憎しみの連鎖
同じ空気を吸うなんて、許せない。
互いにそう思っている。
どうして、ここに、桜咲里がいるのか。
僕がいるのか。
納得しない展開。
「まぁ・・・隠れて、追いかけてくるなら、いいだろう。この方が」
「どうして!」
僕と桜咲里は、同時に怒鳴った。
音羽が消える原因になった女と一緒にいるなんて、許せない。
「私だって」
僕の心が、見えたのかの様な返事だった。
「ずっと、お前を殺そうと思っていた」
桜咲里は、言った。
「お前がいなければ、あの人は死ななかった」
僕が原因で、亡くなったと、思っている。
今も。
「そう思う事で、今まで、生きて来れたんだろう」
晴が、片手で、ハンドルを切りながら、言った。
「こいつが、いる事で、今まで、生きて来れたんじゃないの?」
「自分の手で、殺してやろうと思った」
「おいおい・・・」
バックミラーで、後部シートの桜咲里を睨む。
「子供がいるんだから、物騒な事、言うなよ」
「あなた・・・」
先ほどの晴を思い起こす。
「一体、何者?」
「颯太みたいな奴を知っているんだろう。俺みたいな奴がいても」
「人・・・ではないの?」
「人って、何なの?何の基準?俺らから見たら、あんたら、何?って感じだけど」
「そう・・・なんだ」
「だいたい・・・こいつが殺したって、言うけど、そいつ、まともだったの?」
「・・・て?」
晴が真実をついた。
「俺は、最近の事しか知らないけど。こいつ、無闇に、他人を陥れる奴ではないで・・。余程、悪さをする奴か。払わなければ、ならない奴だったんじゃない?」
「それって」
桜咲里の顔が真っ赤になった。
言葉を探し、詰まっている。
「一方的に、熱くなってんじゃないの?それに・・・」
晴は、笑った。
「ここまでの、執念は、ストーカーに近い物がある」
ハハハと、外に向かって笑う。
「え?」
僕は、晴の意図がわからなかった。
「何が言いたいの?」
僕を庇っているのか、いじっているのか、わからない。
「感情っていうのは、わからないからさ・・・。憎んでいる筈が、いつの間にか、頭の中は、そいつの事で、いっぱいになって」
「え・・・誰の事?」
さっきの花束の主の事?
「ねーねー」
車は、山奥から、また、街並みの中へと、突き進んでいた。
北上する車が増えている。
つい、何日か前に、荒廃した街並みを彷徨う感染者達の姿は、見えなくなっていた。
「景色が変わるなー」
車の中は、見慣れない制服を着た人達が増えていった。
マスクを装備し、感染に備えているようにも見えた。
「こういう日が、本当に、来るなんて、思わなかった」
桜咲里が、ポツリと言った。
「平和ボケして、訓練なんか、誰も、真剣に取り組んでいなかった」
「でも、わかっていた筈だろう?島国だからこそ、キッカケがあれば、侵略されるって・・・」
晴は、長い歴史の中で、見てきたんだろう。
この国の長い歴史の中で、繰り返される侵略の連鎖を。
「怒るべきして、起きたんだ」
いつになく、真面目な晴に、僕は、言葉を失くしていた。
助手席の吐夢だけが、走り去るトラックが、珍しく、声を上げていた。




