荒野
洞窟から、出た世界が、荒野となっている事は、誰もが知っている。
「移動の手段は?」
ここから、その女性の居る研究施設まで、一体何キロあるんだ。
徒歩だなんて、正気の沙汰ではない。
「人は、居なくなっても・・・街に灯りがつくのと同じ原理だ」
勝浦は言う。
住む人はいなのに、時間がくると灯りは、灯る。
夜が明けると灯りは、消え。そこに存在しないのは、人間だけで、
いつもと変わらず、時間は流れる。
もしかしたら、
ひょっとしたら、
どこかに、人が存在するかもしれない。
勝浦の娘が、存在するように、
外気を遮断し、
もしくは、耐性を見出し。
「使えばいい」
勝浦が、差し出したのは、古い年代のジープだった。
「そりゃ、そうだ。歩いてなんか行けない」
ふと、気になった。
「どうして、自分で行かないの?怖いのかい?」
「しぃ!」
咲桜里が、顔を顰める。
「余計な事を言うな。黙って、行けばいい」
「いや・・・いいんだ」
見れば、勝浦は、咲桜里より、話の分かる感じがした。
「娘は、私の言う事は聞かない」
「なのに、助けるんだ」
「親なら、当たり前だ」
「ふ・・ん」
僕の胸の辺りが、ちくっとした。
「行けるなら、行きたい・・・だけど」
「この環境で、行ける人間は、限られている」
「僕が、この状況で、逃げるって、考えないの?」
「逃げても、行く場所があるなら」
「東に逃げる方法もある」
「・・・と思うか?」
咲桜里は、笑った。
「感染が広がったら、政府は、どうすると思う?封鎖されたんだよ。感染地域に居た人間が、入り込める地域はない」
「待って、感染していない人だっている。なのに、封鎖って」
「疑いがあるって、事で、白ではない」
「みなしたって事だよ」
勝浦は言った。
「ここで、待っている。だけど・・・」
洞窟の外に昇る煙を見て言った。
「赤い煙が出たら、ここにも、感染が広がった事になる。だから、娘を安全な場所に連れて行ってほしい」
「どうして、僕を信じる?」
「信じてなんか、居ない。他に頼れる人がいないんだ」
「お前は、発症しないさ」
咲桜里が言った。
「だって・・・人の感情もない。化け物だもんだ」
僕は、返す言葉もなかった。




