第14話 鍵の殿堂〈ノウメニア〉、封じられた星の心音
“心音のない星は、かつて夢を捨てた”
◇ ◇ ◇
水の記憶が静まったあと、
ユイたちは銀色の風に導かれ、宇宙の深層に浮かぶ巨大な建造物へと辿り着く。
その名は――**鍵の殿堂〈ノウメニア〉**。
記憶・夢・存在の因子を保存・分析・再配列する、かつての文明が残した
“星の意識を再起動させる装置”である。
「ここは……“宇宙の胎動を記録する神殿”?」
ネルがつぶやく。
石柱には古代符号が刻まれ、中心には浮遊する巨大な心臓のようなコア。
しかし、それは脈動していなかった。
「この星……もう“鼓動”が止まってる」
ユイがそっと手をかざすと、突然、微かな振動が広がる。
『心音認証……完了……』
殿堂の奥から現れたのは、**精霊族の守護機構体**。
「あなたが、最後の“鍵継者”か……」
レアリスはネルを見つめる。
「夢精霊ネル。かつてあなたが預けた“心の断片”が、
この星に“火の鍵”として封印されたままだ」
「火の鍵……!」
ネルは驚愕する。
「それがないと、この星も、星噬獣も……再起動できない!」
ユイが口を開く。
「じゃあ、その火の鍵って……どこに?」
「それは、“忘却界層ミラージュ・ノクス”の最奥。
過去に一度、誰もが捨て去った“時間”の場所だ」
「つまり……“かつて存在しなかった未来”?」
「その通りだ、ユイ。あなたの思想なら届くかもしれない」
ネルが震えながら口にする。
「行くの?そんな場所に……」
「うん。だって、夢は“思い出す”ものじゃなくて、“思い出してあげる”ものだから」
その瞬間、ノウメニア全体に星のような光が灯る。
そして空間の隙間から、微かに聞こえる音。
――トクン。トクン。
それは、星の鼓動。忘れられた命の目覚め。
「星の心音が……戻ってきた……!」
ネルが涙を浮かべる。
「ありがとう、ユイ。あなたは……夢を繋ぐ人」
だが、その影で誰かの声がささやく。
『火の鍵を得た者は、“光”だけでなく“影”も受け継ぐことになる……』
つづく