「欲しーの!」と言わない欲しがり義妹の話
「ウワーン!グスン、グスン、嫌なの~!羽毛を入れているから空気層が出来て防寒効果のあるドレスをアルテシアに着せたくないの~、メアリーだけの秘密なの~!」
また、義妹のメアリーの我が儘が始まったわ。
彼女は北方に領地を持つ男爵でもあるメアリー、訳があって公爵家に客人待遇として滞在してもらってから義妹にしたわ。
義姉として我が儘を許してはいけませんわ。
「オ~ホホホホホホ、メアリー!お前の魂胆は分かっているわ。また良い物を独り占ね!
これ、セバス、北方の領地からドレスを取り寄せなさい!」
「はい、お嬢様」
「いくらかかっても良いわ。今度のお茶会まで間に合わせなさい」
「畏まりました」
「ウワーン!お茶会にメアリーの作った熊の木彫りを飾ったら嫌なの~!」
「それもお見通しよ。テーブルに一個ずつ熊の木彫りを飾りとして置くわね」
「グスン~、グスン!」
侍従に命令し取り寄せた。
お茶会で着る。綿のドレスに比べて・・・
「あら、確かに暖かいわね。センスは田舎そのものですけど・・・」
「「「キャー!アルテシア様素敵ですわ!」」
「異国風ですね」
「北方の領地からですわ」
あら、好評だわ。やっぱりメアリーは隠していたのね。
許せないわ。でも、ホストとしてお菓子を食べてもらわなければ。
「皆様、焼き菓子をお食べ下さいませ」
「まあ、甘い。上品な甘みね」
「砂糖かしら・・でもおかしいわ。蜂蜜かしら?」
砂糖、蜂蜜?違うのよね。
「オホホホホホ、砂糖ではございませんわ。これは・・・メープルという甘味料ですの。ガイアー男爵家の領地からですわ」
「まあ、メープル?素敵な名前ですわ。原材料は何ですの?」
樹液と言ったら嫌がるかしら?
「オホホホホ、妖精の森から採れますのよ」
とりあえず誤魔化したわ。
そして・・・
「これが本命のアマズラですわ。そのまま舌で味わって下さいませ」
「まあ、薄いイチゴの色ですわね。イチゴの液ですか?」
「いいえ。味わって下さいませ。それからですわ」
これは危険な甘味料だわ。
これを食べると・・・
「キャアアアーーーーー、甘い!・・・でも、すっと引くのね」
「不思議だわ・・・・後味が良すぎるわ。上品な味ですわ」
「あの、欲しいですわ。どこで売っているのかしら・・」
「フフフフ、これはハイテ男爵メアリーの領地からですわ」
「是非、欲しいですわ・・・」
「オホホホホ、お値段はその重さが金と同じと思って良いですわ」
これも好評だわ。
「我が家門が出資して工房を作りますのよ。そしたら皆様にお分け出来ますわ」
そうだわ。これからアマズラを客人に振る舞える家門が富と権威の象徴になるわ。
「やあ、お嬢様達。失礼するよ」
その時、私の婚約者のダグラス殿下が側近を連れて来られたわ。
護衛騎士にして友人のマックス殿。
皆、席を立ちカーテシーをしたわ。
「まあ、殿下のお席を用意して」
「いや・・・君は騙されていないか?」
「えっ?」
「最近のアルテシアの施策は北方の街道を整備して産物を王都で売るようにしているが、君が宣伝係になっていないか?」
「ええ、メアリーが良い物を独り占めしていますわ」
「君がメアリーに騙されていないか心配だ。そのアマズラを分けてくれ給え」
「はい、どうぞですわ」
殿下にアマズラの差し上げている最中に一年前のことを思い出したわ・・・
☆☆☆
王国は南方貿易の開拓に成功し砂糖が多量に入って来たわ。
将来の王妃になる私は王国の婦女子を統括する立場にあるわ。貴族令嬢達をガーデンパーティーに招待し砂糖を沢山使ったお菓子を振る舞ったわ。
「オ~ホホホホホ、砂糖を惜しげもなく使ったお菓子ですわ。お食べ下さいませ」
「「「アルテシア様、有難うございます」」」
私は見回るわ。あそこは北方の領地のエリアね。
北方は貧しいから砂糖の甘さに喜んでいるかしら・・・
「皆様、ごきげんよう。お菓子は如何ですか?私が考えて王都の一流菓子職人につくらせましたの。北では食べたことございませんわよね」
「あ、有難うございます」
「美味しいです」
「王都は素敵ですわ」
皆、お礼を言うわね。
しかし、年齢の高い順から挨拶をして、幼女の部に行ったら異を唱える子がいたわ。
「オホホホホホ、これが王国の至高のお菓子ですわ。味わって食べて下さいませ。
これより美味しいお菓子はございませんわ」
「あの公爵令嬢様、お婆様の焼き菓子の方が美味しいですわ」
カチンときた。でも私は16歳の淑女よ。軽くながしたわ。
「まあ、舌がなじまないのね。大丈夫よ。これが美味しいというものだから徐々になじんでいくわ」
「ち、ちがうもん!お婆様の焼き菓子の方が美味しいもん!」
チィ、心の中で舌打ちをしたわ。
「ユーリッヒ公爵令嬢様、どうかお許し下さい。妹は礼法をまだ学んでいなくて申訳ございません」
「お姉様もお婆様の焼き菓子が大陸一と言っていたのに」
「クララ黙って・・」
北方でクララと言えば・・・貴族年鑑の記憶を探る。
「まあ、ガイアー家のクララ様ね。名前を覚えましたわね」
「ヒィ、ユーリッヒ公爵令嬢様・・どうかお許しを」
姉はニキビ顔の貴族令嬢というよりは村娘みたいだわ。そのドレスも色あせているわね。
「オ~ホホホホホ、私は王妃になるのよ。これからのお付き合いが楽しみだわ」
その時、また、異議を唱える幼女が出てきたわ。
それがメアリーだった。
「メアリーはクララちゃんに賛成なの~、職人の腕はいいけど、レシピを考えた人が最悪と思うの~。
ただ、砂糖をぶちこんだ成金趣味なの~」
「な、何ですって!!」
「メアリーなの~、ハイテ男爵家なの~」
「名を覚えたわ」
「光栄なの~」
「まあ、悪い意味で覚えたのよ!」
「メアリーの領地ならとっても美味しい甘味料があるの~」
「フン、馬鹿らしいわ」
「それがいいの~、『アマズラ』はメアリーだけの秘密なの~、高貴な方の甘味料なの~」
「・・・メアリー」
心底頭に来たわ。私よりも高貴な令嬢は王女殿下だけなのに・・・
「いいわ。分かったわ!取り寄せなさい」
「無理なの~、お金がないの~」
「まあ、なら貴女の言っている事は嘘ね」
「それがいいの~、そうしたらアルテシアは恥をかかなくてよいの~、お金があるのに本当の価値が分からないとバレなくても良いの~」
「呼び捨て?」
「お前も呼び捨てなの~」
「分かったわ。メアリー、全て用意しますわ。それで嘘だったらどうするのかしら?」
「嘘じゃないの~!だからアルテシアの好きにしていいの~」
「わ、分かったわ!覚悟なさいませ!」
☆ハイテ領
一月かけて菓子職人を連れてハイテ領にまで行ったわ。
道が悪い。
屋敷も貴族と言うよりも豪農の屋敷に近い。
「このツタを使うの~」
「ツタですって!」
聞いたことがある。貧民の子供は甘みが欲しくて草を吸うことがあると・・・
何だ。それと同じね。やっぱり大人げなかったわ。
「職人の皆様、煮詰めて下さいなの~」
「「「はい」」」
何?メアリー妙に手慣れているわね。
メアリーが味見をする。
「まだ、糖度が不十分なの。もっと水分を飛ばすの~」
「「「はい」」」
ほんのりと甘い香りがするわ。これは・・・・鍋の底にほんの少し液体が残ったわ。
「出来たの~、食べるの~」
「分かったわ」
ジャムみたいだわ。ほんのりイチゴ色ね・・・
でもツタよ。
一口舌の上に乗せたら・・・
「あああああああああああ、甘―いですわ。まるで大地の豊穣の力が後押しして甘味の津波がやってくるですわ!!!
まああ、まるで果物・・・そうね。瓜?いやその何倍の甘みで・・・あら、消えたわ。
後味が良いですわ。まるで、素敵な殿方にハンカチを拾われて、そのまま名乗りをあげないで去って行く・・・みたいな感触ですわあああああ!!」
「アルテシア、もう一杯行く?」
「行きますわ!!」
・・・・甘葛とは枕草子にもでも出てくる甘味料だ。
ブドウ科のツタから樹液を抽出して作り出す。
その糖度はメロンの二倍に達する。しかし、不思議とすぐに消える味わいだ。
平安時代から鎌倉時代の料理は激マズだった。
出汁の概念がなく。米も蒸す炊き方でありカチコチであった。
源頼朝でさえも鮭をこれほど美味い物は食べたことがないと感想をもらし。
平安貴族にとっては芋汁がごちそうであった。
しかし、唯一現代でも通じる味が甘葛とされている。
現代でも商品化が難しく甘葛風しか流通していない。
アルテシアが絶叫したのも無理はなかった。
「メアリー!もっとないのかしら!」
「ないの~、ツタのご利用は計画的なの~、冬前に採取するの~」
「はあ、はあ、もっと~」
「なら、クララちゃんの領地に行くの~」
「何ですって!」
ガイナー男爵家に行ったわ。ここはハイテ家よりは立派だわ。
「あれ、まあ、こんなお嬢様が寒くないけ?」
「まあ、老婦人が作った焼き菓子?」
ただの焼き菓子だわ。
これも・・・
「まあああ、このしっかりとした味わい。蜂蜜に近いですわ。訴えて来るわ。私はここにいると控えめに!貴婦人がテラスで本を読んでいる姿が浮かんでくるわ。静かだけど確かに自己主張をしている上品な味わいですわああああ!!
これは原材料なんですの?」
「木の液ですじゃ」
「木!」
そらからメアリーは帰れと言う。
メアリーは一カ村領主、家族はメアリーを残して王都で暮らしているらしいわ。
メアリーの屋敷では大きな魚を干していたわ。
「これから厳冬期になるの~、道は閉鎖されるから帰るの~」
「し、しかたないのね。まあ、この大きなお魚はなんですの~」
「これはサーモンなの~、秘密なの~」
「寄越しなさい!これも美味に違いないわ」
「嫌なの~、これはメアリーだけの秘密なの~」
「私は公女よ!命令するわ!」
「し、仕方ないの~」
「まああああ、これも美味しいわ。さっぱりとして癖になる味わい!川魚?いえ、海中が頭に浮かんでくるわ。魚たちが踊っている!そう、これは・・・」
「サーモンしゃんは海に行って川に戻って来るの~」
「オ~ホホホホホ、私の予想通りだわ。買ってあげるから輸送しなさい」
「アルテシア、道が悪くて運べないの~」
「陛下に、いえ、お父様に頼んで商売につなげますわ」
「ウワ~ン、この美味が独り占めできなくなったの~!」
「貴女も来るのよ!」
メアリーは冬、ガイナー家で世話になっていたらしい。王都に来たのも男爵に連れられてパーティーに来たらしい。
私の友人は皆私の言う事を聞く。
こんな令嬢は始めてだわ。側に置いて何でも言う事を聞くように躾けなくてはいけないわね。
王都に戻ってからお父様に話したわ。
「確かに、街道はあった方が良いが・・・」
「これをご覧下さいませ。アマズラにメープルシロップ、それにサーモン、殿方の酒のつまみに最適ですわ!」
「この木彫りは何だ?」
「熊の木彫りですわ。お土産でもらいましたの」
ハイテ家のメアリーは貴族年鑑に載っていないわ・・・
中央貴族の愛人の子・・・断絶したハイテ家に領主として赴任させられた?
「なら、引き取るわ。小癪なメアリーを側においてあげるわ。義妹としてね」
そう言えば、喜ぶものかと思ったら嫌がるわ。
「嫌なの~、メアリーはアルテシアの義妹なんて嫌なの~、野原で蝶蝶を追いかけたり。兎さんとお話したいの~」
「許しませんわ!!半年は王都にいなさい!」
王都のドレスや宝石を嫌がる。
「ウワ~ン!メアリーは可愛いの~。これ以上やったらあざとくなりすぎなの~、メアリーは野に咲く花になりたいの~!」
「許しませんわ!ユーリッヒ公爵家の一員ですわ!」
それからメアリーの父と名乗る男が来たわ。
「実はメアリーは私の娘でして・・・」
「まあ、グランツ伯爵」
「ええ、気に入って養子になさると聞きました。当家としましても、その~、お近づきになりたくて、少々のお心遣いを頂ければ幸いです。ハイテ男爵の爵位もそちらで買い取ってもらいたい」
「気に入っていないですわ」
「えっ」
「メアリー、貴女の実父よ」
「ウワ~ン、腹違いの兄弟姉妹や伯爵夫人はメアリーの存在を知らないの~、知られたら嫌なの~!」
「メアリー、許しませんわ!腹違いでも挨拶なさいませ」
「え、それは勘弁して下さい!」
挨拶をさせた。グランツ家では大騒動だわ。
「グランツ伯爵が酌婦に手をつけて産ませた子、メアリーなの~!夫人と腹違いの兄弟姉妹に挨拶するの~」
「あなた!隠し子がいたの?!」
「「「父上!」」」
「「「お父様!」」」
「ハイテ家は遠い親戚の子に継がせたのではないの?」
「ヒィ、これは・・・違くて、知らない子だ!」
「嘘仰い!ユーリッヒ公爵令嬢から直々の手紙が来たわ!」
大騒動だったらしいわ。いい気味だわ。こんな生意気な子にして・・・いえ、放置したのね。
・・・・・・・・・・・・・・・・
殿下が一口アマズラを口にしたら・・・
「・・・物は確かだ」
「おう、ダグラス殿下、俺にも・・・おお、いいな」
「マックス、君は騎士だろ?」
「えへへへ、実は甘い物には目がなくて、お、これは熊の木彫りか。いいな。俺も作りたいぜ」
「製法はメアリーが知っていますわ」
「こんど会わせろよな」
「ええ・・・」
男の子は熊の木彫りが好きらしい。
お茶会は成功に終わったわ。
屋敷に戻るとメアリーはメイドとおままごとをしていた。
「楽しいの~」
「はい、今度はメアリー様がお母様の役ですね」
「そうなの~、あなた、服に口紅がついているの~」
「・・・まあ、メアリー様、少し早いですわ・・・」
楽しそうだわね。
「メアリー!これから令嬢教育をするわ。ユーリッヒ公爵家に相応しい令嬢にしますわ」
「ウワーン!メアリーは殿方から令嬢教育にはまらない新鮮だ!と言われたいの~!」
「許しませんわ!」
全く心配だわ。
この生意気な義妹をどうしてくれるか思案中だわ。
・・・メアリーが嫌がるほど王国が栄えたと云われている。
アルテシアが広告塔としては優秀だったとは本人は気づきもしなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。




