 すると


 「ウエウエシタシタヒダリミギヒダリミギビーエー・・・ウエウエシタシタヒダリミギヒダリミギビーエー・・・目覚めよ、泉の精霊よ!」


 どこかのシューティングゲームで、完全無敵になりそうな言葉を呟くと、泉の中から光を纏った人らしきモノが現れた、そして


 「久々だのぅ、ヘーゼルバーン、それにしても、ここに結界を張ってからとうもの、ヌシが人が連れて来るとは、初めてのことではないか・・・。」


 はっきりとした言葉ではなく、脳内に直接語りかける感じだった。

 最初、ボヤっとした姿だったが、徐々に、はっきりと輪郭が、見えてきた。その姿は、喋り方とは、裏腹に、一糸纏わぬ姿の若い女性そのものだった。


 

 ・・・私達以外が居ないからいいようなものの、色んな所が丸見えなんだけど。

 


 心の中だけでツッコミを入れたつもりだったが、つい、それが言葉に出てしまった。


 「ちょっ!ちょっと!そこのアンタ!人前に出る時は何か着なさいよね!」


 すると


 「何じゃ、このキーキー五月蝿い色気のカケラもない女子(おなご)は、ワシがどのような格好をしようと、自身の勝手じゃ。黙っておれ。」


 ちょっとムっとした感じで、脳内に語りかけてくる。


 「いやいやいや、女子(じょし)として、大切なところは髪の毛なり、水しぶきで隠すなりしないと、後々、色んな意味で困るわよ!」


 「大丈夫じゃ、いざとなれば、『大人の事情』というやつで、都合良く消してくれるじゃろうて。」


 畜生、精霊だけあって、抜け道は完璧ですよってか。 ともかく、色んな事に精通していることだけはわかった。

 この人・・・いや、泉の精霊というパッと見、全裸の変質者に、『日本に還りたい。』そう願えば、十中八九、還ることが、出来るだろう。

 でも、そうなるとレーベンやマリブと中途半端な形でお別れになってしまうんだよな。何個かエンディングがあるゲームだと、間違いなくバッドではないけど、グッドエンドじゃないような。

 いやいやいや、これはゲームじゃない、還れる時に、さっくり還るっていうのが一番じゃないのか?そう色々思っていた時、不意にレーベンの声がした。


 「リステル、俺達の旅もここまでだな。還っても、元気でやれよ。たまには、俺達の事も、思い出してくれな。」


 少し、安心したような、優しい声だ。それに続いて聞こえたのは、寂しそうなマリブの声。


 「リステルちゃん。本当に還っちゃうの?ここで、さよならなの?あたし、寂しいよぅ・・・。」


 そう言うと、私の腰の辺りにしがみついてきた。そんなマリブにレーベンが


 「おいおい、俺だって寂しいんだ。でもな、リステルだって母ちゃんや父ちゃんに会いてぇだろ?ここは笑顔で見送ってやれ。お前だって、いつも言ってンだろ?124歳の大人だって。それくらい、わかるよな?」


 彼女に優しく語りかけつつ、頭を撫でた。そして続ける


 「マリブの事は、俺に任せろ。何も心配は要らねぇって。今は自分のことだけ考えろ。」


 そう言って笑った。その笑顔が私の胸に突き刺さる。ここで本当にさよならなんだ。

 日本に還ったら、本当に、もう再びレーベンやマリブに、会えないかもしれない。こんなことなら、お別れ会の一つでもしておくべきだった。

 そんなことを思っていると


 「早く願い事を言うが良い。ワシもヌシ()と、交信するためにしているこの姿を保っているのはチとしんどいのでな、力を使い果たすと数年はヌシの前に現れること、困難になる。早くしてくれ。」


 全裸の変態に、急かされていた。

 と、その時、ちょっとした疑問が頭を過ぎり。彼女に言った


 「ちょっと訊いていい?」


 「何じゃ。」


 「彼・・・いや、ヘーゼルバーンさんの呪いの事なんだけど、どんどん負担が重くなっているって言ってた。これからどうなるの?」


 すると


 「ふむ・・・ここに人が来る度に、負担は重くなるじゃろうな、それが彼の願いの代償じゃからの。まぁ、最近はめっきり人が来なくなったそうじゃからの、人が来なければ、悪くもならん。後何人連れてきたら、命を落とすことになるかは、わからんが、こ奴の体力がどこまで持つか次第じゃて。」


 そっか・・・そういうことか。

 

 「レーベン、マリブ、ごめんね。」


 後ろの二人に呟くと、レーベンが


 「何だよ、急にしんみりしやがって。今ここでお前の望みが叶うんじゃないかよ。謝ることなんてねぇさ。さっきも言ったが、マリブの事は任せろ。コイツに安心して暮らせる所を、俺が責任持って見つけてやる。何も心配要らねぇって。早く還って、親父やお袋に、元気な姿を見せてやれよ。」


 静かにそう言った。すると、私の腰にしがみついていたマリブも


 「リステルちゃんと、さよならするのは嫌だけど、還るところがあるなら、還った方がいいもんね・・・。」


 目に一杯涙をためながら言っていた。それを聞いて思う。迷いはなくなった。

 

 「わかった、私の願いを言うわ。」


 目の前の全裸に言った。すると


 「そうかそうか、何なりと言うがよい。それなりの代償は必要じゃが、何でも叶えてやる、ただ、『願いを増やしてくれ』とか『アイツちょっとDQNだからちょっとぬっころしてくれ』とかは無理じゃがの、あくまで、己の欲望を満たす範囲で頼むぞ。」


 そう言うと、その体が少し光った。これが、全裸の変t・・・いや、泉の精霊が願いを叶える準備が出来たという合図なのだろう。

 一呼吸置いて、言葉に力を込めて言った。



 

 「泉の精霊よ。願わくば、この世の全ての生き物に、笑顔で暮らせる元気を与えて下さい。」




 ・・・。

 ・・・。

 私の言葉を聞いて、皆の目が、点になっていた。

 長い沈黙が続いたが、それを破ったのは、泉の精霊だった。


 「・・・リステルとやら、その願い、本当か?」


 「マジマジ、大マジ。それに、出来ないなんて言わせないわ。無茶なお願い以外、何でも叶えてくれるんでしょ?今までオーナーから聞いた話から推測できるアナタの力具合からすると、結構まろやかな方だと思うんだけどなぁ。」


 「そうじゃが・・・」


 「それに、話を聞いていて、ふと思ったの。個人の私欲を叶えるから、それなりのしっぺ返しが必要となるってこと。だから、願い事をこの世界のあらゆる生き物に利益の出ることにしてしまえば、いいんじゃないかって。正直、『この世界の未来が、明るくなりますように。』って願いと迷ったんだけど、オーナーも巻き込もうと思ったら、こっちの願いがいいんじゃないかって思ったのよね。」


 そう言うと『クッ・・・!』と、言いながら、悔しそうな顔をした。


 「ほらほら、早くしなさいよ。『何でも叶えてやる』って言ったのは、アンタよ。」


 私が、追い打ちをかけるように言うと


 「仕方ないの、それじゃ叶えてやるとするか。それにしても、ヘーゼルバーンよ、随分とへそ曲がりの人間を連れて来たもんじゃて・・・。次はちゃんと、私利私欲にまみれた人間を連れて来るがよいぞ。もうワシは疲れた。他の二人には悪いが、もう消えるとするわい。どっちにしろ、リステルとやらのつまらん願いのせいで、力を使い果たすでな。願いを叶えられない娘の後ろに居るヌシ等よ、恨むなら、リステルとやらを恨むがいいぞ。」

 

 と、残念そうな顔をすると、眩い光を放ったと同時に、跡形もなく、消えていった。

 泉の精霊が消えたと同時に、レーベンがボソっと言った。


 「フン、別に俺は願いを言うつもりなんて最初からさらさら無かったぜ。一回甘えちまうと、甘え癖がついちまわぁ。自分の事てのは、自分で切り開くもんだ。ズルするつもりなんて無ぇさ。」


  □■□


 「それじゃ、お世話になりました。」


 その日、オーナーの館で、一晩過ごした私達は、日が昇ると同時に、館を後にすることにした。

 門の外まで見送りに来てくれたオーナーの足取りは、もう、私の願いが叶いつつあるのか、及んでいるのか、引きずるような感じは、見られなくなっている。


 「それにしても、僕も意外な結果に驚いているよ。まさか君が、あそこであんな願いを言うとはね。日本に還ることが出来なくなったけど、君、それでいいのかい?」


 すっかり元気を取り戻りたオーナが、私に言った。


 「いいんです。あの状態で還ったとしても、この世界のことが気になって、ずっと後悔するんじゃないかって思ったんですよ。それなら、心残りがすっかり無くなってから、堂々と、還ってやろうって思ったんです。」


 彼にそう返すと。


 「そうか、君はいい娘だな。ずっとその心、忘れて欲しくないものだ。そういえば、これからまた、元の世界に還る旅を続けるんだろ?店の仕事は続けることは、出来なさそうだな。店の者には、うまいこと伝えておくから、心配しないで旅を続けてくれ。何かあったら、連絡をよこしなさい。できる限り、力になろう。」


 「ありがとうございます。私も、ちゃんと店の皆に、別れを告げることが出来ないのが心残りですが、お願いします。それじゃあ!」


 そうオーナーに告げて、歩きだした。

 私の旅は、まだ、終わらない。日本に還る方法だって、絶対見つけてやるんだ。

 ややしばらく歩いたとき。レーベンが言った。


 「そういえばリステル、一つ、聞きたいことがあったんだ。」


 「何?」


 「どうして願いを言う前、俺たちに謝ったんだ?」


 「あぁ、そのこと。それはね・・・。」


 私を挟むように歩いていた、レーベンと、マリブの手を握り言った。

 

 

 「折角、還るチャンスをフイにする私のこと、これからもよろしくね!ってことだったのよ。」

 

 

 すると二人は、私の手を握り返してきた。



 つづく

 誤字を訂正しました。


  -ここから後書き的なものです-


 『泉の願い』編、ここで終わりです。

 なんやかんやで、三話に渡ってしまいましたね。長文、お付き合いありがとうございます。

 今回のシリーズ、目立ったドンパチや、変換術はありませんでしたが、いかがだったでしょうか?

 楽しんでいただけることだけ考え、綴りました。


 とはいえ・・・。


 変換術を使わないと、ただの人の話になってしまうので、こういった話は、当分封印の方向で。

 次回からは、通常営業に戻ろうと思っております。それではまた、作者でした。

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