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第14話 疑心の英雄

僕は黒の国からの長い帰路に着いた。流石に疲労がたまっており、休む暇もなかったから、STFに戻ったらまずご飯でも食べて、ゆっくり休もうと考えていた。それから、みんなにクロが生きていたことを伝えよう。


STFに着き、食堂へ向かうと、テツオ、ダミア、ダンガンの3人が手紙と写真を見て、固まっていた。

「なあ、黒の国行ったら、クロがいたんだ」

僕が言うと、3人は浮かない顔で僕を見た。

「何があった?」

僕は異常事態を感じ取った。


ダミアが震える手で手紙を見せてきた。よく見ると、黄の国からだ。

内容は、クロの討伐依頼。

(どういうことだ…?)

僕の頭は混乱した。さらに、添えられた写真には、クロが人を殺している瞬間がいくつも写っていた。

そんなはずがない。

手紙には続きがあった。次は黄の国を滅ぼしに来る。Aランク冒険者として、被害を出さないように捕獲しろと書いてあった。

(どういうことだ。この前クロに会ったばかりなのに…)


「クロにあったんだろ。どういう様子だった?」

ダンガンが僕に詰め寄ってきた。

「いや、どうって言われても…やりたいようにやっているって言っていた」

僕はもう、何が真実なのかわからなくなった。


「クロが黄の国を襲うなら、止めないと」

テツオが拳を握り、険しい表情を浮かべた。

「そうね。なんとかしないと」

ダミアも神妙な面持ちだ。

「やりたいように、ってことは、あいつのことだ。殺してでも止めないと」

ダンガンが覚悟を決めた表情をした。


3人の表情が怖かった。彼らが信じているこの手紙の通り、本当にクロは黄の国を滅ぼそうとしているのか?そんなこと、あり得るのか?

「ちょっと冷静にならないか」

僕は止めに入った。

「何言ってんだ。この手紙見てそんなこと言えるのか」

テツオが掴みかかってきた。

「俺はクロの本音を直接聞いてない」

僕はそう断言した。僕が知っているクロは、理由もなく人を殺すような人間ではない。この写真や手紙に、何か裏があるのではないかという疑念が、僕の心を支配していた。


僕の言葉に、3人は少し落ち着いた。

「すまないが、僕がクロと話をさせてくれ。それでもだめなら、あとは任せる」

今までの経験から、僕はまず状況を確認しようと思った。3人も「わかった」と合意してくれた。

手紙を見ると、明日昼に襲いに来ると書いてある。なぜそこまで知っているんだ?おかしいことがいくらでもある。僕がAランク冒険者になったことや、STFに戻ったことを知っていたのか?カラーズの王が言っていた「あのピエロ」とは一体何者なのか。この手紙のタイミングも、僕がちょうど戻ってくるのがわかっているようだ。さすがに全てを信用することはできない。

夜になり、不安のあまり眠れなかった。本当に明日来るのか。来ないでほしい。全部嘘であってほしい。気持ちがぐるぐると渦を巻く。信じたい気持ちと、疑う気持ちが、僕の中で激しくぶつかっていた。


翌日昼。

黄の国の門の前で、僕たち4人はクロが来るのを待っていた。本音を言えば、来ないでほしい。

だが、運命は非情なものだ。クロ一行5人が、静かに歩いてきたのだ。


「僕はA級冒険者アレス。君たちには昨日の中央貿易都市爆破事件の容疑がかかっている。黄の王の命令により、クロ一行を捕獲し、事情聴取するよう言われている。大人しく掴まってくれないか。手荒な真似はしたくない」

僕は警告をした。目の前には、かつての仲間、クロがいる。彼が、そんな事件を起こすとは信じられない。きっと何か裏があるはずだ。

クロは一旦、僕の言葉を聞いて仲間を静止させた。

(良かった…話を聞いてくれる)

安堵したのも束の間、クロはきっぱりと断ってきた。

「悪いな。アレス。こっちは王に直接話がある」

やはり、彼には何か目的がある。でも、僕の立場では、もう引き返せない。

「クロ。こっちにはクロが人殺しをしている証拠が多くあるんだ。断れば、こちらも戦闘するように言われている」

「そうだろうな。全部計画通り。顔を見たことがない王に尽くす意味はあるのか?」

クロと話しながら、僕はゆっくりと距離を詰めていく。お互い、もう言葉は必要ないことを悟っていた。

「僕は君がそんなこと理由もなく、する人間だとは思わない」

「じゃあ、見て見ぬふりをしろよ」

「それは出来ない。僕は僕の正義を守る」

もう言葉は通じない。僕は剣を構えた。クロも手足を部分獣化し、低く構えた。彼の本気が伝わってくる。彼もまた、僕との戦いを避けてはいない。

僕とクロは見つめ合う。かつて、何度もこうして稽古を重ねた。だが、今回は違う。本気でやらないとやられる。その重苦しい空気の中、僕たちは互いに距離を詰めた。僕たちの間に身を切るような風が吹くと、鉛色の空から大粒の雨が降り出した。

クロが先に動いた。殴りかかってくるのをギリギリで回避し、僕は切り込もうと構える。だが、クロは僕の腹部目掛けて、魔撃を打ち込んでいた。咄嗟にそれも見切り、最短で避ける。そして、横一線に切り込んだ。クロも紙一重で避けると、間髪入れずに次の攻撃を繰り出す。

僕たちは息つく暇もなく、攻防を繰り返していた。お互いの動きは手に取るようにわかる。この戦いで大技は通じない。隙が大きすぎるからだ。だからこそ、小さく動き、相手の隙を誘うしかなかった。

僕たちは一歩も引かず、手を休めない。周囲もいつ決着がつくのか、目が離せないようだった。

先に息が切れたのは、僕だった。呼吸をするその一瞬、クロは僕の腹に見えないほど素早く一撃を入れてきた。僕の体が浮き上がる。

だが、その目にはまだ光があった。クロの一撃を魔力で強化して受けきったのだ。

「まだだ!まだ終わっていない!」

僕は叫んだ。「『ラグナロク』!」

僕の頭上には光の剣が9本現れた。剣を縦に振ると、1本ずつクロに襲い掛かる。

クロは後ろに下がりながら、1本1本回避していく。せっかくの近距離戦ができなくなり、彼を避けるだけの状態に追い込めた。

9本の剣が地面に刺さると、僕は剣の方へと動き出す。僕の持っている剣に吸い寄せられるように、地面の剣が吸収されていく。剣を吸収するに連れ、僕の速度が上がっていった。

僕はクロに連撃を仕掛ける。彼はそれを回避しているように見えるが、僅かに掠っていく。地面がぬかるみ、強く踏み込めなくなったようだ。

だが、それでも僕は足元の悪さを感じさせない動きで切り込んでいく。クロは足元が滑りながらも、体を無理に傾け、避け続けていた。

この戦いは、完全に僕が優勢に進んでいた。

僕のクロへの攻撃は止まることなく、ますます鋭く、洗練されたものになっていった。


ダミア・ダンガン・テツオは複雑な表情でただ見ることしかできないでいた。


「私、アレスのあんな本気で戦っている所見るの初めて。一緒にいたのに、こんなに差が開いているなんて…」

ダミアは自分の実力に落胆していた。


「わかる。これだけの実力を見せられたら、止めに入れない」

ダンガンもダミアに同調し、止めに入れない自分を責めた。


「アレスが心配になるよ。あんな速い攻撃ずっと続けていたら、体が持たないよ」

テツオは僕の無理な動きに心配していた。


一緒にいたはずなのに、大きく差が開いている。止めに入ることすらできない。3人には、まるで恩師ブラッドが赤の王と戦った時の、あのどうしようもないもどかしい感覚が蘇っていた。ただ見つめることしかできない、情けない自分。変われていない。そんなネガティブな感情が、さらに彼らの体を拘束する。


クロも避けるのに限界が来ていた。防ごうにも速く、一度動きを止められたら、そのまま切り込まれてしまう。完全獣化をしたいが、僕の連撃が隙を与えてくれない。


クロと僕は昔の特訓をしていた頃を思い出していた。僕は負けてばかりで、クロにダメ出しされ、それでも負けじと食らいついた。もう、あの頃とは違う。


クロは足が雨で滑り、体勢を崩し、後ろに倒れてしまう。

僕はその隙を見逃さず、間合いを詰めた。2本の剣が、クロの首元で交差する。


大雨が急に止み、太陽が僕たちを照らした。

誰もが僕がクロを切ったと思った。だが、僕の剣は、クロの首元で止まっていた。


「少しは英雄に近づいたんじゃねえか」

クロは僕に優しく声をかけてきた。


「悪役やらせておいてよく言うよ」

僕は剣をしまい、クロに手を差し出した。


クロは起き上がると、黄の国の門の方を見た。


「真の悪役の登場か」

クロがそう言うと、皆が一斉に門の方を見た。

2人が歩いてくるのが見えた。

1人は、地図を見ながらニヤニヤと歩いてくる。右手には地図を持ち、左手には大きな袋を引きずりながら、歩いてくる。

もう1人は見たことがないが、腰に刀を差した侍だ。


「やはり失敗でしたか。クロック」

地図を持った男は呆れながら隣の侍に声をかけた。


「拙者はもとよりあんな幼い者ども信用しておらん。今日ぐらいは拙者に任せてくれればいいものを」

クロックは不満そうだ。


僕は向かってくる2人に一歩前に出て声を張った。


「僕はアレス。Aランク冒険者。あなたたちは何者ですか?」


「私は…ええと、六道の修羅道担当です。隣にいるのは天道担当のクロックです。これでよろしいでしょうか?」

地図を持った男は落ち着いて返した。


「僕とクロを戦わせようとしたのもあなたたちですか?」

僕は少し興奮気味だった。


「いえいえ、そちらが勝手に争っただけの話。なぜ戦っていたのですか?」

男はニヤニヤしながら話してくる。


「こういう奴だ。相手にするな」

クロが間に入った。

一触即発の空気が壊れてしまい、男はがっかりとしていた。だが、黄の国を差しながら、語りだす。


「刮目せよ。これより太陽が闇に覆われ、真の王エニグマ・ドーン様がこの世を支配する。これより選別の時だ」


男が語り終えると、黄の国から大量の飛行型の魔獣が太陽に向かい、黄の国周辺は闇に包まれた。


「どうですか?これが王の力。黄の国の国民を全員殺した暁には、魔術で異界の魔獣を呼び出し、世界を血に染めるのです。このままお前たちを始末すれば、邪魔なのはカラーズの王のみ」


全員が男を睨みつける。太陽を覆っていた魔獣は、グレーゾーンに落ちていく。


「みなさん。そんなに見つめられても何もないですよ。ああ、でも、これアレス君達にプレゼントです」

男は左手の袋から勢いよく物を落とした。


それを見て、僕たちは全員が絶句した。

STFにいる全員の生首が転がっていた。


「集めるのは大変でしたが、この地図があれば居場所はすぐにわかります。子供は面倒でした。最後まで抵抗するので、少し雑になってしまいました。どうですか?いいプレゼントでしょう?」


「このクソ野郎が!!!」

僕が怒りに任せて突っ込んでいこうとしたが、ダミアが止めに入った。


「待って。あなたはここで立ち止まってはダメ。王を止めて。ここは私たちで何とかする」


「俺が道を作る。あとは任せた」

ダンガンが僕の前に出る。


クロ達は急いで国に向かおうとする。


「アレス。お前を王の所まで連れていく。英雄になるんだろ」

クロがアレスに問う。


「当たり前だ。僕は英雄になるんだ。」

僕に迷いはなかった。この怒りの先に、僕がなるべき英雄の姿がある。


クロの仲間で執事の格好をしているカゲは狼の姿になると、クロ、アレス、ダンガンを乗せ、城に向かって走り出した。

読んで頂きありがとうございます。

クロの方では語られなかった部分を書いて見ました。

このあともアレス視点を書いていきます。

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