第7話 星を喰らう獣、そしてスイミー
火の鍵と宇宙穿梭剣に導かれ、ユイは再び時空を跳んだ。
だがその行き先は、予想もしない「星の死角」——
星と星の狭間に浮かぶ、重力も音もない空洞領域だった。
「ここ……空っぽすぎる……」
ユイが一歩踏み出すと、足元の虚空に波紋のような光が広がる。
そのとき——
「グオオオオオオ……ッ」
空間が震える。
響いたのは、獣の咆哮。
姿を現したのは、まるで星そのものを食べてきたかのような巨獣だった。
その名は——**星噬獣**。
全身が銀の欠片でできたような体。
目は燃える恒星、口元には数えきれない星屑の残滓。
「でか……ってか、今、こっち見たよね……!?お腹すいてる目じゃない!?」
ユイが剣を構えた瞬間、彼女の耳元でふわりと声が響く。
『冷静になってください、主殿。あなたは今、完全に“餌”認定されてます』
「……えっ!?誰!?」
次の瞬間、ユイの肩にちょこんと乗ったのは、水色の羽衣のような存在。
頭には雫の冠、目はくるくる回るスピラル模様。
「わたし、水精霊スイミーです。
主殿が“水のパスワード”を意識下で解読したので、自動展開されました」
「え、え、まって!?そんな自動ログインみたいな!?説明なし!?」
スイミーは小さな手でピッと空中をなぞると、ユイの前に波紋が広がった。
「この空間、既に“星噬領域”に取り込まれています。
急がないと、星も記憶もまるごと飲まれますよ?」
「いやもう、さらっと怖いこと言わないで!?てか、何あの獣!?」
スイミーはクルクルと回転しながら、星噬獣を見上げた。
「“星を喰らい、過去を封じる獣”。でも安心を——彼、指示には従います」
「えっ、誰の指示!?」
「主殿のです」
「聞いたことない命令出しといたの!?」
星噬獣が再び咆哮する。
そのとき、ユイの手の中の宇宙穿梭剣が光を帯びた。
『星還の詞、準備完了』
「えええええ!?また唐突に来たああああ!!」
—
剣の力が時空の亀裂を切り裂き、ユイとスイミーは空間の外縁に脱出する。
残された星噬獣は、その巨大な身をゆっくりと折り、
虚空に残された星の残骸を口に含んだ。
だが、そのとき——
「……戻すよ」
ユイの言葉に、穿梭剣が共鳴する。
次の瞬間、星噬獣がゆっくりと口を開き、
のみ込んだ星屑が、光となって空へ還っていく。
「命令じゃない。お願い……だから、返してくれてありがとう」
スイミーは、少し驚いた顔をして、ふわっと笑った。
「主殿、やさしすぎです」
「でも、そうじゃないとこの宇宙、きっと壊れちゃう気がする」
—
穿梭剣が光を納め、時の流れが静かに戻った。
空に一つ、蘇った星がまたたく。
「次はどこに跳ぶのかな、スイミー?」
「ええ、それが問題なんです。次の座標、完全に未登録でしたから」
「え……それって、つまり?」
「ぶっつけ本番ってやつですね」
「またあああああ!?!?」
—
そのころ。
遠く離れた“仮面の観測者”が、静かに口角を上げた。
『星噬獣が従った、か……面白い』
その目に映るのは、未だ現れぬ“逆意連環の核”。
そして彼の背後には、別の影が忍び寄っていた。
——だが今はまだ、誰もその名を知らない。