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●3


ギィっと音を立て扉が開く。

不意打ちにも反応できる用、周囲を警戒する。


「...」


部屋はなかなかの広さをしている。

10人くらいなら軽々入るだろう。


扉を閉める。

部屋を開けてからの視界には誰も映っていない。

しかし、微弱ながら人の気配を感じる。


「........」


部屋の構造を見ていると背後からギィっと音が鳴る。


「来ちゃったんだね..泉ちゃん」


透かした声が部屋に響く。

癪に触る鬱陶しい声。

その言葉が耳に入った瞬間に「こいつかよ」と思ってしまった。


「久しぶりだね、アスラ」

「泉ちゃん、逢いたかったよ」


アスラ。

予想だが、こいつの実力は私より上。

白兵戦はまず勝てない。

ただ、こいつの戦闘は1回しか見てない上、中途半端に王道を行った戦い方だったため本当に強いのかどうかもわからない。


アスラは裏街の中ではなかなかの勢力を持っている。

手下は400人あたりだろうか?まだいるかもしれない、そしてアスラの親は表街の政治家、権力での違反回避はお手の物だろう、それに表街と裏街を灯警人の許可なしに行き来できるのもなかなかに便利。


だが、私がこいつを鬱陶しいと思う理由は他にあるのだが。


「アスラ、さっき異臭を放つ肉塊が落ちてたけど」

「肉塊?あぁ..あれね」


アスラは薄ら笑いを浮かべながら私の事を見る。


「ダンゴあれなんだった?」


アスラが私の右側に視線を移す。

そんなアスラを見てから私も右を見る。

いつの間にか、そこには顔が厳つく、ガタイの良い男がいた。

身長は185あたりだろうか?。


「あぁ〜表街から拉致して来た女のガキだったな、泣き喚くからぐちゃぐちゃに壊してやったぜ」

「だ、そうだよ」

「そう」


先程の肉塊、所々に引きちぎったかのような痕跡があった。


ダンゴと呼ばれた男の腕や手を見る。

腕力や握力が常人離れしているのだろう、トレーニングをしていない成人男性なら、こいつに殴られた瞬間に死ぬか生きるかの瀬戸際だろう。


「俺の目の前で幸せそうに歩いてやがったからな!スッキリしたぜ!」

「....」


ニタニタと笑いながら意味もなく掌をメキメキと鳴らす。

短気な奴が力を持つとちょっとした言葉でもすぐ殺しに来る。

こいつはその典型例。


無言でやり過ごす。


「....」

「あ?俺様を無視したか?ぶっ壊してやる」


私に向かってダンゴはゆっくりと近づいてくる。

どうやら、何をやっても無駄だったみたいだ。


目線だけ動かし、この部屋に何かしら使えそうな武器がないか探る。


その際にもう1人男が立っているのを見つける。

立ち姿からしてこっちも手練れ。

同時に来られたら少しめんどくさい。


それに、武器になりそうなものも見当たらない。


「.....」


なぜアスラはこんな脳が筋肉で埋まってそうな男なんかを連れているのだろう。

いや、類は友を呼ぶと言う奴か。


「.....」


アスラを見てみるとニタニタと不快な笑みを溢しながら私を視ていた。

その雰囲気からしてダンゴの事を止める気はさらさらないのだろう。


ダンゴが近づいて来た分だけ距離を取る。

部屋ということもあり逃げ回ることもできない。


「ふっ..ふふ、泉ちゃんってほんと可愛いよね..なんで来ちゃったんだろうね」

「兄が来てるよ」

「健は来ないよ」

「だろうね」


ダメか。

もしかしたら兄が見当たらないのは偶然だったみたいなのを期待してみたが、違うようだ。


「私に用があったから呼んだんじゃないの?」

「用なら君が来た時点で終わってるさ」

「そっか」


端的に終わる会話。

確かに、用ならもう済んでいる様だ。

...ようだけに。


気がつけば後ろは壁。

これ以上後退はできない。


目の前までダンゴが接近する。

こうして間近で見ると大男と言う言葉が本当によく似合う。


「泉ちゃん、怖いかい?」

「そうだね」

「死にたくない?」

「出来れば」

「ははっ!..ははは!」


気色の悪い笑いだ。

こいつは一体何がしたいのだろうか。


「今、君の命は僕が握っている、わかるね?」

「...」

「生きたいなら..3択だ、3択の中から好きなのを選んでおくれ」

「...」

「1、そのままダンゴに殺される 2、僕の奴隷になる 3、健と暮らすのをやめる、さぁどれにする?」


何も言ってないのに勝手に話が進んでゆく。

だが、これに対して私から思うことは何もない。


「3」

「おや?迷わないんだ」


いずれにせよアスラが私達に対して何かしらの行動をすることはわかっていた。

だからこそ、現状に驚きはない。


だが、そんなアスラとのやりとりを遮るようにダンゴが私の腕をとる。


「ダンゴ」

「殺すのがダメなら!犯すくらいはいいよなぁ!」


腕にダンゴの指が食い込み始める。

実際に触れられてわかる、馬鹿げた握力だが折れる程ではない、引き剥がすことは容易ではないが脅威にはなり得ない。


「よせ」

「お前の手下になったつもりはねぇぞ」

「おい、アスラ様がよせと言っている」


ここにきてもう一人の男が怒気と殺気を纏いながら口を開く。途端、私の腕を取っているダンゴの握力が弱まる。

私的にはこっちの方がダンゴと言う男より厄介そうに見える。


「あ..あにき」

「ダンゴ..とりあえず泉から離れてくれないかな?」

「ぐっ...」


引きつった顔をしながら私の腕を放し、後ろへ下がる。

どうやらダンゴはアスラに従っていると言うより、もう一人の男に従っている様だ。


「申し訳ありません..アスラ様、我が愚弟が..」

「次はないからね」

「はっ..」


これほどの忠誠心。

この男は明らかにダンゴよりも強い。

身体能力だけならおそらく同じレベルだろうが、短絡思考でない上に慢心をしていない。

この体格でそうだとするのなら、私が出会ってきた中でも確実に上位に入る強さだろう。

アスラとダンゴの二人を同時に相手するよりも難儀。


「ガジッグ...今何時?」

「17時30分でございます」

「そろそろか」


ガジッグ..それがこの男の名前だろうか。

聞いたこともない名前だ。


アスラが小型の電子器具を取り出し触る。

おそらく誰かと連絡を取っているのだろう。


「それじゃあ泉ちゃん..今週中に健と別れるように、もし別れてなかったら..わかるね?」


アスラの口調は先程よりも優しくなっている。

物事が上手くいくと誰でも機嫌はよくなる、そんな感じだろうか。


そしてこれは脅し、従わなかったら1.2のどちらかの選択肢になると言ったところ。


そう言い残した後にアスラ達は部屋を出ていった。

3人が出て行った後の部屋は先程よりも広く感じる。

タンゴに掴まれていた方の腕を触る。

凹んでいる様な後は無く、血が出ていることもない。


「...はぁ〜...」


安堵しているわけではない。

疲れた。


襲われた場合は考慮している。

戦闘になればどうするか。


だが、本当にそうなった場合、私にとって面倒な状況になる可能性がある。

戦闘になる事が面倒なのではない、問題なのは戦闘が終わった後。

だからこそ、襲われないよう、戦闘にならないようになるべく言葉を選んだ。


そして、上手くいった。


「泉!!!泉!!!!!!」


声が聞こえる。

聞き馴染みのある声。

部屋から後にし声のする方へと歩く。


「...おにいちゃ〜ん!ここだよー!」

「いずみ!!」


感動の再会..と言う分けではないが、ひとまず安心といった所だろう。


「どこいって..むぐっ..」


私を目にした瞬間に抱きついてくる。

この焦り具合、アスラと会ったのだろう。


「ちょ..おにいちゃん?」

「はぁはぁ..いずみ..よかった...」


何があったのかはわからないが、常に冷徹な兄がこれほど感情を露わにするのは初めて見る。

私は抱きついてきた兄の背中にそっと手を当て安心させるため擦る。


.........。


「...おいそろそろ離れろ..あと触んな」

「...」

「おい!どこ触っとんじゃ!きもい!」

「いいじゃねえか、それくらい心配したってことだよ」

「は〜な〜れ〜ろ〜!!」

「俺は離れたくない」


いつまでこんな事を続けていても無駄なため、私は兄の力が緩まった瞬間を見計らい、よろえながらも兄の抱擁から脱出する。

そして振り向きざまに兄の股間を蹴り上げる。


「...いってぇな」

「よーし、帰ろっか」

「....」


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