僕の存在理由がどこにもなかった訳
自分に母が居たら・・・・。
何度も、そう思った。
気付いたら、父との二人暮らしだった。
海外出張の多い、父。
僕は、一人暮らしで、時折、父の連絡で駆けつけてくれる親戚と
希薄な生活を続けていた。
そんな中で、
知り得た音羽。
いわくつきの彼女だった。
けど。
誰かがいてくれると言う支えには、なっていた。
母は。
どんな人だったか、覚えてない。
僕を産んですぐ、母は、消えた。
どんな母親だったか。
様々な憶測をよんだ。
誰もが、勝手な想像をした。
僕にとって、
母は、僕を棄てたのではなく。
やむに止まれない事情があったと考えていた。
きっと。
逢ったら、すぐ、詫びてくれる。
涙を流しながら、
「事情があったの」
そう言うだろう。
僕は、許し、母の肩を抱く。
「僕を感染から、守ってくれたよね」
洞窟に誘い込み、僕を守った。
母は、僕を守ろうとした。
そう思いたかったのに、僕の思いは、簡単に打ち砕かれる。
「生きていたのか」
僕が生きていては、いけなかったのか。
フードを目深に被ったその人は、僕の母だった。
「人の血が入っているのだから、感染したと思っていた」
「そんな事言わないで」
音羽が、口を挟んだ。
「助けてくて、ここに誘い込んだんでしょう?」
「まさか・・」
フードの下で、裂けるような唇が動いている。
「お前を産んだのは、間違っていると思っている」
僕は、勝手に母親像を創り上げていた。
目の前に居るのは、本当に母親なのか。
「西は、もう、ダメだ。東に逃げたとしても、お前は、やがて、人間に捕まるだろう」
「颯太は、人だよ。感染しているのが、何よりの証拠でしょう?」
「進行は、遅いが、感染した。その血が、証拠だ」
鼻からの出血が止まらない。
「やがて、四肢の先から、壊死していくだろう。人の血が流れる限り、止められない」
「颯太のお母さんなんでしょう?助からないの?」
僕を見つめる目が、冷たいのは、何故だろう。
「母ではない。子もいない。」
「じゃあ・・・どうして、ここに戻ってきたの」
フードが微かに揺れた気がした。
「もう、逢う事はない」
女性は、洞窟の奥へと進もうとした。
行手を遮る音羽。
「どこへ、行くの?」
フードの中の瞳が、音羽を誘っていた。
彼女は、僕を振り返り、女性の後を付いていくように合図する。
「颯太。洞窟の奥に、何かあるみたい」
弾劾絶壁にあった洞窟の入り口は、小さく、なkが、広いなんて、信じられない位だった。
その奥は、一見行き止まりの様に見えていて、細い横穴が、更に奥へと続いていた。
天井からは、壁を伝わって、冷たい水が流れ出ていた。
僕の息遣いだけが、響いていて、どこから、入ってきたのか、野生動物達が、
暗闇の中で、目を光らせていた。
「どこまで、行くの?」
そう呟いた時、僕の意識は、闇に呑まれた。




