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第13話 再建の英雄

武術国家に活気が戻り始めた。アレスたちSTFの面々が考案した「賭け試合」という斬新なシステムが功を奏し、寂れていた町には日を追うごとに人が増えていった。


「見て!この賑わい!」

ダミアは嬉しそうに町の様子を見渡した。


「ああ。これなら大会も成功しそうだ」

テツオは感慨深げに言った。ダンガンも静かに頷く。


アレスは、仲間たちの喜ぶ顔を見て、充実感を覚えていた。

(僕は、一人じゃ何も成し遂げられなかった。みんなと一緒だから、できるんだ)


大会当日。会場は、かつての活気を取り戻し、熱気で満ち溢れていた。ゴルダール王も興奮を隠せずにいた。

「まさか、ここまで人が集まるとは…」

その目に、かつて最強の武術家として君臨していた頃の、誇りが蘇り始めていた。


大会は順調に進み、STF代表としてテツオが順当に勝ち進んでいった。アレス、ダミア、ダンガンの三人は、観客席から彼の戦いを見守っていた。

(テツオの成長、すごいな…)

テツオは、その力強さと粘り強さに磨きがかかっていた。一撃一撃が重く、相手は彼の攻勢を止めることができない。


そして、ついに決勝戦。リングに上がってきたのは、なんと武術国家の王、ゴルダールだった。

「私が直々に相手をしよう。大会を成功に導いた若人よ。私と戦い、その実力で観客たちを魅了してみせろ」

ゴルダールは、テツオを真剣な表情で見つめていた。その目は、王としてではなく、一人の武術家としての闘志に満ちていた。


テツオは、まさかの相手に一瞬戸惑った。しかし、すぐに闘志を燃やした。

「はい!全力で戦わせていただきます!」


アレスは、テツオの戦いを見つめながら、ツムギとの特訓を思い出していた。力や速さだけでは勝てない。ツムギから学んだ「曇った目では何も見えない」という言葉が脳裏をよぎる。

(テツオ…焦るな!冷静に相手の動きを見ろ!)

アレスの視線は、テツオに集中していた。ダミアとダンガンも、固唾をのんで見守っている。


ゴルダールは、テツオの攻撃をすべて受け流し、彼の力に圧倒的な技術で対抗した。テツオは、相手の技術に少しずつ押し負けそうになっていた。しかし、その時、彼はアレスたちの視線に気づいた。

(俺は、一人じゃない…!)

テツオは、家族のような、温かい信頼の視線を感じた。

彼は、焦りから一度深呼吸をすると、持ち前の力強さを最大限に引き出し、王の攻撃を真正面から受け止めた。


テツオの猛攻が始まった。力と力、技と技がぶつかり合う。ゴルダールは、テツオの攻撃を受け流し、ついに一瞬の隙を突いてカウンターを放った。テツオは、その一撃を防ぐことができず、リングに倒れ込んだ。

試合は、ゴルダール王の勝利で幕を閉じた。ゴルダールは完全復活を遂げ、会場はお祭り騒ぎになった。

「ワハハハハ!見事だ!武術国家に、この熱気が戻ってきたぞ!」

会場は、テツオの健闘を称える拍手と、王の勝利を喜ぶ歓声に包まれた。ゴルダールは、倒れたテツオに手を差し伸べた。

「良い戦いだった。君たちの熱意は、この国に再び火をつけた。ありがとう」


大会は成功し、アレスたちSTFの四人は、正式にAランク冒険者に昇格した。


その夜、四人は酒場で祝杯を挙げていた。

「テツオ、惜しかったな!」

「でも、本当にすごかったよ!王とあそこまで渡り合うなんて!」

ダミアとダンガンは、テツオの肩を叩き、健闘を称えた。

テツオは、悔しさを滲ませながらも、晴れやかな顔で笑った。

「ありがとう。でも、俺たちがAランクになれたのは、この大会を成功させたからだ。王が言った通り、俺たちの熱意がこの国に火をつけたんだ!」

アレスは、グラスを片手に夜空を見上げていた。

(師匠…ツムギ…僕は、英雄になれたかな)

ゆっくりとグラスを傾ける。


翌日。

STFに向かう。武術大会の盛り上がりのせいか、帰りの道は思ったよりも混みそうだ。着くまでに一週間を超えてしまうかもしれない。だが、アレスにとっては久しぶりの故郷への帰還だ。長旅でも構わない。これまでの冒険を振り返る時間が、心地よかった。


無事に到着すると、STFでは副所長のディーテが待っていた。突然出ていったアレスを見て、怒鳴るでもなく、怒るでもなく、ただ抱きしめた。

「おかえり」

「ただいま」

ディーテはパーティー会場の食堂まで喜んで案内した。アレスが戻ってきてくれた。ただそれだけで、彼女は満面の笑みだった。


パーティーには施設の職員や子供たちもいて、アレスたちのAランク昇級を祝ってくれた。

パーティーの途中、所長のゼースがアレスの所に来た。珍しい。実験以外では滅多に見かけないのに。

「君あての手紙が届いたんだ。黄の国からだよ。渡したよ。私は忙しいので」

ゼースは手紙を渡すと、さっさと食堂から出ていった。

手紙の中を見ると、『黒の国で結婚式がある。Aランク冒険者として王の代わりに出席して手紙を渡してくれたまえ』と記されていた。

(なんでAランクになったことを知っているんだ?そして、STFに戻ってくることを…)

面識はないし、STFの人しか知らないはずだ。武術国家に黄の国に関係した人がいたのだろうか。この時はまだ、妙なこととしか考えられなかった。


翌日、アレスは黒の国へ向かって移動していた。キャンバス大陸で黄の国は南側、黒の国は北東に位置する。中央貿易都市に行くよりも遠い道のりだったが、荷物は少ないし、馬で移動することにした。魔獣に襲われなければ問題ない。これでいいだろう。

馬での旅の中、カラーズの王に会うと思うと興奮が止まらない。黄の国の王は誰も見たことがない。だが、黒の王といえば、「恐怖の王」と呼ばれ、有名だ。そんな人が結婚か。どんな人なんだろう。


長旅の末、ようやく黒の国に着く。門には着物を着て、腰に刀を身に付けた侍がいた。道場での日々を思い出し、どこか懐かしい気持ちになる。

中に案内されると、スキンヘッドで革ジャンに肩パットの男たちが、汗をかきながら黙々と労働していた。

(なんだ…この国は…)

アレスは困惑を隠せない。まるで、巨大な軍隊の訓練所のような、異様な雰囲気が漂っていた。


何も見なかったことにしようとした。案内された先には、先に2人いた。挨拶をしようとすると顔を見るなり、

「見ない顔だな」

小さな女の子が、下から見上げてくる。

「どうも始めまして、黄の国のアレスと申します」

アレスは頭を下げた。

「親切にどうも。私はアクス・ミリア。こっちが護衛のシャッフル」

シャッフルは王の代わりに頭を下げた。

「あのピエロはまだ生きているの?」

アクスから質問が来た。

「あのピエロとは?誰でしょう」

アレスは答えられなかった。有名な人なのだろうか。

「知らないならいいの」

アクスは少し不機嫌そうだった。


王のいる扉が開く。

アクスは同盟のことも気にしていないようで、軽い挨拶で済ませた。


問題は黄の国だ。王が来ないで使者だけ差し出す。緊張が走る。


「僕は黄の国の使者として参りました。Aランク冒険者アレスと申します。この度は黄の国より、手紙を渡すように名を受けて参りました」

アレスはロックに手紙を渡した。


ロックは手紙を読むと、手紙を破り捨て、アレスに聞いた。


「お前はあのピエロに直接言われてきたのか?」


「僕は黄の国の王とは面識がございません。手紙で指示を受けただけです」

アレスの言葉に嘘はない。


「それならもういい」


アレスは黒の王ロックに頭を下げると、次は王妃の元に行った。


アレスは緑の国の王キチョウに挨拶を終えると、クロを見た。


「生きていたんだな。クロ」

アレスの顔は、驚きと安堵、そして何とも言えない複雑な感情が入り混じっていた。


「まあ、やりたいようにやってるよ」

クロの言葉に、アレスは言葉が出ないようで、静かにその場を去って行った。


クロが生きていた。

(そうか…生きてたんだ…)

嬉しいのか悲しいのか、アレスにはわからなかった。なぜあの時、彼だけが生き残ったのか。彼が何をしようとしていたのか。状況が全く理解できず、アレスの心は混乱していた。


彼は何も言わず、ただ黄の国へ帰ることを決意した。

読んで頂きありがとうございます。

この先は本編の黒き太陽編になります。

アレスは英雄になれるのか。それとも・・・。

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