疑惑
やっぱり、消えたか。
勝浦は、舌打ちした。
信用ならない。
咲桜里。
彼女とは、海外であった。
香港。
裏ぶれた繁華街だった。
思わず、パスポートの入ったバックを擦られた。
追いかけたが、すぐに巻かれた。
「これでしょう?」
意外にも、届けてくれたのは、女性だった。
「日本人か・・・」
海外では、よく、日本人を見かけるが、こんな勇敢な女性は初めてだった。
意外にも、行く先々で逢った。
今回も、帰国した日に、空港で逢った。
「まさか、同じ目的で?」
冗談だと思った。
自分の目的と同じ筈がない。
「観光?でしょう」
咲桜里は、笑った。
深く考えすぎだ。
顔が引き攣った。
自分が抱えている問題と、この女性が同じ筈がない。
そう思った。
深く考え過ぎるのは、娘からのメールのせいか。
「怖い」
娘から、連絡があった。
「どうした?」
感染研究所にいる娘からだった。
「知ってはいけない事を知ってしまった」
「何を?」
「父さん。私、どうしたらいい?」
「何が起きた?」
「ワクチンの残数が合わないの」
「ワクチン?何の?」
「他のワクチン開発を後回しにしてまで、進めていたワクチン。まだ、完成していない。試作品の段階なのに・・・。出来上がっていないのに。消えてしまったの」
娘が重要なポストに居る事は知っていた。
感染症対策。
あらゆる感染症を想定してワクチンを作成する。
政府直結の機関。
新種のワクチンとは。
娘は、詳細は、知らない。
怒るべき事態に備えての研究としか。
だが、突然、連絡が途絶え、事故は起こった。
逃れる様に、栃木の風穴まで、来ていた。
咲桜里も一緒だった。
奇遇なのか。
何かが、起きる事を知っていたのか。
自分の娘が何者か、知っているのか。
信じていいのか。
人を助ける気持ちは、あるのだろう。
一緒に逃げ込んだ人達はいる。
咲桜里が連れてきたのだ。
その人達を置いて咲桜里は、消えた。
あの青年への執着が異常だった。
目が正気ではなかった。
「ねぇ・・パパ。今は、動物実験は、禁止されているでしょう?それでも、秘密裏に行われている件もあるのよ」
娘が言っていた。
まさかな。
人ではない。
咲桜里が言った。
まさか・・・。
人ではないから、彼を大丈夫だと?
だが。
彼女は、彼を信用していない。
あの目は。
憎しみの目だ。
何故?
香港に居た?
勝浦は、咲桜里の跡を追っていた。




