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やることもなければしたいこともない。


家でダラダラと怠けながら貰ったお菓子をポリポリと食べ、ポチポチとゲーム機で遊んでいる。

起きて、食べて、物を奪って、寝る。

そんな生活を過ごしている。


そんな怠けきっている私の他にもう一人男がいる。

あぐらをかき、カチャカチャと音を立てながら何かをいじっている。

足の爪先を使い、男の肩にトントン触れる。


「お兄ちゃ〜」

「..なんだ」


呼びに反応する1人の男。

兄【天堂(てんどう)(たける)】。

こちらを見ようと思っていないのか背を向けたままだ。

そんな兄に私は率直な気持ちを伝える。


「ひっまぁ」

「...そうか」


いつも通りの反応。

私の言葉が定型文化されているからだろうか。


「...ゲームやってて暇なのか?」

「そう」

「そう..か..」


兄は作業の手を止めようとせず、手に持っていたドライバーを地面に置くと、赤色の道具箱の中から六角レンチを取り出す。


「...だめだな」


一言だけ呟き、道具箱の中に六角レンチを仕舞い少し中を漁った後小さく溜息をつき箱を閉じた。


「モンキーってないか?」


モンキー...モンキーレンチのことか。

何に使おうとしてるのかはわからないが、兄が持っていることを把握していないならこの家にはない。

私はそういった類の道具は買ったことも奪った事もない。


「私に聞いても無駄なんじゃないかな?」

「そうだな」


私が知るわけないというのをわかってる前提で聞いてきたみたいだ。

兄の考えてる事はよくわからない。

すると兄がズボンのベルトを外し始めた。

その行動だけで何を言うか予想できる。


「..なぁ..セックスでもしないか?ちょっとイライラしてきたんだが」

「...」

「暇なんだろ?」



本来そういった行為は私みたいな家族でするのではなく、血の繋がっていない他人とやるものだ。

私は兄と血が繋がってないなんて事もなければ、義理の妹ということもない。

つまり、近親相姦。


「昨日の夜したばっかじゃん..猿ですか〜?」

「おい、心の声と口に出してる声が逆だぞ」

「猿が...発情すんな...。

はっ!心の声が表に出てしまった!」

「...どっちも同じかよ」


兄はベルトを外すのをやめ、赤色の道具箱を持って立ち上がる。

道具箱を引き出しにしまった後、腕時計をつけ、財布をポケットに入れ、玄関へと歩き出す。


「どっかいくの〜?」

「ラブホ」

「お〜〜私も行く、ちょっとまってて」


中身がなくなった菓子袋をその辺の床にポイっと捨て、ゲーム機を蹴飛ばしながら外出用の服に着替えるため自室へと向う。


部屋に入る。

なんていい匂いなんだろうか。

出来立てのポップコーンみたいな匂いが充満している。


......なんで?。


自分の部屋の匂いに疑問を抱きながら、ロッカーを開け服を見る。


「どれだろう..」


服なんてどれを着ても同じだと思っている。

それ故に、このどれだろうは迷っているのではない。

どれでもいいから、素早く楽に着られる服を探していると言う意味だ。


当然、私みたいな可愛い子はどれを着ても似合うと言う前提ありきである。


ロッカーにある服に目を通してから5秒。


「これでいいや」


開けた瞬間目に映った黒色のダウンジャケットを手に取る。


決めるだけなのに時間がかかってしまった。

もう行っちゃったかな?そう心配になりながら着替え、自室を出る。


「おまたせ、待った?」

「いや?今来たとこ」

「そっか..じゃ..挿れるね..」

「意味わかんねぇよ、急展開すぎるしなんで俺が挿れられる側なんだよ」


兄がツッコミをしてる...。

突っ込みをする事は多いけど、ツッコミをする事は珍しい、貴重である。


そんな珍獣の兄のツッコミをスルーし、部屋の電気や暖房、テレビが止まっている事を確認しにいく。

「よし!よし!」っと中指を立てながらチェックし、玄関へ戻る。


「いいか?」

「うん、台所のガス付けてきたから大丈夫」

「...」


兄は私のくだらない冗談を無視し、玄関のドアを開け外に出る。

特に何も思うことはなく私も外に出る。


今年は9月から雪が降っていた。

そして今は11月。

雪積もる地面をノソノソと歩く。


「おっせーな〜後ろがつかえてんだよ〜!はやく歩けよ〜!」

「遅い..か..じゃあ前歩いていいぞ、目的地はずーっと真っ直ぐだ」

「おう、歩いてる時に密着して私の尻とか胸とか触ってきたりしないなら歩いてやってもいいぞ」

「それは無理だな」


ノソノソと二人して雪が積もった地面を歩いていく。 

目的地まではまだまだ時間が掛かる。


歩くだけの時間は嫌いではない。

理由として、何も考えなくていいから。


「なぁ」

「な〜に」

「今日はから揚げ」

「あ〜い」


夜に何を食べるかの会話。

基本的に料理は私が作り、兄は食べるのがメイン。

私がまだ一緒に暮らしているから良いが、私がいなくなったらどうしていくのだろうか。


その変に落ちている葉っぱでも食べるのだろうか。

ちょっと見てみたい。


兄には今でも定期的に料理を作るように言っている。

だが、そのたびに裸エプロンの話になる。

内容はたしか、女の裸エプロンの需用がどうのこうの言っていた気が...。


「はらぺこりんこ」


...。

しりとりか。

意味のわからない単語や言葉を話し始めたらしりとりの合図だ。

暇な時間が嫌なのか、無言の時間が嫌いなのかどちらかはわからないが眺めの距離を歩くときはしりとりをさせられる。


「...コードネーム」

「ムラムラ」

落雷(らくらい)

「イク」

「飽きた、もう喋んないで」


兄が何を考えて生きているのかは未だに分からない。

脳が性欲で汚染されているのだろうか。


そう言えば油って家にあったかな?帰りに貰ってこないと。



歩くこと20分、地面の雪も深く積み重なっていき、雪も降ってきた。


雪...もしかしたら私の戦闘において、最も簡単に扱える武器になり得るのではないだろうか。


「お前って自分からは誘わないよな」


性行の話だろうか?。


「それはそう、家族とって気持ち悪くない?」

「でも抵抗はしないよな」

「抵抗ってなんか意味あるの?」

「俺はそっちの方が好きだ」

「そっか〜..雪合戦しない?」

「しねぇよ」


話をしていた最中、前方から足音。

そして目の前に人相の悪い男が現れる。

その瞳は私を捉えて離さない。


「女だ!女がいるぞ!おい!おまえらぁ!」


男の声に続々と輩が現れる。

全員で8人。

それぞれ武器を持参している。


「たったの二人!!最高だ!」

「久々の女..若くて上玉..儂らはついとる」


筋肉質の男もいれば太っている男もいる。

男達は私達を取り囲みながら得物を出した。


「世紀末だな」

「何歳くらいにみえる?」

「知らね」


私達が生きてきた場所は治安が悪い。

外に出ると必ず襲われ、命懸けの戦闘(おままごと)が始まる。

そんな世界。


男達との距離が離れてるとは言え今日は地面に雪も積もっている、一斉に来られたらめんどうだ。

ここは嘘でも言って行動制限を狙ってみることにするか。


「おにぃ..私....」

「....怖いんだろ?わかってる

(いずみ)、俺の後ろに隠れてろすぐ終わらせる」

「うん..ごめんねおにぃ」


私の意図を一瞬で理解したのだろう、瞬間的に私の話に合わせてくれた。

長年一緒に暮らしてるだけの事はある、流石だ。


私達の会話を聞いていた年寄がニヤリと不適な笑みを浮かべる。

その笑みは私の視野にギリギリ映っている。


兄は男達に向かって殺気を放ちながら自分の得物を抜いた。

その武器は通常のナイフよりも二回り大きい、人を切る専用のロングナイフ。


「なに?..」

「さっさとこいよ」


半数は今の殺気で兄の実力が理解できている様子。

だからこそ目線が私から兄に移る。


「女じゃ!!女を人質に取るんじゃ!!」


老人が指示を出す。

先程の演技は上手く掛かってくれたようだ。

この裏街で生きるのなら大半の者は戦闘者と考えるのが普通。

しかし、先ほどの演技をしたことにより奴等は私のことを非戦闘員と見ている。


兄の殺気のこともある、こうなれば(せんとうしゃ)をメイン的に狙い、(ひせんとうしゃ)は人質にする。

相手にするなら兄が6人、私が2人だろうか?。


兄との間に一定の距離をつくる。

直後、元いた場所に鉛玉が飛んだ。


「当てろよ!この下手くそが!」

「黙れ!てめぇから先に殺すぞ!」


チーム的に動いているという感じではなさそう。

位置的に殺すための射撃と言うより、動けなくさせるための射撃だろう。

ここの奴らは死姦とか余裕でするはずだが、欲張ったようだ。


「ふむ」

「面倒だな」


靴先を地面にトントンと当てる。

雪のせいで踏み込みが意味をなさない。


この環境で私達を追い詰めるには、遠距離攻撃をし続けることこそが正解。

奴らから私達に近寄って来ないと厄介だ。


まぁ..そこに気づけるなら、何の策もなしに私たちの前に現れるなんてしないだろう。


背後から気配を感じ左に回避する。

直後、銀線が縦に走る。


「あ!?」

「ふむ..」


銃持ちに目線を移していた隙に距離を詰められていたみたいだ。

私に向けて刃物を振りかぶり適当に斬りつけ始める。


「さっさとあたりやがれ!!」


斬撃や刺突を服を掠りながらも回避する。


接近戦での戦闘はなかなかに厳しい。

雪で身動きが取りにくくなっている事もあり、避け続けるのは困難。

それに自分の得物も持っていない。


そうとなれば、まずナイフの間合いから出ることだが。


「.....(技術はない..ならいけるか)」


胸元を狙ってきた大振りの横薙ぎ。

しゃがんで回避したのと同時に両方の手で雪を掴む。

男の振り下ろしを避けながら後ろに飛び、片方に持っていた雪を男の顔に向けて投げつける。


「がっ!!」


今の回避、少しだけリスクがある。

もし、私がしゃがむのと同時に男が足蹴りを放っていたのなら諸に受けてダウンしている。

ダウンしている状態から回避を入れるのは至難、相手からすれば絶好の攻撃チャンスだ。

ただ、それほどの戦闘技術を持っていないことはわかっている。


今度は男の腹部に投げ方を変えた雪玉を投擲する。

普通なら当たった所で痛くも痒くもないだろう。


「バカが!意味ねぇんだよ!」


私との距離を一気に詰めるため、雪玉に当たる前提で男が攻める。

しかし、腹部に雪玉が当たった途端、男の動きは止まった。


「...あ゛?」


それは男の腹部に深々と突き刺ささっている。

じわじわと鮮明な赤が広がっていく。


「て..つ..?」


雪玉の中に六角手裏剣を埋め込め投擲した。

相手目線、私が戦えないと思い込んでいるからこそ、この戦法は刺さる。

戦闘を続けられるほど浅くはない。

下手に動けば死ぬだろう。


男がその場に倒れ込む。

まずは一人。



右から金属音が鳴り響いている。

見てみると5対1での戦闘が行われていた。


その地面には首を斬られた死体と、胴体を絶たれた死体が転がっている。

攻めてきた相手を一瞬で葬ったのだろうか?。

相変わらずの化け物っぷりだ。


「なんなんだこいつはよぉぉぉ!!」

「フン..」


足元にナイフが落ちている。

始末された男が持参していた物だろう。

少しばかり援護に回ろう。


「ここからなら見えないね」


姿勢を低く、気配を消しながら兄の背後まで移動する。

私のことは兄が壁になっていることもあり、相手目線死角になっている。


目の前の頭のない死体を漁り、ナイフと銃を手に取る。


「くっそがぁ!!」

「いないいな〜い、ばぁ〜!」

「あ゛!?」


兄の後ろから顔を出し、六角の入った雪玉を筋肉質の男の瞳目掛けて投げつける。

それと同時にもう片方の手で兄にナイフを渡す。


六角は見事に命中し、男の片目を完全に潰した。


「ぐっ!!!」


兄は左手でナイフを受け取り、筋肉質の男の首を強引に斬りに掛かる。


「こんなところでぇぇ!!死んでたまるかぁぁぁ!!」


筋肉質の男が両手でナイフを防ぎにかかる。

刃と刃が衝突し、ギギギと金属音を鳴る。


「じゃあな」

「なに!!?」


両手でナイフを防いでしまったがために、もう片方に持っていたロングナイフを防ぐことはできない。

兄は刃を横に走らせ筋肉質の男の腹部を叩き斬る。


一瞬で絶命。


「は..はやく殺せ!殺すんじゃ!!」

「うるせぇよじじぃ」


私が渡したナイフを声がした方向に投げつける。

そのナイフは寸分の狂いもない軌道で老人の頭を貫く。


「おにぃ〜!」


手にしていた物を兄に渡す。


(チャカ)か」


弾は全部で3発。

外さなければ仕留めきれる。


直後、一発の銃声で3発の銃弾が放たれる。


「がっ!....」

「っ!..」

「はっ..」

「まぁこれあれば苦戦することはねぇよな」


三人の男の脳天を完璧に貫いている。

使い終え、弾切れの銃を死体に向け投げ捨てる。


「終わったね〜」

「...そっちの男、死んでるか?」

「まだ生きてるよ、でももう動けないだろうし、無視でいいよ」

「...」


兄は不服そうな顔をしている。

ちゃんととどめを刺せと言いたいのだろう。


「...まぁいい」


殺し殺され奪い奪われの世界だが、私は基本的には人を殺さない。

その行動は兄や父からは甘えと言われている。


守るべき存在がいるのならとどめを刺すが、私にそんな存在はいない。

必要とあらば殺すが、出来ることなら人を殺さないよう立ち回る。

それが私の生き方。


それに、殺さないことにも意味がある。


「殺さないことはお前の弱さだ、いい加減慣れろ」

「...わかってるよ..そんなこと..」


私の言葉が尺に障ったのだろうか。

兄の表情が険しくなる。


「わかってない、俺がいなくなったらお前はどうするんだ?どう生きていくつもりだ?」

「......」


兄の言葉に対して適当に表情を作る。

今回のようなお説教は初めてではない、今の私は余所目で見れば(親に怒られている子供)といった所。


過去、瀕死の相手にとどめを刺すと言う訓練を父にさせられた。

その時、私はあえて震え「できない」と泣いて見せた。


その時から兄や父は私のことを人を殺せない弱者と見ている。


「次、人殺せなかったらお前を本気で殴るからな」

「...うん..わかった...ごめんなさい..」


体を震わせながら瞳をウルウルとさせる。

我ながら誇らしい演技、これを見抜ける者は存在しないだろう。


「...チッ..いくぞ」

「.......(こいつまじ頭悪いからなぁ、さっさと謝ったほうが得だわ)」


男達が着ていた服や武器を貰って行く。

そして再び歩く。


今回は男しかいなかったこともあり、女性物の服や護身品が手に入るなんてことはなかった。

言わば私にとってはハズレ回。


「...まぁ..いいか」


次に襲われた時に期待しようかな。


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