感染
気が付くと、僕は、小さな部屋の一角にいた。
いつの間にか、僕の体は、運び出されていた。
拘束された手足が、ヒリヒりと痛む。
「何処から、連れてこられた?」
同じく捕まったのか、同じ年齢くらいの青年がいた。
「君は?」
話そうとしたが、声が出なかった。
水が呑みたい。
食事も摂れていない。
水分も。
声を出そうとして、咳き込んだ。
「話せるか?」
青年は、拘束されていなかった。
僕を気遣う身体は、同じく、傷だらけだ。
「狂気だよな」
青年は、呟く。
「必死で、逃げて来た奴らが、集まっているみたいだけど、なんか、おかしい。感情がないと言うか・・」
「感情?」
僕が、酷い目に合っている間も、皆、顔色ひとつ変えなかった。
「惨状を見てきたせいもあるけど」
「外は、どうなったんですか?」
「始まりは、西日本の先端だったと聞いた。次第に広がり、ここまで、来たって。」
「どうして、助かったんですか?」
「助かった?」
青年は、笑った。
「まだ、どうか、わからない。だから、様子を見るのに、隔離されている」
「確認の為?」
僕は、笑った。
鼻の奥から、たらーっと、熱いものは、溢れる。
「え?」
青年の顔色が、変わった。
「感染してる?」
僕が、感染しているかもしれないのに、どうして、一緒にしたのか。
「わかんない」
僕は、へへへと笑った。
簡単に感染するか?人とは、違うのに。
音羽のバカにした顔が浮かぶ。
「やばいな。嘘だろう?感染しちゃうだろう?」
「感染経路は、まだ、わかっていないと聞いた」
そう、音羽が言っていた。
空気なのか。
血液を介してなのか。
症状としては、穴という穴から、血を流し、皮膚が黒く爛れ、崩れていくという事。
空気だとしたら、
ここに居る人達は、とうに、感染している。
血液だとしたら、
僕は、誰にも、接触していない。
そう思った時、
洞窟に母と思われる女性を追い詰めた時に、
帰り血を浴びていた。
あの女性は、誰なのか。
その血液が、感染原因としたら、
女性も感染している。
「誰か、わからないんだ」
この青年が、事情を知っているのか、わからないが、
僕は、垂れた鼻血を拭わず、
笑いかけると、
驚いて、飛ぶように、部屋の隅に逃げ込んだ。
そうだよな。
誰も、感染したくない。
僕は、感染したのか。
人でもないのに。
青年の恐怖が頂点に達した時に、
咲桜里が、恰幅のいい男性と現れた。




