【第16話・焼いてみようか】
「いらっしゃい!関西風お好み焼き、焼きたてですよー!」
「なぁ、リステル、今更だけど、何でこんなことやってんだろ?」
いつものフードではなく、ハッピを身に纏ったレーベンが、お好み焼きを引っくり返しながら言った。
「しょうがないじゃん、『B級グルメ大会』なんだから。はいはい、口動かす前に、手を動かすっ!コゲちゃうじゃないの。」
「へーいへい。親方ぁ。」
□■□
時を遡ること、三日前、私はとある街に着いた。
そこは、『大会都市・コウハク』、お祭り好きの気質らしく、なんだかんだで、『大会』というものが、開かれているのだ。
丁度、私が立ち寄った時に、催されていたのが、この、『B級グルメ大会』の受け付け終了が、翌日に控えていた日だった。
勿論、日本に還る、その目的のため、次元の扉的なものが無いか、探しに来たのだけど、優勝賞金を見て、驚いた。その額が
『1.000.000マッカラン』
日本円にして、いくらかは想像もつかないけど、かなりの額である。
大会出場者は、それぞれ、露店を出して、その、売上を競う。
しかも、『大会都市』と、銘打っているだけあって、出場費は、タダ、露店も、街が、用意してくれるということなので、かかるのは、材料費のみ。
まぁ、入賞しないと、売上の半分は、賞金として、持っていかれてしまうのだけど・・・私には、勝算があった。
私は、この世界からみると、異次元の人間だということ。
ここに来るまでの間、様々な物を食べた。
どうやら、この世界の食事は、『素材の味を生かす』、まぁ、良く言えば、贅沢、悪く言えば、『焼いただけ』・『煮ただけ』・『突っ込んだだけ』。
王族とか、貴族は、どんな食べ物を食べているかなんて、今の私には、知る由も無いけど、今回の目的は、あくまで、『B級グルメ』
学生の時に、学校帰りに、食べていた感覚でメニューを決めればいいのだ。
食材については、日本と、大して変わらない。
小麦粉はある、キャベツもある、卵もある、そして、豚肉もある。
この勝負、高い確率で勝つる。
「フフ・・・フフフフフ・・・。」
思わず、笑をこぼす私に。
「今日のリステル、何か怖いんだけど・・・。」
顔を引つらせたレーベンが、ボソっと言った。
□■□
「じゃあ、試作品、作ってみるわね、この世界の味付けは、知らないから、レーベン、アンタの舌を信じることにするわ。」
「あぁ、旨いものなら、大歓迎だ。早いとこ頼む。」
と、ワクワクしながら待つ、レーベンの前で、まずはキャベツを千切りに・・・千切り、千切りって、なかなか難しいわね。
「リステル、キャベツの爆破死体みたいのが出来上がっているんだが、これでいいのか?」
「爆破死体とは失礼ね、そこまで言うなら、アンタがやってみなさいよ。」
「本当は、どうやって切るんだ?」
「そうね・・・」
と、やり方を説明すると『わかった。』そう言って、包丁を持った。
ま、所詮、ベースが犬のレーベン、爆破死体どころか、キャベツの腐乱死体の出来上がりよね、と、思っていたところ・・・
【カカカカカ!カカカカカカッ!】
まな板が見事に一定のリズムを刻み、キャベツも刻む、みるみるうちに、綺麗な『千切りキャベツ』の出来上がっていった。
「フゥ・・・『千切り』ってヤツを初めてやってみたが、こんな感じでいいのか?」
「・・・いいです。」
とにかく、気を取り直して、具材を刻み、生地の準備、溶いた小麦粉に、具材を混ぜて、熱した鉄板の上に乗せた。
『ジュー・・・』と音を立てる生地、それに、これまたレーベンが薄く切った半分火を通した肉を乗せて・・・と、そこそこ火が通ったところで引っくり返す。
「ヤッ!」 【べちょっ。】
気合十分で臨んだ、お好み焼きのひっくり返しの段階で、失敗し、見るも無残な、お好み焼きの爆破死体の出来上がり・
「・・・。」
「・・・リステル、俺、やろうか?」
「・・・頼んます。」
これまたレーベンに、ちょっとコツを教えただけだったんだけど
「やっ!」
「そうりゃっ!」
「もう一丁っ!」
芸術的に、丸く整えられたお好み焼きが、次々と出来上がっていく。
「ん・・・リステル、どうした?そんな隅っこで、しゃがみこんで。腹でも痛いのか?」
乙女としてのプライドを、ズタズタにされ、いたたまれくなり、部屋の隅っこで体育座りをする私に、不思議そうに声をかけてきた。
「・・・痛いのは腹ではなくて、心です。」
とにかく、意外なことに、レーベンはことごとく器用だった。
確か、この世界の設定では『獣人は力馬鹿』だったはずなのに、開始16話にして、設定の覆されよう。
目の前に、この世界を作っている作者が、うっかり出て来ようものなら、まっすぐ行って右ストレートで、ぶっ飛ばしてやるのに。
そして、お好み焼き作りが、よほど楽しかったのか、一心不乱に焼き続ける横顔を、ぼんやりと見ながら思った。
レーベンって優しいし、器用だし、でも、みてくれがハスキー犬なんだよな。これが、超イケメンの人間だったらなぁ、なんて思ってしまう。
その時、不意に、レーベンが、私に声をかけてきた。
「おい、リステル、何ボーっとしてんだ?もう、結構焼きあがったから、そろそろ食べたいんだけど。」
「え?あ、そうね、とりあえず、さっき、具材と一緒に、ソース的な何かを買ってきたから、食べてみましょ。」
「そうだな、ってゆうかお前、ちょっと顔が赤いぞ?どうした?」
「・・・何でもないです。」
□■□
『これから、B級グルメ大会を開催しま~す!』
会場に響く、大会開始のアナウンス、ここからバトルのスタートだ。
この日のために、心配顔のレーベンをよそに、持ちうる資材を投げうって、食材を調達し、今日に臨んだ。
全財産を、この日のために、つぎ込んだ。少し、不安はあったものの、大丈夫、日本人が、太古の昔から鍛えてきた味覚と、食へのあくなき欲求が、こんな異世界人に、負けるはずなどない。
でも、こんなことなら、もっとちゃんと、お母さんの手伝いをしておくんだったな。
そばや、うどんの一つも打てれば、もっとコストを抑えられたはずなんだよな。
私の横で、今日の料理長のレーベンが、必死にお好み焼きを、焼き続ける姿を見ながら思った。
するとその時。
「何か、見慣れない食べ物だねぇ。どれ、一つ貰おうか。」
モグラみたいな姿の獣人が、私に声をかけてきた。
そう、全国各地から、この大会と、高額の賞金目当てで、色んな人種がやってくる。
この街には、亜人や、獣人の姿も結構目立っていた。
「はい、まいどありぃ~♪」
プラスチックのパックは無いので、その代わりの紙に包んで渡した。
受け取ると、それをすぐさま食べる、モグラの獣人、すると・・・。
「うっ!うまいっ!何だ!?この口に入れた途端、肉と、野菜の旨みが凝縮された、とろけるようなこの食感。コクがあるが、しつこくない、噛めば噛むほど、味が増してくる!そして、この春風のような清々しさ!これは・・・食の大革命、ややっ!そして、ピリリと辛い、紅しょうがも、少し重たくなった口の中に、新風を巻き起こす!す・・・素晴らしいっ!」
言い回しが少し、青年誌で見たことのある、実の父と仲が悪い、新聞社に勤める食通の人っぽかったのが、気になったけど。まぁ、いたく感動しているっぽいから、いっか。
その後も、売れ行きは上々。しかし・・・
「リステル、現在8位だってよ、売上。」
休憩がてら、大会本部まで、様子を見に行っていたレーベンが戻ってきて私に言った。
「えぇっ!?マジ?」
「マジもマジも、大マジ、ちょっと視察がてら、他の露店を見てみたんだがな、値段設定が低すぎるのが、原因かもしらんぞ。他のところから比べると、半分以下。」
こんなところで、つまづくとは。レーベンの出来栄えに、有頂天になっていて、他のテントを視察してなかったのが、敗因か。
「困ったな、5位までには入らないと売上が半分、ボッシュートされちゃうよ。レーベン、どうしよう・・・。」
「うーむ・・・しょうがない、一個の量を倍にして、値段をちょっと上げるか。今更感があるが、やってみる価値はある。」
「そうね・・・、それしかないのかぁ・・・。」
「ま、最後まで諦めるわけにはいかんしな、『やるだけのことは、やってみろ、それでダメなら諦めろ』。そう爺さんが言ってたしな、珍しさもあって、評価は上々なんだ、どうせなら、入賞して、今後の路銀に困らんようにしたいしな。」
「わかった、私も呼び込みの方で頑張る。声が枯れて、喉が潰れるまでっ!」
お互い、気合を入れ直し、テントに戻ったその時。
【ずどーん!】
私のテントのすぐ近くで、何かが爆発する音が聞こえた。
そして、逃げ惑う人の声や、大声で怒鳴る男の人の声が周囲に響いた、その時。
『運営本部です!ただいま、獣人の二人組が暴れています!皆さん、大会は一時中断します!現在、護衛団の方に、連絡していますので、売上金を持って、避難してください!』
広場に、大会本部からの、アナウンスが響いた。
「・・・ったく、このギリギリの状態で問題起こすなよ。ったく、空気の読めねぇヤツも居るもんだ。」
レーベンが空を見上げて、唇を噛んだ。
「私、ちょっと様子を見てくる!」
私が、そう言って、テントを飛び出すと
「待て、リステル!俺も行くっ!」
レーベンも後ろから着いてきた。そして、テントから出てすぐのことだった。
「あっ!お前は、この間の変な喋り方をする電波っ子!」
聞き覚えのある声がした。その方を見た時、二人組の獣人が、目に映った。
『ホワイト&マッカイ』!
どうしてこんなところに・・・?
つづく。
-ここから後書き的なものです-
前回、ちょっとシリアス調になってしまったので、力業で、いつものコメディに軌道修正しました。
今回は、『お好み焼きを作るよ』そんな回になってしまいましたね。
そして、このお話を書くにあたって、お好み焼きのことを調べてみたんですが、ちょっとびっくり。
広島風って、麺が入ってるんですね。
初めて知りました。
ワタクシが、大学生の頃、後輩が『広島風です』って作ってくれたんですが、それには
麺が入ってませんでした。
ま、作ってくれたのが、山形出身の子だったんで、しょうがないのかもしれません。
当初、広島風で書いていたので、大幅に軌道修正することと相成りました。いやーあぶない、あぶない。
そんなわけで、たまにはお好み焼きもいいかな、と思ってしまいました。そして
今回のお酒の紹介。
『マッカラン』
今回、お金の単位に使ったお酒です
スペイサイドのウィスキーです。
以前から、ワタクシが後書きで、書いておりますがウイスキー系は飲めないので、味はわかりません。
ですが、個人的な感想を言わせてもらうとするならば。
よくまぁ、売れるもんだ。
このお酒を触らない日は無いと言っても、過言ではありません。
ウチの店に置いてあるだけでも、6種類程。
4000円代の物が、売れております。
しかし、これ一本で、ワタクシの好きな金麦が何本買えるん・・・イヤイヤイヤ、そんな下世話な事を考えてはいけませんね。
それではまた、作者でした。




