【第20話・連れてきてみようか】
私の変換術に呼応するように、ムチのように真っ直ぐ伸びた草が、幽霊の体を一閃する。最初、空を切るだけかと思っていたのだが
【ベチッ!】
しなやかな何かで、物を叩く音が周囲に響いた。
案の定、手応え・・・アリ。
目の前の鉢植えから、視線をずらし、音の方へと、目を向けると、さっきまで、宙をさ迷っていた幽霊が、うつ伏せの状態で、地面に落ちていた。
「チャンスよ!レーベンっ!取り押さえてっ!」
咄嗟に叫ぶ私にレーベンが
「はいよっ!」
一声叫ぶと、幽霊に飛びかかり、馬乗りになった。が、しかし・・・
「リステル、何か、手応えが無いんだが・・・。」
しゃがみこみ、掴もうとしているのは、見えるけど、彼の二本の腕は、空を掴んでいる。
確かに、彼の下敷きになるように、確かに、幽霊は居る。
モタモタしている間に、幽霊はまた、宙を舞った。そして
「オマエタチ、敵ダ・・・。」
カタコトで喋っているので、感情の起伏は、イマイチわからないけど、髪が逆立っている、怒っているようだった。
そして、みるみるうちに、彼女の周りに、小物が集まって行く。
あれ・・・?これって、ポルターガイストの類かと思っていたけど、良く見ると、女が自ら伸ばした髪の毛で操っているのか。とはいえ、仕掛けがわかったところで、どうしようもないのは確かだった。
そのうち、宙に浮いた小物類が、レーベンに向けられる。そして
「シネ・・・。」
彼女が、一言呟くように言うと、それが一斉に、レーベンに向かって行った。
「レーベンっ!避けてっ!」
私の声に、余裕の表情を見せるレーベン。
「リステルが標的じゃないなら、丁度いい。そんなもんで、この俺様が倒れるかってんだ。相手が幽霊なら、手加減する必要はねぇしな、ちょっとばかり、本気出しましょうかね。」
そう言いつつ、剣を抜くと、体勢を低く構え、叫んだ。
『剣技!コシヒカリっ!』
『どおぉうりゃあぁっ!』と、叫びながら、剣を、風車の様に回しながら、飛来する小物の群れに立ちはだかった。
『ガキン!ガキン!』と、音がしながら、床や、壁に突き刺さる小物類。
そのうち、最後の一本が、壁に突き刺さったその時。
「ふぅ・・・大したことねぇな。」
彼が、少し、ため息をつきながら、私を見て言った。
「リステル、どうやらやっこさん、お前の草の攻撃しか、通用しないみてぇだな。飛んでくる蚊トンボは、俺に任せろ。」
「う・・・うん、わかった。サブスタンスチェンジ!」
私の変換術に呼応して、鞭のように伸びた草が、勢い良く幽霊の体を捉えた。
【ベチッ!ベチン!ベチベチベチ・・・。】
小物が、壁や床に刺さり、武器を失った幽霊は、面白いように、私の草の鞭の攻撃を一身に受け、地面に倒れていった。
「リステルっ!そのままふん縛っちまえ!」
「言われなくてもわかってるって!サブスタンスチェンジっ!」
□■□
「子供・・・だよな?」
「そのよう・・・ねぇ。」
「ってゆうか、お前も見た目、子供と大して変わらんよな。幾つだったっけ?」
「24よ。背が低いって言いたいの?うっさいわね、気にしていること言わないで頂戴。」
幽霊の正体・・・とはいえ、幽霊には、変わりはないんだけど、草のロープでふん縛り、正座させ、近くで顔を見ると、どうみても10歳くらいの子供にしか見えない。
そして、散々ぶたれた挙句、縛り上げられたのが、よほどお気に召さないのか、目に、いっぱい涙を溜めながら、ふくれっ面で、私を睨んでいた。
とはいえ、このままでは、状況が前に進まないので話しかけてみた。
「ね・・・ねぇ?アンタ、どこの子、いや、この問いかけは変か。享年はいくつ?いや、不吉すぎるだろ。アンタ、何者?・・・って幽霊に決まってんじゃん。あーもうっ!」
頭を抱える私、それに、お構いなしにレーベンが言った。
「なぁ、お前、何者だ?」
「だーかーらー、幽霊に決まってんじゃん!」
「いや、幽霊にもな、地縛霊、浮遊霊、守護霊、憑依霊、マニアックなところだと、融合霊、色情霊、混乱霊、挙げればキリがないけどな、ちなみに、『檀れい』っていう熟女の幽霊も居るらしいぞ。」
「あー、金麦が好きなんだってね。・・・ってゆうか、何でアンタが、そんなこと知ってんのよ。」
その時、不意に幽霊が口を開いた。
「お前達。あたしが何者かも知らず、盾付くとは、愚かな生き物よ。我は『ドリアード族』の精霊、人間や、獣人共など、本来は口を聞くことすら叶わん高貴な存在・・・。」
【ベチッ!】
立場が逆転したにも関わらず、高飛車な態度に、少しイラっときた私の怒りの鞭が、彼女の頬にヒットした。
すると、体らだをよじりながら、女幽霊は、大声を張り上げた。
「何するのだ!我にこのようなことをして、タダで済むと思っていまいな、死ぬまで追いかけ、呪い殺すことも出来るのだぞ、あたしが本気を出せばお前など・・・」
「あたしとやらが本気を出す前に、私が本気出そっか?ふふ・・・どこがいい?ほっぺた?それとも頭?背中っていうのもアリねぇ・・・。」
自分でもかなり、嫌な顔をしているのだろうとは、思ったものの、散々怖がらせてくれたお礼をしてやらないとねぇ、と、思いつつ、一歩踏み出すと。
「ヒッ!こやつ、鬼か、悪魔の使いの者か!」
強がってはいるものの、思いのほか怖いのか、体全体が、小刻みに震えていた。その時、一緒に見ていたレーベンが優しく言った。
「リステル、その辺にしておけ。ガキにトラウマ植え付けちゃダメだろ。なぁ、『あたし』とやら、どうしてこんな悪戯したんだ?」
すると
「悪戯じゃないもん!この草、苦しがってたんだもん。」
今度はレーベンを見て言った。
「苦しがってた?」
「そう、もう根が伸びる場所が無い、苦しいって、あたしに訴えかけていたの。だから、ここのおじさんが気づくように、動かしていたんだけど、気味悪がって、遠目に見るだけで、近づこうともしない。だから・・・」
「日に日に、動かす範囲をデカくした。そう言いたいわけか。でもどうして、ちゃんと話しかけなかったんだ?」
「だって・・・あたしが言ったってちゃんと聞いてくれるわけないもん。今までだって・・・。」
そう言うと、視線を落とした。
それを見て思った。そっか、パッと見、幽霊だもんな、この子にも、色々あったんだ。
そのまま息せき切ったように、泣きじゃくるあたしを見ていると、こう、胸に込み上げるものがあった。
「しょうがない、アンタの代わりに、私が言ってあげるわよ。それでいいんでしょ?」
縄をほどきながら言うと
「本当?」
「ホントホント、日本人は嘘つかないわよ。」
□■□
「この度は、本当にありがとうございました。まぁ、あなたたちが完全に使い物ならなくなったと、言っていたあの部屋ですが、部屋などは、なんぼでもありますので、その辺はお気になさらずに。」
次の日、起きてきたマイヤーズさんに、おずおずと、事の詳細を話す私に、そんなことは、気にならない、原因がわかって良かった、そんな感じにもとれる様に、言った。
とはいえ、勿論、ドリアードの存在の事は伏せたんだけど。
その後、ギルドから貰った書類に、サインを貰い、任務完了。
後は、戻って報奨金を貰うだけ。これで、当分、街では野宿せずに済みそうだ。
「それじゃあ、色々とありがとうございました。それでは。」
マイヤーズさんに、軽く頭を下げると、迎えの馬車に飛び乗った。
土と、石の街道を進むたび、ガコガゴと揺れる荷台に揺られながら、今回のことを思い返していた。
しっかし、本当にドリアードってのが存在するんだな。私は、その手のゲームには詳しくないけど、名前くらいは聞いたことがあるんだよな。
もしかしたら、マンティコアや、バハムートとか、居たりして。
メガフレアとか、怖いよな。実際に存在するかもしれないんだよな、なんてったって、ここは、ファンタジー世界だもの。
まぁ、メガフレアは、大袈裟だとしても、絶対口から火球とか、吐いて来るんだろうな。あぁ、怖い。なんて思っていたとき
「リステル、おい、リステル。」
レーベンが話しかけてきた。
「ん・・・?何よ。」
「とりあえず、コイツもくっついて来るってよ。喧嘩すんなよ。」
何よ、と、思ってレーベンを見たその時、今まで気付かなかったけど、彼の肩に何かが乗っかってるのが見え。サーっと、血の気が引いていくのがわかった。そう、それは・・・
「リステルよ、我が昨日、言った言葉を忘れたわけではあるまいな、これからお前を呪い、死ぬまで追いかけると。これからオマエの宿敵になる名前を聞いておけ、あたしはドリアードの『マリブ』、お前の苦しみもがく姿・・・」
「・・・サブスタンスチェンジ。」
レーベンの肩の上で、勝ち誇ったように、高笑いをしながら言うマリブの言葉が終わる前に、私が、携帯用に持ち歩いている草の束が、彼女に向かって伸び
【べちん。】
彼女の頬に、ヒットする音が、周囲に響いた。
つづく
今回、初登場となりました、『ドリアード』
RPGでおなじみの、木の精霊ですね。そろそろ新キャラでも出さんとなぁ、そんなことを考えながら、とあるスマホのアプリの中に、ドリアードってのが居まして。コイツぁ丁度いい。ってことで、登場させてみました。
最後に
恒例となりました、今回のお酒の紹介。
【マリブ】
リキュールです。
ココナッツ風味のお酒です。
ワタクシ、ココナッツ自体は、結構苦手ですが、リキュールだと、結構美味しいです。
有名所でいうと、『マリブコーク』。マリブのコーラ割ですね。
手軽にトロピカル気分。是非、お試しあれ。それでは、作者でした




