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ノソノソと歩くこと30分。
目線の先に廃坑が見える。
この廃坑には表街の家具や便利品、食料に家庭用ゲーム機などが売っている。
「さて、今日は何があるかな」
「ノギスねぇかな」
廃坑の中に入る。
暗くジメジメしており、目付きの悪い男共が道歩く私達を睨みつけている。
しかし、睨むだけで襲っては来ない。
こういう奴等の事をこの世界では蒼氓人という。
蒼氓人は相手の力量がわかっている連中。
こういう連中は無駄に戦わなくていいし、取引が出来るくらいには会話が成り立つ。
例外もいるが。
「あっち行ってるわ」
兄が指差した先。
奥行きがあり、光が全くはいらなさそうな道。
そんな道の先に果たして工具はあるのだろうかと思ってしまう。
「..わかった」
「襲われそうになったら叫べよ」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うるせぇよ..なんなんお前..」
何故か兄がマジギレしている。
私の何がダメだっただろうか..わからないな。
目に見えてイライラしている状態のまま兄は私に背を向けて歩き出した。
「さて..」
地べたに座っているフードの男に近寄る。
「調子はどう?」
何気なく声をかけてみる。
もちろん初対面。
「...絶好調」
「それはよかった」
「みさちゃんは病気?」
俯いていたフードの男がこちらへと目線を向ける。
顔面には、ナイフで切り裂かれた様な傷が3箇所ある。
いや。
裂かれたと言うより裂いたっぽい。
「どんなビョウキ」
「そうなねぇ..たしか多幸感病だったかな?」
「なに..それ」
病名を適当に作る。
実際、私は病気を患っている。
鮮血不動症候群。
体内に存在している血液が傷などにより外に出た場合、瞬間的に固まってしまう症状。
以前、裏街に医療に詳しい男がいたが、そいつ曰く世界でも類を見ないほど珍しい病気らしい。
裏街には同じ症状の人は見つからなかった。
表街なら私と同じ症状の人がいるかもしれないが。
「でも、どんな病気も三廻部ならナオせる..」
「そーなんだ」
半ば興味なさげに言葉を返す。
人物の話はあまり興味ない。
それに症状を治すつもりもない。
若干話が通じそうだが、どうだろうか。
「ねぇ、油ってどこにあるかわかる?」
「..ボクハ..君のことを思っている」
「油って...」
「ボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハボクハ」
男の目の奥が黒く濁ってゆく。
そんな男の様子を見て半歩後ろに下がる。
少し調子に乗りすぎてしまったようだ。
フードの男が何かをブツブツと呟き始める。
「...ボクハボクハ..キミはそんなことイわない...ようやくムスばれたんじゃないか..」
「ごめん聞こえなかった、もう一回言って」
「ボクタチは!!ムスばれたんだ!!!」
フードの男が怒声を放ったのと同時に腕を伸ばしてくる。
半歩下がっていたこともあり男の手が空を掴む。
「カワイイカワイイみさちゃん..もうナニもコワくない..」
またもブツブツと呟き始める。
この男..おそらく二つ..いや三つ症状を患ってる。
重度の統合失調症に加え解離性同一性障害、猜疑性パーソナリティといったところだろうか?。
もう一度声をかけたら襲われそうだ。
男に背を向け無言でその場を離れた。
腕時計を見る。
時刻は15時50分。
一回り廃坑を探索し終えただろうか?。
料理用油も手に入れ。
後は兄を探して帰るだけなのだが。
「...めんどくさ..」
見当たらない。
大声で呼んでみても反応なし。
一体どこをほっつき歩いているのだろうか。
「おい..嬢ちゃん...」
「......」
背後から声をかけられ振り返る。
そこには、パッとしない髪の長い男がいた。
「なにかな?」
「向こうであんたのこと探してる奴がいた」
「...ふむ」
私の事を探してる者。
おそらく兄だろうが、兄以外だった場合が少しだるい。
それに気になるのは、こいつが裏街の人間なのに教えて来たこと。
「もしかしたらあんたが探してる人物かもしれない、行ってみたほうがいい」
「...」
その言葉を聞いた瞬間、私は気持ちを切り替えた。
罠の可能性が高い。
私は一度も誰かを探しているなんて口に出していっていない。
それに、目線だけ動かし兄を探していたため周囲からは誰かを探しているより場所を探している用に見えてるはず。
「早く行ったほうがいい」
まず「人物」と、誰かを指している言葉を私に使ってる時点でおかしい。
それにこの男の目、やけに泳いでいる...焦ってる?。
罪悪感からの焦りではない。
もっと別、誰かに脅されている人間の焦り方だ。
「ふむ...」
なるほど。
この男は私を特定の場所に向かわせる為の舞台装置。
私が行かなければ殺されるといった所だろう。
問題は誰に殺されるか。
いや、それは今から行けばわかるか。
無言で男の横を通り過ぎる。
そして奥へ奥へと歩き出す。
空気が重くなって行く。
人も少なくなっていき、明かりも目に見えて少ない。
ある程度歩いた後に一つの部屋を見つける。
〘入るな〙
そんな雰囲気を感じさせるような一室。
だが、私は何の躊躇もなく扉を開けた。




