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第15話 道化の英雄

黄の国の中では大量の魔獣が暴れ、あたりは、血と瓦礫が織りなす、むせ返るような匂いに満ちていた。


狼の姿に変身したカゲに乗って城に向かっていたアレスが焦り声で言う。

「早くしないと力ない民はやられてしまう」。


「わかってる。うちのバカ魔法使いが国民を転移させれば、こっちのもんだ。とにかくお前は王を倒すことだけ考えてろ」

クロも焦っていた。魔獣があまりに多すぎる。


「悪いが速度を落としてくれないか」

ダンガンは突然放った一言に一同驚いた。


「今、国の中央位置からあたりなら俺の銃で魔獣の動きを止められる」


「わかった。カゲ、速度を落とせ」


ダンガンは立ち上がり、目を閉じて、集中する。国全体にいる人の魔力、魔獣の魔力。


「見えた。レインバースト」

ダンガンは両手の銃を上に向けると、数万発もあろうかという弾を一瞬にして空中に放つ。

雨のように落ちる弾丸は魔獣だけに当たり、国中の魔獣は動かなくなった。


「さすが。ダンガンだ。これで時間が稼げる。どうした?ダンガン?」

アレスはダンガンを見て、腕を抑える彼を心配した。


「大丈夫だ・・・。腕が折れただけだ。少し限界以上の力を使ったようだ。」

そう言ったダンガンの腕は赤く腫れあがっている。


突然、マントで全身を覆った相手が道を塞ぐように現れた。

カゲは、相手が放つあまりの殺気に思わず立ち止まってしまった。


「わっちのかわいい子たちをやってくれたのは、お前たちじゃな」


カゲとダンガンが前に出る。

クロとアレスがマント姿の敵を通り抜けようとすると、マントを脱ぎ捨て、着物の女が姿を現した。脱いだマントの影からは魔獣があふれ出していた。


「やらせるか」

ダンガンは辛うじて痛みで震える右手で、マントから出た魔獣を的確に打ち抜いた。


クロとアレスは何とか先に進んでいった。


城に着くと急いで登っていく。だが、人の気配がない。

不気味なほど静かな城。城に来たのは初めてだが、この国の異常さそのものだ。

最上階へ続く階段を登っていくと、おびただしい量の血が伝って流れていた。


「クロ。この血の量・・・慎重に行った方がいいんじゃないか?」


「問題ねえ。時間が経って乾いてる、そして、血の匂いは一番上から来てる。死んだのは階段じゃねえ。さっさと行くぞ」


クロとアレスは急いで階段を上っていくと、目の前には王への扉の前の広場に着いた。

周囲には鎧や武器が散乱し、肉片が周囲に散らばっていた。


「これは?」

アレスがあまりの悲惨な景色に動揺した。


「防衛隊だろうな。国の中に1人もいなかったのは、これのせいか」


柱の影から1人の男が出てきた。

「よくお分かりで」


「お前がこのようなことをしたのか?」

アレスは激怒していた。


「ええ。防衛隊が魔獣を倒してしまったら、計画が失敗してしまいますので、先に集会と嘘をついて、皆殺しにしました」


「許せない。人の命を何だと思っている」

アレスは剣を持ち、いつでも切り込もうとした。


「落ち着け。アレス。ここは任せて、お前は先に王を倒せ」


「わかった。またあとで会おう」


アレスは王への扉の中に入ると、扉が閉まっていった。

部屋の中はまるでサーカステントの中にいるような円形型で客席まで用意してある。しかも全席に人形がショーを見るかのように座っていた。

中央には、ピエロメイクにピエロ衣装を着た金髪の男が、笑いながら一人でおどけていた。その不気味な笑い声が、静まり返った部屋に響き渡る。


(カラーズの王が言うピエロはおそらくあの男のことだ)

アレスは、こいつが王だと確信した。


「僕はアレス。あなたは黄の国の王であられるか」

「キャハハハ。ボクが王じゃなかったらどうするんだい。見逃してくれる?」

「いや。この国の異常事態。僕には確認する義務がある。素直に投降してください」

アレスの言葉に、男の雰囲気が一変した。

「お前オレに向かって、投降しろだと。俺は黄の国の王エニグマ・ドーン様だ。なぜ、小僧のお前のいうことなど、聞かねばならん」


アレスは両手に剣を具現化させた。説得でどうにかなる相手ではない。この王を殺すしかない。


「プハハは。ボクに剣を向けるか。小僧の分際で。何ができる。そうだな。また大事な人を見殺しにすることは出来るか。簡単だろ。見てるだけだから。あははは」

エニグマは笑いを抑えられなかった。

僕は煽られても冷静だった。そうだ。これはただの事実だ。STFの仲間を、あの男から守ることができなかった。それが僕の弱さだ。だが、それを変えるために、僕はこれまで戦ってきたんだ。感情に流されるな。僕は覚悟を決めた。


「キミ面白くないね。もっと感情的になってよ。ボクのショーが台無しだ。でも、これから踊りたくなるよ」

エニグマは右手を上に向けると、観客席にいた人形が一斉に立ち上がった。

「この日のためにグレーゾーンに送っていた人形も回収したんだ。さあ、楽しいショーのはじまりだ」

人形が一斉にアレスを襲ってくる。


僕は剣で応戦しようとするが、硬くて切れない。

(この人形、異常な硬さだ…!)

僕は剣を弾かれ、体勢を崩した。単純な攻撃では歯が立たない。

僕は体勢を立て直し、奥の手を使うことにした。

僕は剣を構え直す。この戦いを終わらせるために。

僕は『ラグナロク』で応戦しようとする。光の剣は地面に刺さり、僕は人形を切りつけながら、剣を拾って、吸収していく。

人形の関節を狙えば、切ることが分かったが、それでも動いて来る。

僕の切る姿はまるで踊る人形そのものだ。


人形がダメなら本体を叩くのみ。僕はエニグマに向かって、切り込む。


「そんなのだめだよ」

エニグマの前には人形たちが集まり、壁を作る。

壁のせいで攻撃が弾かれた。


「弱いよ。アレス君。キミ英雄になるんだろ。そんなんじゃ死んだ両親に顔向けできないねえ」

エニグマは僕を煽って来る。


「お前に両親のこと言われる筋合いはない」

僕は攻撃速度を上げていく。


「そうかい?それは良かった。じゃあボクが親の仇だとしても恨みはないんだね」

エニグマから驚愕の言葉が飛び出した。

それを聞き、僕の動きは一瞬止まった。

(こいつが…父と母を…?)

そんなことが…僕の心は真っ白になった。

その隙を突かれ、僕は人形にボコボコに殴られた。


真実と怒りの共鳴

「あれ~。ショックだった?STFの4人はたまたま集まったと思ったかい?違うんだよ。ボクが殺したのさ。子供の能力が優秀な人材を選んでね。ボクのおかげで、君たちは仲良くなれた。プハハは!」

エニグマは太ももを叩きながら、笑いまわっていた。


アレスは殴られても、倒れない。怒りの表情を抑え、瞳の奥に燃え盛る炎を宿したまま、ただ冷ややかな殺意をむき出しにしていた。


「もう黙れ。お前は…人を不幸にしかしない」


アレスの全身から、凄まじい魔力が迸る。その力に呼応するように、再び光の剣が空中に現れた。一本、二本、三本…。彼の手に握られた剣に、さらに剣が吸収され、重みを増していく。


エニグマは、その異常な魔力と身体能力に一瞬驚き、反射的に人形で頑強な壁を築いた。


『ラグナロク』


アレスは限界を超え、両腕で次々と剣を吸収していく。彼の体は悲鳴を上げ、筋肉が引き裂けるような激痛が走る。それでも、彼は踊るように、いや、狂ったように剣を振るった。


「来いよ…!お前の遊びは、ここで終わりだ!」


壁をなす人形の群れに、斬撃の嵐が叩きつけられる。光の剣が一本、また一本と吸収されるたびに、アレスの速度は増し、その一撃は重さを増していく。


部屋の中央で繰り広げられる、まるで狂乱の舞踏会。人形の残骸が飛び散り、悲鳴を上げる代わりに軋む音が響く。


「もうすぐだ…もう少しで…!」


アレスは満身創痍だった。それでも、彼の目はまっすぐエニグマを捉えていた。


そして、ついにその時が来た。


最後の剣を吸収したアレスは、人形の壁を粉砕し、エニグマに肉薄した。


「終わりだ…!」


しかし、アレスの剣が王の喉元に届く寸前、彼の体は限界を超え、急激に力が抜けていく。魔力切れだ。彼の全身から魔力が失われ、剣が消滅する。


「いや〜。残念だったね。所詮はその程度。王に剣を向けるなど愚民のすること」


エニグマは、倒れたアレスを嘲笑い、その顔を踏みつけた。

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