【第13話・求めてみようか】
「石鹸の匂いが恋しい・・・。」
「石鹸?何だそりゃ?」
現代日本から、ファンタジーの世界へと飛ばされた私としては、この世界では、色々と困ることがあった。
元々、そんなにサバイバーな生活をしていたわけではないし、経験といえば、学校の炊事遠足くらいだ。
でも、この世界に来てからというもの、毎日がハードなキャンプをこなしているようなもの。
宿に泊まるというのは、あまりなく、基本は野宿。
シャワーなんて無い、風呂といえば、川で水浴びくらい、幸い、この世界は、温暖な気候なので、多少は水が冷たいものの、風邪をひくことは無い。
洗濯も、どうしても洗濯したいと、泣きつく私に、レーベンが『ヨゴレガイイカンジデオチ草』という、この世界の洗剤代わりの草を教えてくれた。それを、すりつぶして、衣類と一緒に洗う。
多少は青臭くなるものの、嫌な匂いはしない。でも・・・
「もう限界っ!どうにかならないの!レーベンっ!」
「どうにかならんのか、って言われてもなぁ・・・ってゆうか日本人ってのは、そんなに綺麗好きなのか?」
「当たり前じゃん!ペン一つとっても、抗菌、そして防臭。年頃の女子からはいい匂いがするものよ。それに引き換え、私と言えば、例の草の御陰で服からは青臭い匂い。うっかりこのまま還ったら、恥ずかしくて友達に会えないわよ。まぁ、アンタは獣臭いのが普通だからいいわよね。今、目の前にサンタが現れたら、瞬時に洗剤をお願いするわ。」
「何だよ、『元の世界に還りたい』じゃないのかよ。とはいえ・・・あ、そういえば・・・。」
レーベンが、何かを思いついたような声を上げた。
「そういえば?」
「ここ(商業都市で・ディンプル)から少し離れてるが、確か・・・花とか果実のような匂いの洗剤を作っている街があったな。でも、結構高級品で、貴族とか、王族しか使わんらしい、一般人は、水洗いかこの草を使ってだな・・・」
洗剤がある!レーベンはまだ、くどくどと、喋っているようだけど、そんなものがあるなら、早く行きたい!彼の言葉を遮り
「行くっ!次の目的地はそこっ!」
「えっ!?でもそこには変換師のギルドは無いんだぞ!?お前、10話ちょっとしか経ってないのに、目的を忘れてないか?」
「いいの、このままだと、目的を果たす前に、乙女としての何かを失ってしまうような気がします。」
「そうか・・・。面倒な生き物だんだな、女子ってのは。」
□■□
-工業都市・ブルーダイヤ-
「うん!これこれ、この匂いよ、私が臨んでいたもの!都市の名前も『金、銀、パールプレゼント♪』的なキャッチフレーズが合いそうなのが、いい感じだし」
地面まで、石畳とはなっていないものの、多くの人が行き交い、活気で溢れていた。
しかし、喜ぶ私の横で
「リステル、本当にこんな甘ったるい匂いを体から漂わせるのがいいのか?俺には理解出来んが。」
あまり、甘い匂いが好きではないのか、渋い顔をしているレーベン。
「まぁ、私の言っている洗剤の匂いとは、ちょっと違うけど、これで十分、とりあえず、当面の分を買いだめしないとね。行くわよ!レーベンっ!」
「おいっ!ちょっとリステルっ!俺まだ、フード被ってねぇんだよ!」
慌ててフードを被るレーベンを尻目に、街の中へと急いだ。
□■□
「・・・高い。」
工場直営と思われる、洗剤の売り場に着いたのだが、バカみたいに高い。
私が今、手に取っている服を洗う『ビーズ入り何とか』、これ一個の値段で、何泊出来るんだろう。
「だろ?だから言ったんだ、貴族や王族しか使わんって、所詮、庶民には手が届かねぇんだよ。わかったか?」
軽く落ち込む私に、レーベンが静かに言った。とはいえ、ここまでやってきて、諦めるわけにはいかない。
「でーもー、でーもー、やっぱり欲しいっ!」
日本なら、そこらで数百円も出せば買える洗剤、何でここまで意固地になっているのかも、自分ではわからなかったけど、やっぱり欲しいものは欲しい。レーベンに、だだをこねまくっていると
「うーん・・・コレ買っちまうと、この間貰った金が全部飛ぶぞ、体は綺麗になるかもしれんが、次の依頼をこなすまで、飲まず食わず、お前、我慢出来るか?」
「うっ・・・。」
あちらを立てればこちらが立たずとはこのことか。
最近は、野宿続きで、食べ物といえば、小麦っぽい物を固めたカンパンみたいな何か。
そろそろちゃんと塩味のきいたものを食べたい。しかし、体は綺麗にしたい。
どちらを取るか、困った、うーん、困った。こうなったら、レーベンに何とかしてもらおう、ここは乙女の必殺技、『上目使いで可愛さをアピールしつつおねだり』大概の男ならこれで堕ちる。
思いっきりモジモジしながら上目使いをキッ!と決めつつ
「・・・レーベン、どうしよう。」
これでどうだ!と、渾身の可愛さアピールするものの、当の本人のレーベンったら、訝しげな顔をしながら
「どうした、リステル、腹でも痛いのか?」
畜生っ!最近は、気にならなくなったけど、やっぱり所詮は犬っ!色仕掛けは通用しないのかっ!
「・・・何でもない。とはいえ、諦めるしかないのかー」
天を仰ぎ呟いたその時。不意に後ろから声をかけられた。
「そのポーチ、アンタもしかして変換師さんじゃないか?」
振り向くと、エプロン姿の叔母さんが笑顔で立っていた。
「えぇ、そうですけど。」
「こんなギルドの無い街に変換師さんとは、珍しいわねぇ、何使いなの?」
「樹木です。」
「あらまぁ、随分地味な術を使う変換師さんねぇ、変換師を目指す人も、自分の属性が樹木だと知った途端、無理して属性を変えるか、諦めてしまう人も多いのに。それで、こんなところまで何しにきたの?」
・・・薄々感じていたけど、樹木使いってのは、そんなに人気が無いのか。それにしても、言いたいことをズケズケと言ってくるオバハンだなぁ。
「え・・・と、ちょっといい匂いのする洗剤を見に・・・。」
「あらまぁ、バカ高くて驚いたでしょ?ウチのお客は、王族や貴族がほとんどだからねぇ、変換師といえども、手が届かないのよね。」
「はは・・・ごもっともです。」
思わず苦笑い、このオバハン『ウチのお客』と言っていたから、多分、工場の関係者なのだろう。まぁ、丸々と太って、さぞやいい生活をしているんだろうな。
ともかく、ここで時間を潰していてもしょうがない、さっさと退散するか。そう思い
「それじゃあ、私達はもう行きますので、これで・・・」
と、立ち去ろうとした、その時
「それじゃあさ、アタシの依頼を受けてくれないかしら、そうしたら、ウチの商品、わけてあげるわよ、勿論、タダで。」
タダ!?
私の体に電撃が走った。
ダタ!何といういい響きなんだろう。思わず脊髄反射で言っていた。
「やります。」
そんな私の言葉に
「おいおいっ!依頼内容も聞かずに即答していいのかよ!」
レーベンが声を上げた。
「いいの、これが、蓋を開けたら危険な依頼だったとしても、いざとなったらアンタ生贄にして逃げるから。」
「え゛ぇぇぇぇっ!」
「そんじゃ決まりね、あ、そうそう、アタシは『ペシェ=ルジェ』、住んでるところは近くだから、とりあえず後ろの大男と一緒に、ウチに来なさいな、話はそれから。」
そう言うと、ペシェさんは、大きな体を揺らして歩きだした。
つづく
-ここから後書き的なものです-
ワタクシ、以前から不思議だったんですよね。
ファンタジーの世界って、やたら汗をかく機会が多いはずなのに、洗濯や、風呂はどうしてるんだろうって。
この世界は、年間を通して、『春』みたいな気候に統一していますが、体を動かすことが、現代日本より多いファンタジーの世界、そこらへんは、どうしているのでしょう。
と、そんな疑問を形にしたのが、今回のお話でした。
それはそうとして、恒例となりました。
今回のお酒の紹介。
ちょっと物をズケズケと言うオバハンの名前に使った
『ルジェ・ペシェ』
同じ感じの『ルジェ・ピーチ』よりも濃い感じのピーチ系のリキュールです。
これは、素直に美味しいです。まぁ、桃缶のシロップ飲んでる感じ?
桃缶好きにはたまらないのではないでしょうか?
基本、カクテルのベースとして、使われているようですね。
そんなこんなで、工場長でした。




