第2話 夢の逆月へ
まばゆい光に包まれた先、ユイは再び目を覚ました。
そこは白銀の空の下、静寂と光が交差する無音の原野。
風はなく、鳥もいない。ただ、どこかで時間が止まったような、完璧な「間」が広がっていた。
ユイは立ち上がる。足元に広がる水面のような大地には、彼女の姿が淡く映り、まるで夢と現実の境界に立っているかのようだった。
「ここは……どこ?」
彼女の問いに答える者はいない。けれど、空に浮かぶ逆さまの月が、まるで何かを告げるように瞬き、ゆっくりと揺れていた。
──夢の逆月。
かつて、まだ“未生”であった魂たちが通るという、時の裏側の領域。
ユイの記憶には、その名前すらなかったはずなのに、なぜか懐かしさと恐れが同時に胸を締めつけた。
そのとき、大地の端に一つの影が現れる。
それは人とも獣ともつかない、黒い衣をまとった存在だった。
「扉を越えた者よ。お前は、“外”を望むか?」
ユイは立ちすくむ。声は冷たくも優しく、何かを知っているようだった。
「……“外”って、なに?」
影は答えず、ただ手を伸ばした。その掌には、小さな銀色の種が浮かんでいた。
「この種を受け取れば、夢はひとつ、終わり、そして始まる。」
ユイは、その手の中にあるものが何なのか、まだわからなかった。
けれど、どこかで、これは選ばなければならない“答え”なのだと、感じていた。
――夢の逆月の下で、彼女の旅は静かに次の扉へと向かっていく。