第9話 時の縁と千年未来の願い
——夢とは、過去に帰りたいという欲望か。
それとも、未来へ逃げたいという希望か。
◇ ◇ ◇
「スイミー、今、私……なにか、見えた気がした」
「主殿? ……どうしました? 顔色が——」
ユイの足元に、白い花びらが舞い降りる。
だがここは宇宙。花など存在しない。
「……時空、ずれた?」
その瞬間、ユーユーマシンがかすかに光を放った。
『思念反応確認。過去接続ポイント、開示。』
「わわっ!? 待って、それって——」
—
気づけば、ユイの周囲は霧と風に包まれていた。
草木が生い茂る、見たこともない古い神殿跡。
「ここ……何百年前の世界……?」
「おそらく、“千年前の空白の王国”ですね。
伝承によれば、ここでは“夢”という言葉が禁じられていました」
その時——
「夢を語る者よ、貴様、何者だ」
低い声とともに、黒い羽織を着た少年が姿を現す。
腰に奇妙な短杖を差し、額には逆三日月の印。
「名乗るまでもない。
だが問おう、お前は“精霊”を見たか?」
「精霊……?」
—
その刹那、空間が震える。
地面がひび割れ、そこから湧き出たのは——
「火精霊!? いや、暴走体だ!!」
「退け!やつは夢を喰らう精霊の抜け殻——!」
ユイの足元に火が絡みつく。熱く、ただ、哀しい。
「……違う、精霊は敵じゃない!」
スイミーが叫ぶ。
「主殿!“術式”を! あなたなら使えます!」
—
ユイの意識に、かつて聞いた名がよみがえる。
《水精霊のパスワード……そして、第一の想念出力式》
彼女は深く息を吸った。
「お願い、力を貸して!——
**“焔煌旋掌!!”**」
掌から放たれた螺旋の炎が、火精霊の暴走核を包み込む。
その瞬間、世界が凍ったように静まりかえった。
—
少年は、目を見開いて言った。
「お前……名は?」
「ユイ。夢の記憶を追って、この時代に来た」
少年は数秒の沈黙の後、呟くように言う。
「……俺はリクト。
夢を禁じられた国の、“最後の王族”だ」
—
風が止み、空が動く。
ユーユーマシンが再び光を放ち、画面に数字が浮かぶ。
『転移位相:+1000年。目的地:未来意識都市』
「スイミー……また行くの?」
「はい。夢の起点が、もう一つ先にあるようです」
リクトは、少し寂しげに言った。
「お前が未来でまだ生きているなら、俺の“夢”も……少し、思い出してくれ」
—
ユイが頷いた瞬間、世界が反転する。
霧は消え、空には巨大な人工衛星と虹色の都市が浮かんでいた。
「……ここが未来の都市?」
「その名も《フューテリア》。思念によって全てが動く都市です。
ただし、“夢”はすでに……規格化され、政府に管理されています」
—
ユイの前に、立ちふさがる謎の人物。
その背後には、機械化された精霊たちの残骸。
「君も、“夢を定義できない者”か」
彼は無表情で、手を振りかざした。
「ならば排除しよう。——
**“次元閃滅”!!」**
—
つづく
物語はついに“未来の夢の戦争”へと入る——