【第25話・訪ねてみようか】
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
働き始めて三日目、フラリと現れた、ラフなスーツをちょっと着崩したオジサンが入ってきて、私の前に腰を下ろした時を見計らって言うと、その男は
「ベンティアドショット、ヘーゼルナッツ、バニラアーモンド、キャラメルエキストラホイップ、キャラメルソース、モカソース、ランバチップチョコレート、クリームフラペチーノ一つ。」
「は?」
思わず目が点になる私、しばしの沈黙、その後、私が困り果てた姿を見て、笑いながら
「はっはっは!ジョーダン、冗談だよ、ラテのトール。後、マシュマロ&チョコレートクッキーで。」
「え?あ、はい。かしこまりました。」
ってゆうか、ここの店、メイド喫茶・・・いや、使用人喫茶のはずなのに、メニュー全てがどこかのコーヒーチェーンと、名前が似てるのよね。
とりあえず、注文通り、飲み物を作る。それをマリブに渡し、耳打ちした。
「マリブ、ちょっとあのナイスミドルにコレ、持ってってくんない?」
「わかった。」
と、私から、飲み物を受け取り、お盆に乗せ、プルプル震えながら運んだ。そして、例の男性の前まで来ると
「おまたしぇしました。」
カツンと、コップを置いて、頭を下げた、その時
【ゴンッ!】
身長のせいか、カウンターの角に、頭をぶつけた。
「ひぐっ!」
結構痛かったのか、涙目になるマリブ、と、その時。
「おいおい、大丈夫かい?お嬢ちゃん。」
男が、手を伸ばし、カウンター越しに、マリブの頭をさすった。その時
「オーナー、お帰りなさいませ、そして、視察、お疲れ様です。」
と、間に入って来たのは、私達に、仕事の流れを教えてくれた、先輩。
すると、今度は先輩に笑いかけつつ
「何だよ、そんなに固くならなくてもいいって、いつも言ってるだろ?それに、視察するつもりなんか無いし、君は良くやっている。僕からは、何も言うことは無いよ。ただ・・・新人が入ったって聞いてな、どんな娘か見に来ただけだ。今回は、随分と、小さいのが入ったんだな。」
そう言った、するとマリブがそれに返す。
「子供じゃないもん、あたし、こう見えても、ひゃく・・・じゃなかった二十歳だもん。」
ああぁ・・・また、だれそれ構わず噛み付くんだらから、この子は。すると
「あぁ、悪かったな、お嬢さん。何も子供扱いしようなんて、思ってないさ。ま、短期だって言うし、二人共、短い間だけど楽しんで働いてくれよ。」
お、意外な反応。ってゆうかこの世界のお金持ちって、心が広すぎやしないか?まぁ、色々と余裕があるから、こういう物の言い方なのかもしれないな。
他に客が居なかったこともあり、いつの間にか、奥に引っ込んでいく先輩を、横目で追いながら
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
挨拶が終わって、顔を上げると、オーナーは、私と、マリブの顔を、交互に見ていた。そして静かに言った。
「もしかして・・・君達、この間、家に来ていなかったか?」
「は?」
「そうだったな、ただ、『家』・・・と言ってもわからないか、と、そういえば、もう一人、背の高い、フードを被った人の姿が見えないが。ウチの使用人に追い返されていただろ?」
その時、感ずいた。もしかして、このオーナーの家って、例の泉があるという噂の・・・
息子とは、この人のことなのだろうか、想像と全然違う。こう・・・もっと、こう、甘ったれで『働いたら負け』とか、平気で言ってしまうような、子供を想像していたんだけどな。
「あの・・・どうしてそれを?」
「たまたま窓から見ていたんだよ。ウチは、人が訪ねて来ること自体、珍しいことだからね。そして・・・この辺りの人間じゃないとすると、目的は、例の泉の事を聞きつけた・・・ってところかな?」
そう、静かに話終わると、ジっと私の事を見つめていた。
その瞳を見ていると、変に嘘をついても全部、バレてしまう。そんな力をたたえた目だった。
・・・しょうがない、目的の人物には、出会えたわけだし、正直に話すか。ま、到底、断られるだろうけど。
「実は・・・その通りです。貴方が、ここに現れると聞いて、待ってました。」
「ふぅん、それで?泉に何をお願いするつもりなんだい?」
「信じて貰えるか、わからないですけど・・・」
と、前置きして、彼に言った。
自分は、この世界の人間ではなく、気がついた時には、日本という、この世界からみると、異世界というところから、この世界に飛ばされていたとうこと。
そして、亜人の先生の事、獣人のレーベンの事や、住処を追われたマリブの事。
もしかしたら、日本に還る手段が見つかるかも知れないということも、話た。すると
「そうか、話の内容はわかった。それは大変だったな。」
笑い飛ばすわけでもなく、頭ごなしに否定するわけでもなく、私の話を聞き終わると、難しい顔をしながら目を閉じて、腕組みをしていた。そんな彼に訊いた。
「もしかして・・・今の話、信じてくれました?」
「あぁ、嘘をついているような目じゃなかったからな、しかし、不思議なこともあるものだ、君の話が本当なら、この子は、精霊ということなんだよな?」
と、マリブを見た。すると彼女がカウンターに、身を乗り出し、言った。
「そうだよ。」
「だからマリブ、この方はこのお店のオーナー、簡単に言うと、すっごく偉い人なの。ちゃんと丁寧な言葉を使いなさい。」
頭をペチっと叩きながら言うと
「いいからいいから、僕はただこの店の持ち主なだけだ。偉くも何ともないさ。本当に偉いのは、この店を支えてくれるスタッフだからね。」
何と、理想を絵に書いたようなオーナーなんだろう。
そういえば、ここに来る前、働いていたところのオーナーは酷かったなぁ・・・。
こんな人が上司なら、辞めずにすんだのに。ってゆうか辞めなきゃハロワに行くことも無く、ここの世界に飛ばされることも無かったんだよなぁ。
「とりあえず、後の話は家で聞こう。その時は、もう一人のお友達も連れてくるといい。それじゃあ、お茶もいただいたし、そろそろ帰るとするよ。仕事が終わったら来なさい。ウチの者には、話をしておくから。時間によっては、門の前に、誰も居ないかもしれない、もし、そうなら、門の鍵は開けておくから、入ってすぐ、右側の詰所に人がいる。まず、そこを訪ねなさい。そのまま家の方に、来てしまうと、不審者と間違われるから。」
それだけ言うと、立ち上がり、私達に背を向けゆっくりと歩きだした。
・・・あれ?最初、気付かなかったけど、この人、ちょっと足を引きずってるな。
□■□
「・・・ってなことがあってね。」
仕事が終わり、ギルド直営の酒場で待っていたレーベンと合流した。
そして、店であったことを彼に話すと
「ふぅん、ってゆうか随分あっさり事が運んだな。何だか少し、怪しい気もするが、行ってみないことには、何とも言えんな。」
「でもでもっ!すっごく、いい感じの人だったわよ。ねぇ、マリブ。」
と、レーベンの横に座っているマリブに言うと
「うん、でも・・・あのおじさん、体のどこかが悪いみたい。」
確かに、店を出るとき、ちょっと足を引きずっていたような・・・。
「でも、どうして、そんなことわかっちゃうの?やっぱり、精霊としての力か、何か?」
「うん、何となくだけど、わかるんだ。体から、ぼやーっと、見えるというか。でも、あたしはまだ、そんなにはっきりとはわからいけどね。」
「ふぅん。」
そんなわけで、三人で、軽く食事を済ませ、オーナーの家へと、向かった。
日が、とっぷりと暮れているということもあって、私達が以前、追い返された門の前には、人は立っていない。
さすがに以前来たときは昼間。その時開いていた門は、夜ということもあり、固く閉ざされていた。
分厚い木の扉に力をこめると、オーナーの言っていた通り、鍵はかかっていない様子で、ゆっくり、ゆっくりと内側に開いていった。
人が通るのに、十分な程、扉を開けたあと、詰所へ行き、扉をノックする。すると
「はいはい、旦那さんが言っていた来客ですかね。今、開けますよーっと・・・あ!貴様等っ!」
この間、私達をすごい剣幕で、怒鳴って追い返した屈強な男。私達を見た途端、いかつい顔が、ますます怖さを増した。
しかも、室内の明かりに照らされた、スキンヘッドが、光を反射している。
とりあえず、おずおずと、彼に言った。
「えー・・・っと、私は、『ミス・ピーチ』でお世話になっている、リステルです、そして、隣の子は、同じくマリブ、後ろの男は、私の連れのレーベン、オーナーの方から、話は伝わっていると思うのですが・・・。」
すると、ランタンの光を私達に向け、顔を確認するような、素振りを見せた後
「おー、『ヘーゼルバーン』様から、話は聞いている。黒髪、ツインテールの子と、髪が緑のちっさいの。そして、フードの・・・お前、獣人だろ?別に獣人だからって、追い返したりはしねぇって。フード取ってもかまわんぞ。」
あ、見た目からは、想像もつかないけど、この人、結構いい人かも。
とりあえず、守衛のオジサンに、軽く挨拶して、家の扉の前に、ついている、鉄の鐘を鳴らした。
すると、中から、メイド服を着た、ちょっとトシの行っている女性が、中からドアを開け、言った。
「随分遅いお着きで、旦那様が、客間でお待ちです。」
と、中に通された。
これまた、以前、マイヤーズさんの家で、見たような、中世ヨーロッパを思わせる、造りとなっていた。
・・・これだからファンタジーは、どうしてこうも、似たような造りになるんだろうな。
まぁ、もし、この世界で、うっかり通された家が、鉄骨や、打ちっぱなしコンクリートのデザイン住宅だったら、違和感ありまくりなんだろうけど。あー、自宅の畳が恋しいなぁ。やっぱり私は、根っからの日本人なんだと、つくづく思っていると、また
「階段を上って、すぐ右の客まで、旦那様が待っていますので。ただし、階段の左側の部屋では、大旦那様が、すでにお休みですので、騒がないように。」
さっきの女の人が、丁寧だけど、ちょっとキツめな感じで言った。
それを受けて、小声で『失礼します』と言い、私はマリブの手を引いて、歩きだした。
絨毯敷きの階段を、音を立てないように、そっと歩く、マリブだけは、何が起こっているか、わからい様子で、私に、手を引かれながら、黙って付いてきていた。
その後、さっきのメイドさんが、言っていた扉の前に着いた。大旦那さんが、寝ているということもあり、ちょっと遠慮気味に、ノックすると
「おぉ、やっと来たか。鍵はかかってないから、入って来ていいぞ。」
と、オーナーの声がした。
ゆっくりと、扉を開いて、中に入ると、豪勢なソファーに一人、オーナーが腰掛けていて、私達の姿を見ると、にこやかに笑って言った。
「まぁ、掛けたまえ、話はそれからだ。」
「あ、えぇと、失礼します。」
と、三人並んで、彼の目の前にある、ソファーにテーブルを挟む感じで、腰掛けた。それを見計らって、オーナーが私たちに話しかけた。
「リステル君に、マリブ君、お疲れ様。そして・・・獣人の君が、レーベン君だね?話は聞いている。何でも、凄い物知りだとか。世の中の見聞も、広いと聞く。」
その言葉に、レーベンが、頭を下げつつ
「恐れ入ります。」
そう言った。
「ははは、そうかしこまることは無いって。そういえば、僕の方がちゃんと名乗ってなかったな、僕の名前は、『ヘーゼルバーン』という、よろしく。」
頭を下げた。
とりあえず、オーナーの挨拶が済んだところを見計らい、私は話を切り出すことにした。
「あの・・・。昼間の事は、ありがとうございます。そして、突拍子もない話を信じてくれて。それにこんな夜遅いのに、招き入れてくれるなんて。もうちょっと早く来れば良かったです。」
すると
「もしかして、ウチの家政婦長のロッテンマイヤーに何か言われたのか?それなら、気にすることはない、彼女は、いつもあんな感じなんだ。」
そう言いつつ、オーナーが、笑っている。
それを聞いて、まず思った。
執事のセバスチャンに、家政婦長のロッテンマイヤー、どうしてこう、ベタな名前が私の前に、現れるんだろう。
これだからファンタジーは・・・。
つづく
今回のお酒の紹介。
【ヘーゼルバーン】
シングルモルトウィスキーですね、説明としては
『年間の生産量は6000本、60%がバーボン、40%がシェリーで、3回蒸溜されたスピリッツは華やかな香りを持ち、熟成が早く進む』
・・・ということらしいです。
限定品とのことで、日本には、数百本しか入ってこないそうですね。
限定品って、いい響きですよね。えぇ、わかりますとも。それではまた、作者でした。




