第4話(シャノーラ視点)
お姉様は、天才だった。
正真正銘の、天才だった。
その事実にハッキリと気づかされたのは、お姉様から聖女の座を奪って、たった二日後のことだった。
国を守れるレベルの広大な結界を、二十四時間維持するということが、これほど過酷だとは、思いもしなかった。少しでも集中を切らすと、たちまち結界の効果は弱くなってしまうから、睡眠時間を削ってでも、集中しなければならない。
なのにお姉様は、昼寝をして、ダラダラして、ボケーッとあくびをかきながらやっていた。それはつまり、全然集中しなくても、ハイレベルな結界を維持できるということだ。
信じられない才能だ。とても、努力してどうにかなるレベルの話じゃない。私とは、魔力の量も、その魔力をコントロールするセンスも、次元が違う。
……そうよ、本当は、薄々感づいていたわ。どんなに努力しても、所詮私は『秀才』レベルで、『天才』のお姉様にはかなわないって。
でも、そんなの、私のプライドが許さない。
私だって、並の人間と比較すれば、とてつもなく優秀なんだから。
そうよ。
私は、優秀な女。
誰にも、負けたくない。
だから私は、何かにつけてお姉様に勝負を挑んだ。
お姉様に勝って、私の方が優れた人間だって、自分に証明したかったからだ。
負けない。
あんな、ボケっと生きてるだけのお姉様に、負けるもんですか。
薄暗い神殿で、一人祈りを捧げながら、私は言う。
「何よ、これくらい、私にだってできるんだから」
そう。
できる。
大変ではあるけど、これくらいなら、私でもできる。
ふん、何が『天才』よ。
お姉様がいくら天才でも、国を追い出された今、勝ったのは私よ。
私こそが、真の聖女。
私こそが、この国で一番の女なんだから。
結界の維持だって、今はちょっとキツイけど、慣れればどうってことないわ。私はこれまでだって、努力と策略で、あらゆる敵を討ち果たし、どんな問題も解決してきたんだから。今回も、きっとなんとかなるはずよ。
私の策略を、『陰険な嫌がらせ』と呼ぶ人間もいる。
ふん、負け犬の遠吠えってやつね。
まあ確かに、これまで違法スレスレ、倫理的にはかなりアウトなことばかりやってきたけど、良い子なだけじゃ、トップには立てないわ。陰険だろうがなんだろうが、最終的に勝てばいいのよ。
そう、勝利こそすべて!
策略も、私の実力の一部!
勝者である私は、そこらの負け犬どもとは格が違うのよ!
自分を鼓舞するように気合を入れると、私は瞳を閉じて、祈りを捧げ続ける。
その時、神殿の中に、私の世話をする役目の侍女が入って来た。
侍女はふわふわの髪の毛を揺らして、緊張感の欠片もない顔で挨拶する。
「どうも~、シャノーラ様~、今日も、退屈なお役目頑張ってますか~? ご苦労様です~」
ちっ。なんなのよ、いったい。
昼下がりのこの時間帯は、少しぼおっとして集中力が乱れやすいから、誰も入るなって言ってあるのに。
はぁ……私、この侍女、嫌いなのよね。
天然で、何考えてるか分かんないところが、どことなくお姉様に似てるから。
だいたい、言動がおかしいのよ。
一応、聖女の世話をする役目を与えられるくらいだから、高等な教育を受けた人材でしょうに、どういう脳みそしてたら、『退屈なお役目頑張ってますか~?』なんて言葉が出てくるのよ。
私は不快感を隠しもせず、横目で侍女を睨み、言う。
「ちょっと、今は特に集中したい時間だから、神殿に入って来るなって、あらかじめ言っておいたでしょ」
「はい~、承知しています~、お役目、ご苦労様です~」
「『承知しています~』じゃないわよ! 承知してるなら、なんで入って来たの! だいたいねぇ、私は聖女よ? あんたより、目上の存在なのよ? そういう相手には、『ご苦労様』じゃなくて、普通、『お疲れ様』って言うのよ!」
「はあ、そうですか~、それじゃ、シャノーラ様、お疲れ様」
「『です』をつけなさい! もっと失礼な感じになったでしょうが! 『お疲れ様です』までで、1セットなのよ!」
「ええ~、面倒だなあ~」
「『です』つけるくらい、別に面倒じゃないでしょ!? あんた、敬語を何だと思ってるの!?」
「は~い……シャノーラ様、お疲れ様……です。はぁ、めんどくさ」
ああああ!
イライラする!!
こいつと話してると、頭に血が上って、集中力が乱れるわ!!!
落ち着きなさい、私。
こういう時は、深呼吸よ。
吸って……
吐いて……
吸って……
吐いて……
よし、落ち着いたわ。さすが私。優秀な女。
平静に戻った私は、軽く息を吐き、言う。
「で、何の用なの? 手短に言いなさい」
「えぇ~、手短って言われても~、何事も説明するには手順というものがありますし~」
あああああああ!
この間延びした喋り方!!
お姉様を思い出して、イラつくううううううう!!!
せっかく落ち着いた心が、またしても乱れてしまい、その事実が、余計に私を苛立たせた。駄目よ私、このままじゃ駄目駄目……波ひとつない水面のように、心を静めるのよ……静かな気持ちで、とっとと用件を聞いて、こんな奴、追い出してしまいましょう。




