表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/132

第5話 火の鍵を探す者



「水の記憶」が消えた瞬間、ユイは吸い込まれるように膝をついた。

まるで宇宙の縫い目がほどけたかのように、景色が音もなく変わる。


——そこは、乾いた光に満ちた場所だった。


空も、地も、すべてが薄い金色で塗りつぶされた世界。

まるで太陽が何十枚も重なったような、不自然な明るさ。


「ここは……“火の核層”? 水の次は、火……ってこと?」


手にした小さな殻が、じわりと熱を帯びる。だが、それは“水精霊”の殻ではなかった。


「……って、ちょっと待って、これ——ただの弁当箱!?昨日の残り!?」

ユイの顔が、一気にしょんぼりする。


「見なかったことに……うん、うん、これ夢だから。気のせい……」


その瞬間、頭の中に声が響く。


『探しているのは、“火の鍵”だろう?』


ユイは反射的に振り返る。

そこに立っていたのは、黒い長衣をまとった人物。顔はフードに隠れている。


「あなたは……?」


『私は導く者だ。だが君が、“火”を使うに足るかを試す必要がある』


そして、彼の足元に——一本の剣が、ゆっくりと浮かび上がる。


「それは……剣?」


『“宇宙穿梭剣”——時空の継ぎ目を裂き、次の夢へと跳ぶ鍵だ』


銀の光を放つその剣は、星の残光を帯びて脈打っていた。

ユイは手を伸ばしかけて——そして、ぐっと止まる。


「え、ちょ、なんで弁当箱と一緒に持ってんの私!?」


左手には、なぜか昨日食べかけだったレモンゼリーの容器が……!


『それではない』

『ゼリーでは、宇宙は切れん』


「分かってますうううう!!」



だが、ユイが本当に恐れていたのは——“火の鍵”を持つことによって

自分の中に何かが目覚めることだった。


導き手は言う。


『火は破壊と跳躍の両義を持つ。鍵を選ぶとは、自ら燃える覚悟を持つことだ』


ユイの瞳に映った“宇宙穿梭剣”は、星の記憶を宿したまま、静かに待っていた。


そして、空の片隅で、何かが見ていた。

白い仮面の男、星の影に潜む者。

その目が細められる。


『鍵が動く。ついに、始まるか……“逆意連環”の回収が』



だが、ユイはまだ知らなかった。

鍵の力が、ただ“跳ぶ”だけではないということを。

それは——**星を還すことば**と共鳴するものだった。


そして、火の鍵がユイの指に触れた瞬間。

彼女の胸に、誰かの声が重なる。


『かえれ、光のはじまりへ――星還を、我が意に』


——咒文が、ユイの中で目覚めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ