第9話(シャノーラ視点)【完結】
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それから、しばらくの時が流れた。
散々醜態をさらした私ではあったが、前代未聞の『結界の固定化』により、名声は限りなく高まり、私は国の内外から『真の聖女』として、溢れんばかりの称賛を浴びることになった。
そのたびに私は、『結界の固定化』に成功したのは、私だけの力ではなく、姉妹二人で力を合わせたからできたこと――いや、発案も、主導したのもお姉様なのだから、ほとんどはお姉様の力によるものだと、説明した。
……たとえ私が手柄を独り占めしたとしても、地位や名誉に関心がなく、他人にどう思われるかについて何の興味ないお姉様は、怒りはしなかっただろう。しかし私は、筋を通したかった。これまで私は、あまり良い人間ではなかった。その分、これからは、ちゃんとした人間としての振る舞いをしようと思ったのだ。
だって私は、本物の天才――本物の聖女から、こう言われたのだから。
『やっぱり、真の聖女はあなたの方だと思うわ』
お姉様に、そう言われた以上、真の聖女として恥ずかしい行動はできない。
固定化された結界の維持は、一週間に一度魔力を流すだけで良いので、毎日神殿に籠る必要もないのだが、私は真の聖女として、一日に何時間も祈りを捧げている。もちろん、ちゃんと睡眠時間は取ったうえでね。
あの侍女が、今日もふわふわの髪を揺らして、感心したような、呆れたような声で、言う。
「シャノーラ様~、今日も退屈なお役目、お疲れ様……です。でも、別に毎日祈りを捧げる必要なんて、ないんじゃないですか~?」
私は微笑んで、言葉を返した。
「そうね。確かに、毎日祈りを捧げる必要なんてない。でも、毎日お祈りをしちゃ駄目ってこともないでしょ? それに、聖女が神殿で祈りを捧げることで安心する人も、世の中にはたくさんいるのよ。特に、おじいちゃんおばあちゃんとかはね。そういう人たちのためになるなら、この祈りも無駄じゃないと思うわ」
「はぁ~、なるほど~。さすがシャノーラ様、真の聖女様にふさわしい、お優しいお考えです~」
「ありがと」
そして私は、再び静かに祈りを捧げ始めた。国の平和と、人々の幸せ、そして、旅先でのお姉様の安全を願い、静かに、静かに、祈り続ける。
天窓から、かすかにセミの鳴き声がする。
どうやら、そろそろ夏が始まるらしい。
神殿の入り口から、涼風が吹き込んでくる。
それは、とても心地よく、私の髪と心を揺らしたのだった。
終わり。




