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小噺11『雲月』

作者: usomuki
掲載日:2026/06/19

○『雲月』あらすじ

徳兵衛とおかねは、町内でも評判の頑固者夫婦。若い頃から四十年以上連れ添っているが、顔を合わせれば口喧嘩ばかりである。


何でも言い争いになるため、近所の者は、


「あの夫婦は喧嘩で一日が始まり、喧嘩で一日が終わる」


と笑っている。


ある日、町内の若夫婦が離縁騒ぎを起こし、仲裁を頼まれた徳兵衛夫婦は、自分たちの夫婦生活を語るはずが、途中から


「お前が昔そうだった」


「それを言うならあんただって」


と始まり、若夫婦そっちのけで大喧嘩。ところが若夫婦は、


「あんな歳まで喧嘩しても離縁してないなら大丈夫だ」


と仲直りしてしまう。


またある時は、徳兵衛が友人たちの前で


「うちの女房はつれねぇ」


と愚痴をこぼす。


すると友人は、


「本当につれなかったら四十年も一緒にいねぇよ」


と言うが、徳兵衛は聞く耳を持たない。


そんな日々が続く中、秋の満月の夜がやって来る。


徳兵衛は月見団子と酒を買って帰るが、おかねは無駄遣いと小言を言う。


そこからいつものように口論になり、やがて若い頃の話まで持ち出して大騒ぎになる。


徳兵衛は腹を立てて、


「お前と夫婦となったのが運の尽き」


と言ったり、ついには


「お前なんぞいなくても困らねぇ!」


と激怒する。


おかねも、


「だったら好きにおし!」


と言い返す。


その晩は厚い雲が空を覆い、満月は一度も姿を見せない。


徳兵衛は縁側に出て、


「アイツもつれなぇから、月までもつれねぇじゃねぇか。運(うん)の尽(つ)きに雲(うん)の月(つき)。なんちゃって」


と酔っ払う。


しかし数日後、おかねが急病で倒れる。


徳兵衛は枕元にはいるものの、この前の件もあり、


「お前が寝てると家が散らかる」


などと憎まれ口ばかりしか言えない。


おかねも、


「病人に向かって何を言うんだい」


と返す。


だが、そのやり取りが最後となる。


おかねはそのまま息を引き取る。


葬儀が終わり、一人になった徳兵衛は初めて女房の存在の大きさを知る。


朝起こしてくれる者がいない。


服の綻びは直らない。


好物の煮物も出てこない。


起きれば昼過ぎ。


服の綻びは更に大きく。


煮物を作ってみても、野菜の大きさはバラバラ。


何より、家の中から喧嘩が消えてしまった。


静かすぎる家の中で、徳兵衛は初めて、自分がどれほど女房に支えられていたかを思い知る。


そして、あの満月の晩の言葉が胸に突き刺さる。


「お前なんぞいなくても困らねぇ」


本当は困るどころではなかった。


失って初めて、その存在の大きさを知ったのである。


徳兵衛は以前より、酒に溺れるようになる。


次の満月の夜。


クラクラする視界にもうつる雲一つない晴天。


大きな望月が夜空に輝いている。


徳兵衛は一人縁側に座り、その月を見上げる。


先月も月はそこにあった。


ただ雲に隠れて見えなかっただけだった。


そして今、またこうして姿を見ることができる。


だが女房は違う。


先月までは隣にいた。


今はもういない。


来月になっても、再来月になっても、その姿を見ることはできない。


月見をしていた近所の者が、


「今夜の月は見事だな」


と声を掛ける。


徳兵衛はしばらく月を見つめたまま、


「ヒック、、、先月はつれねぇ月だと思った」


と言う。


「雲月(うんげつ)だったからな」


「ああ……だが今日は見事な望月だ」


そして空を見上げたまま、


「先月ァ運の尽きだと思ったがなぁ……」


と呟く。

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