国一の美少女らしいですが、三食昼寝より魅力的なことってありますか?
私は顔が良いらしい。
国一の美少女だのなんだのと、そんな噂が勝手について回っている。
ただの子爵家の令嬢だと言うのに。
腰まで伸びた甘栗色の髪。
まつ毛は長く、ぱっちりとした二重の大きな瞳。
両親の良いところだけを拾った結果らしい。
夜会に出れば途切れないダンスのお誘い。
令嬢以外からの茶会の誘い。
学園へ通い出してからは、中庭への呼び出し。
確かに私は、この顔で得をし続けていた。
思い通りにいかなかったことなど、思い当たらない。
だからなのか。
今までのツケが回ってきたのかもしれない。
結婚適齢期の十六になった現在。
今日も今日とて見合いの話が来る。
「リズリットお嬢様、こちら新しい釣書です」
「また……?」
月に何度も届く釣書。
「この方なら家柄的にも釣り合いが──」とか、執事が丁寧に説明をする。
正直に言うと、釣書が届く量にはうんざりしている。
釣り合うとか釣り合わないとか、どうでもいいのよ。
私の外見ではなく、内面を見てくれる殿方と燃えるような恋がしたいの──
「お嬢様、聞いてますか?」
「もちろん聞いているわ。でもセバスチャンも私のこと理解してくれているでしょ?」
「お嬢様が生まれる前からこの家にお仕えしておりますからね」
「うふふ、そうよね」
私はその釣書を手に取って軽く眺めた。
「これお嬢様、歩きながらなんてはしたないですぞ」
「分かってるわ──ああっ!」
うっかり足がつまづいてしまい、これまたうっかり手を滑らせてしまった。
──ばさばさっ
手にしていた釣書が暖炉に飲まれていく。
薪をくべたばかりだからか、良い具合に燃えていた。
あらあら、紙はよく燃えるわねー。
「あっ、ごめんなさーい! つまづいちゃったわ!」
「……何につまづいたのですか?」
「うーん、絨毯の毛……かしら」
「以前も同じ理由でしたが?」
「うーん、人生につまづいたのかもしれないわ」
「誰が上手いことを言えと言いました」
呆れ顔でため息をつくセバスチャン。
結婚なんて嫌よ。
なんでかって?
そんなの理由はただ一つ。
面倒だもん。
どうせこの顔が良いと言われる私を、お飾り妃にしたいんでしょ?
妃になるということは、妃教育とか、色々勉強とか……。
そういうのが始まるんでしょ?
それでいて愛想良くニコニコ笑って隣に佇んで。
そんなの面倒以外のなにものでもないじゃない。
私の夢はこのまま両親の脛をかじって、三食昼寝付きでのんびりと過ごすこと。
爵位を少しでも上げたい両親には申し訳ないけど、その辺はお兄様に頑張ってもらって欲しい。
燃えるような恋なんて必要ない。
したがって、釣書なんてもっと必要ないのよ!!
燃えるような恋の代わりに燃える釣書。
なんちゃって。
「あーあ、燃えちゃったぁ」
「謝罪して回るの私なんですから、少しは手加減して下さい」
「ごめんなさい、わざとじゃないの……」
「なんでそのキャラが通じると思ってるんですか?」
ちっ、さすがはセバスチャン。
目を潤ませ誤魔化し続けて十数年。
お父様とお兄様以外の家の者には、通じなくなってしまったわ。
「でも心ときめく殿方を待ち続けているだけなの……」
「お嬢様がときめくのは二度寝くらいのものでしょうが」
「え? ご飯も昼寝もときめくわよ?」
「誤魔化そうとするなら最後まで貫いてくれませんか?」
子爵家の娘に生まれたからには、政治的な結婚も必要なのかもしれない。
……でも別に没落するのもありでは?
うちが無くなったとて、困る人々なんてそういないはず。
お父様がちょっぴり泣いちゃうくらい?
それならお父様には、私のために我慢してもらうしかない。
だから釣書を燃やすのは合法なのよ!!
大体ね。
顔だけで妻にしたいとか、馬鹿の筆頭じゃない?
そんな馬鹿に嫁ぐなんて、幸せな未来なんか見えないのよ?
三食昼寝付きで社交は一切しなくていいなら考えなくもないけど。
セバスチャンは暖炉を凝視して深いため息をつく。
じっと見たところで釣書は帰ってこないのに。
「こんなことして……また旦那様に叱られますよ」
「私の手が滑ったって言っていいわよ?」
「そんなの当たり前です」
「ひどい……」
「騙されませんから、目なんか潤ませないで下さい」
「ちっ」
「黙ってればお可愛らしいのに……」
「ありがと♡」
「褒めてませんからね」
お茶を入れてほっと一息を入れるとセバスチャンが口を開く。
「ところで今日このあと、お見合いですからね」
「え? 嫌だけど」
「あと三十分程で参られるかと」
「え? 何も聞いてないけど」
「事前に言うとお逃げになるのでね」
お見合いを当日に報告するってどうなのかしら。
セバスチャンたら、職務怠慢じゃなくて?
どうにか断りたいわ……うーん。
「……う、ちょっと持病の癪が」
「風邪すら滅多に引かないお嬢様が?」
「……お腹の調子が悪いかも」
「昼食のステーキおかわりしてましたよね?」
「……お化粧してないのに」
「お嬢様のお化粧は面倒がって、いつも紅引くだけじゃないですか」
セバスチャンには嘘もぶりっ子も通用しない。
お父様はこれで何とかなるのに。
仕方ないわね。
途中で具合悪くなったフリをするか、病弱設定でいくか。
相手の出方で良さそうな方を……。
セバスチャンと攻防していると、ざわざわと外が騒がしくなる。
「おや、到着されたようですね。私はお迎えに行ってまいりますので、お嬢様は紅でも引いてて下さい」
……セバスチャンも主人の娘に対して雑よね。
てゆーか、お見合い自体断り続けてきたっていうのに、今度の相手は誰なのよ。
あーもーやだやだ。めんどくさい!
この後はお昼寝したかったのに!
窓の外を伺うと、見事な馬車が並んでいる。
うわ、高そう。
高そうっていうか、立派過ぎる……?
「お嬢様、お相手を応接室にお通ししましたので行きましょう」
「ね、ねぇ、いつもの相手とは格が違くない?」
「旦那様も既にお待ちですから」
「無視するんじゃないわよ」
まぁいいや。
さっさと終わらせて昼寝でもしよっと。
応接室へ入るとソファに座った男性。
その後ろには、護衛らしき男性が二人立っている。
なかなかないわね、こんなピリピリとしたシチュエーション。
まぁでも。
プライドある人間の方が制しやすいからいいけど。
「お待たせして申し訳ございません。リズリットお嬢様をお連れしました」
セバスチャンに促され、私は挨拶をする。
「お初にお目にかかります。リズリット・ウェルナーと申します。この度はご足労頂きありがとうございます」
ふふん。どーよ、この見事な外面。
誰だか知んないけど、だまくらかして追い返してやるわ!
見てなさいよ。
「リズリットお嬢様、こちらヴァレンタイン公爵家のレオナルド様です」
「まぁ……そんな公爵家の方とのお見合いなんて、私には分不相応ですわ」
公爵家からの縁談は粗方潰したと思ったのに……ちぃ!
てゆーか、貴方の婚約の申し入れよ?
偉いのか知らないけど、微動だにせずだんまりってどうなのよ。
挨拶くらいしなさいよね、人として。
……ということはおくびにも出さずに、ニコニコと笑顔を向ける。
一応、あちらの方が格上だしね。
「おい、そこの馬鹿女」
「……はい?」
ば、ばかおんな?
ってどういう意味……はあぁ!?
「ええと、どこかでお会いしたことありましたっけ……?」
こんなことで崩れるほど、私の鉄壁のマスクはヤワじゃなくてよ?
……が、内心は怒り心頭の私。
初対面の私に対して、馬鹿呼ばわり?
馬鹿って言うほうが馬鹿なのよ、ばーかばーか!
「俺の顔を忘れたのか?」
「レオナルド様の顔……?」
見てなかった。
ふむ、割と整ったお顔かしら。
今まで申し込んできた貴族の殿方達はこう言ってはなんだけど……イケメンなんて数える程度。
まぁ人間、顔じゃないわよね?
私が言うのもなんだけど。
うーん、見たことあるような気もするけど……。
整った顔って覚えられないのよね。
「申し訳ありませんが記憶になくて……」
本当にない。
大体ね。
人を馬鹿呼ばわりする知り合いなんていないし、いたら縁を切ってるわよ。
あちらは腕を組み足を組み、指先はトントンと、イライラしているようだ。
人を馬鹿呼ばわりしておいて、こんなことで怒るなんて器がちっさいわね。
「レオンと言っても?」
「レオン……? レオン……レオ……あっ!」
「思い出したか」
「馬鹿でアホで泣き虫だったレオ!?」
「……違うけど、そうだ」
思い出した。
小さい頃に遊んだことがあるレオン。
お姉ちゃんお姉ちゃんって後ろをくっついて来て鬱陶しい近所の子供。
転べば泣く。
おやつの取り合いで泣く。
ゲームに負ければ泣く。
とにかく泣く。
そっかー、あの時のね。
生意気なクソガキだと思ってたけど……。
なるほど、公爵家の息子だったのねー。
……あれ?
「……名前が違うわ?」
「養子として引き取られたんだ」
「なるほどねー。それでなんで私に?」
そう、本題はそこじゃない。
なんでわざわざ私に婚約の申し入れをしてきたのか、よ。
「お前、見合いをことごとく断ってるんだってな」
「まぁ……そんなことありませんわ」
「外面止めろ」
うるさいわね、なんなのこいつ。
急に来たと思ったらお前呼ばわり。
ホントに何しに来たのよ。
「どうせ昼寝出来ないとか、そんなくだらない理由だろう」
「……くだらなくなんてないですわよ?」
「三食昼寝付きで過ごすのが夢だって言ってただろ」
「……そんなこと言ったかしら?」
「違うとでも言うのか?」
ぐ……っ、しつこい!
確かに言ったわよ。
私の夢は小さい頃から変わってない。
結婚する気なんて毛頭なかったもの。
レオンに関しては「お姉ちゃんと結婚する!」
ってあまりにもしつこく言うから、私の夢を教えてあげて「一昨日来やがれ」って断ったでしょ?
「小さい頃はあんなに可愛かったのに……」
「俺はもうあの頃とは違うんだ」
「もう泣かないの?」
「泣くわけないだろう」
「そうなのね、お姉ちゃんとして安心したわ。ではお帰りはあちらです」
「待て待て。何でそうせっかちなんだ?」
「えぇー……」
めんどくさいわね、こいつ。
私は早く昼寝したいのに。
ため息をついて、レオナルドに向き直す。
「もう……分かるでしょう? 私達は子供じゃないの」
「そんな顔してそれっぽいこと言っても無駄だぞ」
「どういうこと?」
「昼寝したいって顔に書いてあんだよ」
ちっ。
昔を知ってるやつだといつもの手が使いにくいわ。
「三食昼寝付き。今なら叶えてやれる」
「……なるほど」
「だから嫁に来い」
「……なるほど」
今日のおやつは何かしら。
甘いココアとクッキー食べたいわ。
「……夕飯何かなーって考えてるだろ」
「え? おやつのことだけど。駄目ねぇ、レオちゃんは」
「ちっ、大差ないだろ」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。
イケメンなのに、台無しよ?
うぅん、それにしても面倒になってきた。
というかお父様もセバスチャンもずっと黙ってるけど……。
そう思って二人を見ると、揃ってそっぽを向いている。
……味方がいないっ!?
待って待って?
今までならお父様は加勢してくれてたじゃない!
セバスチャンは──相手の味方することも多いから、まぁいいや。
「この婚約……慎んでお受け致します」
「……お父様っ!?」
「三食昼寝付きの結婚だ。……幸せになりなさい」
「ちょっと待って下さいっ!」
「もう待たん! 何かと言うと難癖付けて断り続けおって……彼はお前の本性を知ってなお、迎えてくれると言うのだぞ!」
「本性なんてそんな……酷いわお父様……えーん!」
「ぐっ」
「旦那様、これは嘘泣きです」
「セバスチャンのばかっ!」
私達のやり取りを眺めていた彼が、ぽつりと呟く。
「いい加減、諦めろよ」
「お父様に何を言ったのよっ!」
「三食昼寝付きでお前を引き取る。受けない場合は……」
「場合は?」
「自分で考えろ」
「な──っ!」
今回は逃げられないっぽい……?
今までの人達には泣き落としが通用してたのに……!
やだやだ! 婚約すらやだ!
「お父様……私はもう一日二食、昼寝もしなくても構いませんから……」
「リズリットお嬢様、朝食を抜いて昼まで寝るおつもりでしょう」
「せ、セバスチャンは黙っててっ!」
「お前ってやつは……」
「どんだけ寝たいんだ、馬鹿女」
あああもう! この部屋には敵しかいないの!?
屁理屈も泣き落としも通用しないのなら……。
もう……覚悟を決めるしかないのね。
「……本当に三食昼寝付きでしょうね」
「ああ、おやつも付けてやるぞ?」
「……とりあえず、婚約を結ぶだけなら……」
「ああ、それでいい」
こうなったらもう、婚約中に飽きてもらえるよう振る舞うしかない。
間違っても結婚までいかないように、リズリット頑張ります!
読んで頂きありがとうございます!
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6月18日追記──
6/15より連載版の投稿を開始しました。
リズリットとレオの婚約後など、短編では描けなかったエピソードを追加しています。
ご興味ありましたらぜひお読み頂けると嬉しいです。




