【第14話・磨いてみようか】
「じゃあ、俺は街の外で待ってる。」
一人先頭を歩く、ルジェさんの後に着いて行こうとした矢先、レーベンが言った。
「ちょい待ちっ!」
くるりと背を向け、立ち去ろうとした彼の、首根っこを捕まえると
「わっ!俺はあまり人間と、関わり合いになりたかねぇんだよ、この街には、ギルドは無ぇし、獣人の姿も見えん。面倒事は起こしたくねぇからな。それに、依頼を受けたのは、リステル、お前だろ?」
「だってー、危険な依頼だったらどうすんのよー、か弱い女の子一人でこなせるわけないじゃん。だから・・・お・ね・が・い・ついてきて。大丈夫よ、フードを深く被ってりゃバレないって、だから、ねっ」
通じないとはわかっていたが、そでを引っ張りつつ、思いっきり上目遣いで頼んだ、すると
「えー・・・。」
「『えー』じゃないっ!行くったら行くのっ!」
そのまま、嫌がるレーベンを引っ張り、ルジェさんが、歩いて行った方に向かった。
□■□
「まぁ、二人共、くつろいで頂戴な。」
ここは、ルジェさんの家の客間、無駄に広い部屋に、無駄に大きい壺や調度品、まんま『お金持ちですぅ!』みたいな部屋だ。
そして、私達に、あてがわれたフカフカすぎるソファー、ずっと座っていたら、腰を痛めそうだ。
自己紹介も終わり、その後、出されたお茶を一口すすっていると
「そうそう、依頼の話なんだけどさ、その前に、リステルちゃんの相方の・・・そう、レーベンさん、どうしてフードを顔が見えないくらい被ってるのかしら?怪しさ大爆発よ?もしかして、おたずね者か何かじゃないでしょうね?」
ルジェさんが、レーベンに疑いの目を向ける。すると彼が
「とんでもないです、あの・・・ちょっと目にでっかい物貰いが出来てまして、恥ずかしいので隠している次第です、ハイ。決して怪しいものじゃござんせんでおまんがな。」
慌てて取り繕うのだが、何か言葉遣いが変だ。すると
「なんだい、物貰いかい、あ!そうだ!オバサン、いい薬持ってるから塗ってあげようかい。とりあえず、フード取りな。」
出た!オバサンの基本スキル、『おせっかい』。いや、とりあえず彼女を止めないと!
と、思った時には遅く、その、太った巨体に似合わないほどの、俊敏な動きを見せると、レーベンのフードをまくり上げていた。
そして、露になる青いハスキー犬の彼の素顔、それにルジェさんの動きが止まった。レーベンもびっくりした表情で固まっている。
「あ・・・。」
「う・・・。」
これはマズい!
「あの!その!これはですね!その・・・」
するとルジェさんが、ため息をつきながら言った。
「そういうことかい、どうりで、フードを取りたがらないわけだ。」
そして、レーベンも
「リステル、だから俺は嫌だって言ったんだ、折角の依頼なのに、これでパアになっただろ?」
そう言ったとき
「何もアンタが獣人を連れてるから、依頼は取り消すなんて、言うつもりはないんだけど。」
ルジェさんが言った。
「え・・・?」
「確かに、この街は獣人嫌いが多いがねぇ、アタシやウチの家族別さ、外見で差別するなんて、アホらしいことするかね、こちとら、商売人だ、亜人だろうと、獣人だろうと、商売をしなきゃならない。それに、この子と一緒に旅してんだろ?悪いヤツじゃないのは、一目見たらわかるよ。」
「良かった・・・。」
「とはいえ、街中を堂々と歩くのはオススメ出来ないね、この街は、獣人が出入りするのを嫌って、変換師のギルドすら置くことを拒否してるからね、フードを目深に被っていたのは正解。」
そう言って笑った。そして、ルジェさんは続ける
「そうそう、今回のリステルちゃんと、レーベンにやってもらいたいことなんだけどさ・・・。」
「はい。」
「鐘の掃除なのよね。」
「はぁ・・・。」
私は彼女の言葉に、気の抜けた返事をすることしか出来なかった。
□■□
「デカいな・・・。」
「デカいね・・・。」
工場の敷地内にある、大きな大講堂、そのど真ん中の天井に、薄汚れた鐘が吊るしてあった。
ルジェさんが言うには、工場の休憩時間を告げる鐘らしく、長い間、ろくすっぽ掃除をしていなかったせいで、埃が貯まり、綺麗に鳴らなくなったそうだ。
最初は、工員達で、何とかしようとしたものの、場所が場所だけに、ハシゴもかけられず、長い棒の先に、布を巻いて、ツンツンつつくだけ。勿論、そんなものじゃ落ちる汚れではなく、手をこまねいていたというわけらしい。
そして、もしかしたら、変換師なら何とかしてくれるかもしれないと、街に呼ぶ算段をしていたところ、私の姿を見つけた、そういうことだという。
「本当は、水の変換師さんを呼んで、水でもぶっかけて貰おうと思ってたんだけどさ、ま、樹木のアンタがどこまで出来るかはわからないけどさ、ちゃっちゃとやっておくれよ。」
ケラケラと、笑いながら言うルジェさん。
しかし・・・随分と高いところに作ったもんだ。はてさて・・・どうしたものか。
頭を捻る私に、レーベンが言った。
「なぁ、とりあえず草でも伸ばしてペチペチやってみたらどうだ?」
「そんなことで上手くいくかなぁ・・・。」
「物は試しさ、やってみないことには終わらんぞ。」
「そうね、やってみる、そんじゃ『サブスタンスチェンジ』!」
ここに来る前、道っぱたで摘んだ草に、力を注いだ。
□■□
-それと時を同じくして、街のとある一角-
「おい、街の中に獣人が入り込んでいるらしいぞ!」
「何だって!?本当か?」
「ほんとほんと!さっき、洗剤屋が言ってたんだけどな、妙な女変換師の連れで、フードを被ったヤツなんだけどよ、はっきりとは見たわけじゃないんだが、チラリと見えた顔が、獣人みたいだって、言ってたんだよ。」
「それで、その獣人とやらはどこ言った?」
「それが、ルジェおばさんに連れられて、工場の方に向かったって。」
「またあのオバサンか!あの人、変わってるからな、前も亜人を工員に迎えて、街中大騒ぎになったってのに、亜人ならともかく、獣人を入れるとは、何考えてんだ!?あの人。」
「とりあえず、獣人なんか、早いとこ街から追い出さないと。ガラの悪い連中の溜まり場になったら、たまらんからな。とりあえず、街で手の空いている連中を集めろ、万が一、獣人だったら、全力で叩き出そう。」
「わかった、ちょっと皆に声かけてくるわ!」
□■□
「・・・ふぅ、やっと終わったな。」
体中、埃だらけのレーベンが、額を拭ってため息をついた。
「お疲れ様。色々試してみたけど、やっぱり最後は人の手よね。」
そう、彼に労いの声をかけると
「お前はいいよな、下で草伸ばしてただけだもんな。」
「だってしょうがないじゃない、『草ペチペチ作戦』は全くダメだったんだし、やっぱりこういう物は、人の手で擦らないとダメってことよねぇ。」
そう、色々試してみたけど、やっぱりダメだったので、結局、草をレーベンに巻きつけて、そのまま、彼ごと上昇、持たせた雑巾で、綺麗に拭くことにしたのだ。
始め、見上げた時に、くすんで、光を失っていた大きな鐘が、綺麗に磨かれて、本来の輝きを取り戻していた。
作業が終わり、地面にへたりこむ私達に、様子を見に来たルジェさんが、すっかり綺麗になった鐘を見て、上機嫌で言った。
「はいはい、お疲れ様。いやー、見事に綺麗になったわね、ありがとうねぇ。それじゃおばさん、約束通り、洗剤を好きなだけあげちゃう。」
「いやったー!ありがとうございます!レーベンレーベン!やったね、これで、青臭い女から脱却よ!」
思わず、彼に抱きつくと
「へーいへい、ようござんしたねー、俺としては、そんなものより、食い物の方が有難いんだがな。まぁでも、お前が喜んでるなら、それはそれで良かったのか。」
そう言って、笑った。
「そうね、獣人のアンタにもお礼をしようか。ま、大したご馳走は出せないけどさ、ウチでご飯でも食べてきなよ、アンタのリクエストに応えたげるわ、好きな物言いなさいな。」
そんなルジェさんの言葉に、露骨に嬉しそうな声を出すレーベン
「うおっ!?マジか!そりゃあ助かる!そんじゃ遠慮なく言わせてもらうぜ!俺の食べたいのもは・・・」
その彼の言葉を遮るように、私は言った。
「肉・・・でしょ?」
「何だよ、わかってんじゃねぇか。」
「そりゃあアンタ、単純だもん、フフフ。」
するとルジェさんが、少し力なく笑いつつ言った。
「本当にアンタ達、人間と、獣人っていう不思議な組み合わせなのに、仲いいわねぇ。ホント、獣人がみんな、アンタみたいだったら、差別なんてなくなるのにね。ウチもさ、一時、亜人の子がここで働きたいって来たことがあったのよ、アタシ的には真面目そうだし、人も足りなかったから、働いて貰おうと思ったんだけどさ、結局、街の連中に人間じゃないからって、叩き出されちゃってね。可哀想なことしたよ・・・。」
「えっ!?どうしてそこまでされちゃうんですか?」
「アタシの生まれる前の話なんだけどね、昔、この街は、気性の荒い獣人の集団に襲われたことがあったのさ、けが人もたくさん出たし、建物は滅茶苦茶、再生するまでに、結構時間がかかったんだ。それが根強く残ってるのさ、でもね、アタシみたいにこうやって、長いこと商売やってると、獣人や、亜人の中にも、気立てのいいのが居るってのがわかったのさ。そういう子に限って、人目を避けて、暮らしてるのさ。それが、不憫でならなくてね、ろくでもないのも居るけど、みんながそうじゃない、それをわかって欲しかったんだけど、なかなか受け入れて貰えなくてさ。アタシゃこの街では変人扱い、ま、慣れたし、商売に差支え無いから気にしてないさ。」
「・・・。」
「あらやだ、アタシったらすっかり感傷に浸っちゃったみたい、オバサンの昔話は置いておいて、ご飯にしましょうか。沢山つくるから、二三日飯抜きでも耐えられるくらい、詰め込んで行きなよ。」
そうなんだ、色々あったんだな、ルジェさんも、この街も。
私はまだ、獣人に襲われたこと・・・ってゆうか目の前のレーベンに現に襲われたけど、なんだかんだあって、命を救ってくれて、私を守ってくれて、すごく優しい。
ま、ちょっとバカなのは、しょうがないけど、一緒にいて安心する存在なんだよなぁ、レーベンって。
その間に、もう背を向けて、大きな体を揺らしながら、講堂を出ようとするルジェさんに着いていこうと、立ち上がったその時、『バンッ!』と、扉が乱暴に開くと、数人の男達が、ゾロゾロと入ってきた。
手には、それぞれ、何かを持っている。そして、先頭の男が
「ルジェさん!アンタ、獣人をここに連れ込んでるだろ!?一体どういうつもりだ!?」
怒気の孕んだ大声を上げた。
つづく
-ここから後書き的なものです-
恒例となりました、今回のお酒の紹介のコーナー!
・・・は、ありません。
尺の都合で、名前を明かすことなく、区切りの所が来ちゃったんですよ。相すみませんです。
そんなこんなで、これからもよろしくお願いしますね、工場長でした。




