第16話 透宇ミラー、星を映す
――光が、星々の静寂を引き裂いた。
ユイは眠るように立っていた。けれど、目は覚めていた。夢と現が揺れるこの空間――そこは、〈時をもたない部屋〉と呼ばれる白い円形の空間だった。
彼女の手には、銀の輪のついた小さな鏡が握られていた。それが、“透宇ミラー(とううミラー)”。覗き込めば、宇宙の構造そのものが透けて見えるという、異界の道具。
「……これは、私の……未来?」
鏡の中に映ったのは、自分自身の背中。けれど、その背中の向こうに広がるのは、無数の星が散らばる“未生の空”だった。そして、星々の間をゆっくりと飛ぶ――巨大な飛行機のような影。
その機体は金属ではなく、柔らかな皮膚に覆われていた。どこか温かく、そして鼓動すら感じさせる生体構造。だが確かに、翼を広げたそれは飛行機の形をしていた。
「……生翔機」
そう、鏡が囁いた。意識の中に響いた名は、“生きる飛行機”。感情を持ち、言葉を話し、空だけでなく時間をも翔ける“生体乗り物”。
「大切なのは、心を預けること……」
ユイがミラーを閉じた瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。
──次に彼女が立っていたのは、青白く輝く空中の浮島だった。浮かぶ宝石が無重力のように漂い、虹の帯が大気を走っていた。
「……ここは?」
すると、彼方から声がした。
「やっと来たのね、星の扉の使徒よ。」
姿を現したのは、夢精霊だった。透き通った羽と眠たげな瞳を持つ、不思議な存在。
「“透宇ミラー”を持つ者だけが、この領域に入れるの。あなたが見るべきなのは、“時間の奥”にある記憶。そこに答えがあるわ。」
ユイは黙って頷き、足元の宝石を拾った。
するとそれが、まるで呼応するように光を発し――彼女の背後に、鼓動する影が近づいてくる。
「わたしの名は――“せいしょうき”」
低く、しかし優しい声。
星々の記憶を知る者。未来を渡るための、生きる翼。
ユイの旅は、また新たな軌道へと進みはじめた。
──つづく