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◯1

〜〜〜♪♪。


聞いたことのないアラーム音が流れている。


仰向けの身体を微かに動かし、音が鳴っている方へと腕を伸ばす。

馴染みある四角..どうやら音はこの電子機から流れているようだ。

微かに瞼を空けながらその形状をみる。


「....?..」


見覚えある形。

だが、全く違う。


「...だれのだ?」


トントンと階段を登ってくる足音が聞こえる。


おかしい。

これほどのペースで階段を登る奴なんて、俺の家族にはいない。

それに、何故か身体が物凄く軽く感じる。

引きこもりで運動もしてないはずなのに。


コンコンと扉がノックされ、ドアが空けられる。


「あにき〜?あさだぞ〜?」


少女?少年?の様な声。

兄貴?なんのことだ?俺に兄弟なんていない。

しかし、何故だろう、聞き馴染みがある声だと思ってしまうのは..。


「起きてるか〜?」


部屋を開け、こちらに近寄ってくる。

なんだ..ふんわりとした良い匂いが..。


「あにき?朝ご飯できてるぞ?」


声がする方向に目線を移す。

寝起きだからだろう、視界がぼやける。

数秒が経ち、声の主の姿が見えてくる。


「....」


茶髪のショートにまるまるした可愛らしい顔。

気さくで朗らかな雰囲気を醸し出し、パッと見の印象は誰とでも仲良くなれそうな女の子。

そんな子が俺の事を見下ろしている。


誰なんだ..見たことはある、だが..思い出せない。


チラッと女の子の胸部を見る。

随分と重そうな物を抱えている。

いや、重そうと言うより..でけぇ..。

雰囲気も含めて結構タイプ。


いや、何を考えてるんだ俺は..。


「なぁ..ここはどこだ?それに君は?」


俺の言葉に女の子はポカーンとした顔を見せた後、ニマニマと笑みを浮かべる。


「あにきでも寝ぼけることってあるんだな!そぉい!」


布団を剥ぎ取られる。

少し寒い、でもすぐ慣れる寒さ。

1月の後半辺りだろうか。


「起きたなら下で待ってるぞ、姉貴も待ってるからな」


女の子が部屋を出ていく。

わからない..いったいなんなんだよ..。


仰向けの身体を起こし部屋全体を見回る。

そして机の上の小物入れに手鏡がおいてあるのを見つける。

俺は手鏡を手に取り、自分の顔を確認した。


「...え?..」


自分自身の顔ではない

しかし、知っている。


「この..顔!!」


俺が生前ハマっていたゲーム【境界線ガーディアン】に出てくるキャラクターの顔だ。

もっと細かく言えば..救いがない鬱シナリオの主人公。


桐谷恭弥(きりたにきょうすけ)!」



R-18ビジュアル型ノベルゲーム【境界線ガーディアン】。


【ノベルゲーム】

物語を読む体験とプレイヤーの選択による分岐が融合したインタラクティブな構造のもの。

RPGやアクションゲームの様に圧倒的な人気があるわけではないが、それでも名作が生まれる事が多く、コアなファンを増やし続けている。


【境界線ガーディアン】

キャラクターの完成度、シナリオ等がノベルゲームの中でも最高傑作と謳われており、未来に残る名作という声が後を絶たない。

そして、ノベルゲームの中でも圧倒的な支持率があり、シリーズでは6まで出ていた。

7の制作も決定されており、まだまだ続くことが想定されていた。


しかし、このゲームは全年齢向けではない。

【R-18】と書かれていることもあり、18歳未満はプレイ出来ないように規制がかかっている。


理由として、過激な描写に妖艶なシーンが多くあり、テキストでも生々しい言葉がざらに出る。

これにより、R-18成人向けの作品となっている。

つまり、シナリオをメインとしたエロゲ。


キャッチコピーは全シリーズ通して【表裏の世界で抗え】。


境界線ガーディアンは【プレイヤー】が【主人公】である【天堂健(てんどうたける)】を操作し、各ヒロインと恋愛関係を築いていく、と言うのがメインシナリオとなっている。


ただ、このゲームは表ストーリーと裏ストーリーがある。


表のストーリーのテーマは「成長、信頼、仲間」 

舞台は表街の【花形(はながた)連立高等専門学校】と【第4区 灯警(とうけい)特殊高等専門学校】という名の2つの学園。

この環境化でヒロイン達の悩みや葛藤を共に共有し、乗り越え、成長していくというのもの。

表ストーリーのシナリオはよくあるギャルゲー、またはエロゲーと言っても過言ではない。


そして問題の裏ストーリー。

裏ストーリーのテーマは「殺し、狂気、嘘」

舞台は裏街(うらせかい)なんだが..。

裏街(うらせかい)には名のある建物や場所は存在しない。

それに裏街に関しては6作品全て通してもまだまだ未知の場所や伏線に加え、キャラも多い。


裏街はテーマが不穏なだけあって、物語にも恋愛要素はなくなり、命を懸けた戦闘シーンや心理戦、不快な気持ちになる展開などが増える。 

誰が見ても生理的に嫌悪するシーンなどがあるため裏街のストーリーに関しては本当に人を選ぶ。


そして、このゲームはマルチ主人公となっている。

メイン主人公は【天堂健】だが、それ以外にも主人公は存在する。

【桐谷恭弥】はそのうちの一人だ。



メイン主人公【天堂(てんどう)(たける)】は二言で【天上】。

過酷な過去に裏街での死闘の数々を得て作中では敵無し。

俗に言う実力隠し系主人公といった所だろう。


そして俺の転生先【桐谷(きりたに)恭弥(きょうや)】。

このキャラクターはシリーズ作品の2で登場し、終盤で天堂健の前に立ち塞がる者として現れる。

そして死闘を繰り広げ、殺される展開となっている。


このキャラには救いがなくシナリオも評判が悪かった。


ただ、【天上】と言われる主人公と戦えるだけあって、才能や戦闘性能は反則と言えるものを持っている。


たしか、一度見た技や技術を完璧にコピーできるみたいな...。


「あにき〜?はやくこいよ〜?」


下から呼び声が聞こえてくる。

そうだ、朝食。


階段を下り、洗面所で顔を洗ったあとダイニングルームにつく。

テーブルの上には朝食が置いてあり、2人の女性が椅子に座っていた。


「おはようきょうちゃん」

「やっときたな〜!」


落ちつきがあり、ゆったりとした声音。

柔らかく温かみがあり、アニメで言う穏やかなお姉さんキャラみたいな雰囲気を醸し出している女性。


この女性が桐谷恭弥(おれ)の姉である【桐谷瞳(きりたにひとみ)】。

ゲーム内だと立ち絵はあったが登場回数が極端に少なかった人だ。


姉の隣に座ってる女の子。

寝ていた俺を起こしに来てくれたこの子が桐谷恭弥と桐谷瞳の妹である【桐谷春(きりたにはる)】。


そして今この場にはいないがもう1人、桐谷恭弥には妹がいる。

その子は桐谷(きりたに)つみき。

桐谷恭弥のシナリオでは登場していないが、天堂健のルートによっては重要人物として登場していた。

俺も会ってみたいものだ、まぁ会おうと思えば会えるんだが。


とりあえず、今目の前にいる春と瞳...この2人を見てわかったこと。

それは、絶世の美少女姉妹だということ!。

桐谷恭弥!お前!こんな可愛いらしい姉と妹がいたのか!なんと羨ましい!。


そんなくだらないことを思いながら、姉妹の向かい側の椅子に座る。


「ど、どうしたんだよあにき?やけに目を輝かせて..」

「いや..我が妹と姉ちゃんが美少女すぎて見惚れてただけだ、気にしないでくれ」

「..え?」

「...は、はぁ!?」


ヤバい本音が。

もしかしてこれ桐谷恭弥のキャラ崩壊してる?。

いや、でも、2人の表情を見る限り嫌がっているというわけでもなさそうだ。


「い、いきなり何言ってんだ!寝ぼけてんのか?!」

「ははっ」

「...もう、早く食べないとご飯冷めちゃうよ?」


まるでアニメやゲームの中の様な反応。

なんか2人を見ると、改めてゲームの世界に転生して来たんだなって実感するな。



朝食。

ホカホカのオムレツ。

卵を割ってみると、とろ〜りとしてチーズと旨味たっぷりのハムが見える。

まさに至高のオムレツ。


春に目をやるとニッコニコの笑顔でオムレツを口に運んでいた。


その食べ方は..ずるい..可愛すぎる..。

そんな事を思いながら、俺もオムレツを口に運ぶ。

瞬間、口元に電撃が走る。


「そのオムレツどう?美味しい..?」

「めっっっちゃ!うっっっまい!.......」

「ひと(ねぇ)の料理はなんでも美味いよ!!!!」

「よ、よかったぁ..」


俺や春の反応をみてホッとしたようだが、姉は天才なのだろうか?。

こんな美味い料理、生前生きてた時も食べたことがない。

味わって食べたかった所だが、美味しい物ほど手が止まらない、次から次へと口に運んでしまう。


そして、最後の一口を口の中に放り込む。


「ふぅ〜..ごちそうさまでした..」

「ふふっ..はい、おそまつさまでした」


姉が食べ終えた皿を片付けていく。

そんな姉を俺は黙って見ていた。


「...あにき?どした?」

「..いや?どうもしてないぞ?」

「そうか?ひと姉のこと見てたからまたへんなセリフでも吐くのかと思ったぜ」


確かに、ここで感度をあげるための台詞は言ってもよかったかもしれない。

ただ、今俺が考えていたのはこの桐谷家のゲーム内での結末、俺は桐谷恭弥が死亡するという結末だけしか思い出せていない。

瞳や春は桐谷恭弥の死後どうなったのだろうか?。

それにゲーム内での桐谷恭弥は冷静な判断ができないほどに追い詰められていた。

その原因もわからない、いやこれも思い出せないと言ったほうがいいだろうか?。


「あにき!今日は第3区域に行くからな!行かないとか禁止だかんな!」

「ん?あぁ」

「...え!?き、来てくれるのか..?ほんとに..?」

「いいぞ」

「ま、まじかよ..あにき来てくれるのか..や、やったぁ!!」


表街にはそれぞれ第1から第8まで区域がある。

その中でも第3区域と第4区域は他の区域と比べ最先端の技術を取り入れており日本で言う東京みたいな場所だ。

広さも含め他の区域と比べたら何倍も住みやすい。

公共機関も数多くあり、大型なショッピングモールもいくつかある上、娯楽施設も充実している。

だからこそ金持ちや資産家、政府関係者などは第3区域や第4区域に住んでいることが多い。


そして、若者が第3や第4に行く理由はだいたい同じ。


「あにきどこ行きたい?」


どこ行きたいと言われても..正直あまり知らないんだよな。

ゲームで見ていた光景は一カ所に固定された絵だし。

ここは無難に。


「春に合わせるよ」

「まじで!?!?」


よし。


「春?遊びに行くのはいいけど明るい内に帰ってきてね?」

「わかってるわかってるっての〜!」

「ほんとにわかってる〜?」

「ひと姉は心配しすぎ!大丈夫だよ!兄貴もいるんだからさ!」

「..そう?..そうね..きょうちゃんお願いね?」

「あぁ!まかせろ!」


この世界の建物..生で見るのは初めてだから楽しみだな。

それにこんな可愛い妹と遊びに行けるとか最高すぎる!。

まずは思いっきり楽しむか!。


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