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第1話 絶望の英雄

幼い頃、僕は冒険者だった両親に、絵本に出てくる英雄の物語を繰り返し聞かされていた。困った人々を救い、凶暴な魔獣を打ち倒し、世界に平和をもたらす……。その姿は僕にとって、憧れの存在だった。いつか、自分も英雄になりたいと夢見ていた。


だが、その夢は幼い頃に壊された。両親は冒険の仕事で命を落とし、当時5歳だった僕は、超能力育成機関(通称:STF)に引き取られることになった。


STFで、僕は3人の同期と出会った。クールなダンガン、元気いっぱいのテツオ、そして面倒見の良い紅一点のダミア。みんな同じ境遇で、この施設にやってきた。


そして、僕らの恩師となるブラッドと、先に施設にいた同い年のクロ。クロは初対面から喧嘩腰で、僕たち4人を見下していた。正直、腹が立った。僕だって弱くない。そう思っていた。


だが、現実はすぐに思い知らされた。初日の実技訓練で、僕はクロに手加減されながらも、コテンパンに負けた。力の差は歴然としていた。


僕は勝手にクロをライバルと決めつけ、その背中を追いかけた。しかし、どんなに努力しても、彼の背中は遠ざかるばかりで、その差が縮まることはなかった。


それから時が経ち、僕は14歳になった。冒険者のBランク試験を受けるため、「赤の国」に立ち寄った時のことだ。


目の前には、恩師ブラッドが血を流して倒れていた。


「先生!」


僕らの叫び声も虚しく、ブラッドの身体は燃え盛る炎に包まれていく。僕たちは立ち尽くすことしかできなかった。


赤の国の王、ガウスの放った炎は、ブラッドが作り出した「血の盾」を蒸発させ、その拳が彼の腹部を深くえぐったのだ。


僕たち4人は、急いでブラッドに駆け寄る。その身体のひどい火傷は、もう消えそうにない。炎に焼かれるブラッドに、僕たちは泣きながら声をかけることしかできなかった。


そこにガウスが近づき、とどめを刺そうとした、その瞬間――。


ガウスの顔が、突如として吹き飛んだ。いや、殺気によって脳裏に浮かんだイメージだ。誰がこんなことを? 周囲を見渡すと、死んだと思っていたクロがそこに立っていた。


「先生!先生、大丈夫ですか!?」


4人は必死に呼びかけるが、ブラッドの身体から炎が消える気配はない。ただ、泣き叫ぶことしかできない。


「みんな……ありがとう。俺は……幸せだ。……ごほっ、ごめ、んな……。本当に、しあわせな人生だった」


燃え続けるブラッドは、最期に感謝の言葉を絞り出した。


炎はついにブラッドの命を奪い、彼の身体は骨すら残さず、燃え尽きて消えていった。


僕たち4人と、かつてブラッドと同じギルドにいたエルンは、ただただ泣き崩れた。ブラッドがいた場所には何も残っていない。その虚空に手を伸ばし、僕たちは大声で泣いた。


ただ、泣くことしかできなかった。いや、それしかできなかった。赤の王が放つ圧倒的な殺気に気圧され、僕たちの身体は石のように固まって動けなかったのだ。


そんな僕たちを尻目に、クロは赤の王と互角以上の戦いを繰り広げ、王を討ち取った。王が倒れたのを確認すると、クロは何も言わずにその場から姿を消してしまった。僕はクロのように前に進めず、一歩も動くことが出来なかった。英雄ならこんな時、戦うはずなのに。僕は英雄に憧れるだけでなれない。まるで、ただ傍観している国民のようだ。


王が死んでからは、僕は完全に放心状態だった。目の前で恩師が死んだという現実を、どうしても受け入れられなかった。頭の中が真っ白で、何も考えられなかった。


赤の国にクロの捜索を依頼したが、返ってきたのは「それどころではない」という言葉だった。赤の国では、違法にもかかわらず奴隷を兵器開発に利用していたのだ。もし他国にこの事実が知られれば、戦争になりかねない。赤の国は、事態の鎮火に必死だった。


僕たちはすぐに故郷に戻れると伝えられた。エルンさんとは、そこで別れることになった。彼は故郷の「青の国」に戻るそうだ。何か話しかけてくれたような気がする。だが、何を話したのか、僕はまったく覚えていない。


気がつくと、魔獣車に乗っていた。魔獣が荷車を引く、この国独特の乗り物だ。車内には僕たち4人だけだった。誰も口を開こうとしない。いや、開けられなかった。僕の隣で、ダンガンもテツオもダミアも、ただ虚ろな目で外を眺めていた。僕の心は、あの炎に焼かれて、燃え尽きてしまったようだった。


よくわからないまま、僕たちは「黄の国」のSTFにたどり着いた。


施設の前に副所長のディーテが待っていた。僕たち4人の姿を見るなり、彼女は何も言わずに強く抱きしめてきた。ディーテは何も聞かなかった。ただ、僕たちの身体を強く抱きしめ、静かに泣いていた。その温かさに、僕たちは胸の奥からこみ上げてくるものを抑えきれず、涙を流した。いや、もはや、泣くことしかできなかった。


それでも、僕の心は晴れることはなかった。

読んで頂きありがとうございます。

キャンバスのスピンオフ作品で書きたいことを書いて見ようと思いました。

本編のラストでは描いていない部分など書いていきたいと思います。

本編も読んでもらえるとアレスのことが少しわかるかもしれません。

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