僕は、確かに願ったけど。叶わなくて良かったのに。
「自分は、そうじゃないって、絶望した事はあるか」
邪神は、時折、人間、晴に戻る。
その時に言った。
「それは、人間でないって、思った時?」
午後のカフェタイムだった。
ゆっくりと時間が流れる。
「そうだよ。どうして、俺だけって、思った」
「あるよ・・」
思い出したくもない。
その姿は、母と同じだった筈。
汚らわしい血が、形となって現れた。
「自分を憎んだ。もちろん、外の世界も」
「・・・そうだよ。外の世界なんて、滅びてしまえって!」
僕ら、二人は、顔を合わせて笑い合った。
その二、三日後だった。
母に似た妖を追い詰めた地底湖に入った瞬間、それは、起きた。
気を失うような地響きと閃光。
頭が割れそうな音と静寂。
崩れそうな洞窟から、飛び出て、外を見た瞬間、
僕らは、凍りついた。
世界が変わっていた。
僕らの、望み通り、世界は、消えていたのだ。
砂漠の中に。
「やっぱり、起きてしまった」
絞り出す音羽の声。
「やっぱりって・・・何?」
「邪神(晴)が言っていた・・・まずい事が起きるって、でも、これは、知られてはいけない」
「何が起きたの?」
先ほどあった、森も街も、河も消えている。
「ある国の潜水艦が、海溝に落ちてしまい引き上げられなくなったって・・・」
空高く飛ぶ方法は、あるが、地底深く潜る技術はない。
海溝に落ちたら、引き上げは無理だろう。
潜水艦の人達の、冥福を祈る。
「その潜水艦には、知られてはいけないミサイルが積んであったそうなの」
「まさか、それが爆発したの?」
「ただの、ミサイルではないの・・・生物兵器だって」
「生物兵器って・・・地上には、誰も、いないって事?」
「わからない・・・けど」
遠くから、こちらに向かって見えるのは、細い人の列だった。
線だった姿が、やがて、点となっていく。
点は、次第に大きくなり、それが何であるか、わかる様になる。
「颯太・・・」
音羽の目が、恐怖に満ちていた。
「音羽?」
そんな顔は、初めて見た。
「人?」
「いいえ・・・颯太。私達には、どうしようもない存在よ」
「!」
大きくなって、目の前に迫ってくる者の正体に、僕らは、息を呑んだ。
それは・・・。
僕らでさえ、
恐怖を感じる姿だった。
「元は・・・人だったんだよね?」
「あぁ・・・」
思わず、後ずさった。
そこに現れたのは、
死んでも死にきれない、人達の・・・いや。
元は、人達の、変わり果てた姿だった。




