第128話 忘却の反奏――異音(いおん)の胎動(たいどう)
第128話 忘却の反奏――異音の胎動
記憶の初音が紡いだ“創造の歌”は、
オリジン・シードを誕生させ、新たな宇宙の核を形作ろうとしていた。
しかしそのとき――
空間の片隅、微かに歪んだ空白から、不協和音が漏れ出した。
「この音は……!」
ノエルの眼が鋭く光る。
スイミーが震える声で続けた。
「“忘却の波動”……! この宇宙に存在してはならない反響!」
◆
空間が崩れ始める。
楽譜の書のページが、突然破れ、逆再生のように音が巻き戻っていく。
現れたのは――黒衣の奏者。
その名は、**異音奏主グラヴィ=ネフ**。
「初めまして、記憶の残渣たち。
わたしは“音になれなかった意志”。
旋律に拒まれた、もう一つの世界の胎動だ」
その声は、耳ではなく“心の内奥”に直接響いてくる。
「君たちが奏でたその“希望の和音”、実に眩しい。
だが、残念だが――その響きは、わたしを呼び覚ますには充分だったのだよ」
◆
異音奏主グラヴィ=ネフが振るう指先。
空間が裂け、そこから“音を持たぬ存在”たちが現れる。
彼らは、**ノンコード**。
名前も記憶も持たぬ、純粋なる“忘却の兵”。
「記憶はやがて、疲弊し、破綻する。
君たちの旅路もまた、例外ではない」
ウイネが一歩、前へ出る。
「……記憶の初音として、あなたの存在は否定します。
この宇宙の旋律に、あなたの不協和音は許されない!」
しかし、グラヴィ=ネフは微笑みを浮かべる。
「否定とは、記憶そのものの本質だ。
思い出すことは、思い出せなかったものを捨てる行為……違うか?」
◆
ユイが叫ぶ。
「それでも、僕たちは前に進む! 思い出せなかったものごと――
その悔しさすら抱えて、“未来”へ繋げる!」
その瞬間、ユイの足元から金色の陣が展開した。
――九聖龍たちの力が共鳴していく。
「ユイ……これは、新たな技だよ!」
スイミーが気づく。
融合された九つの宝の響きが、次なる技を紡ぎ出そうとしていた。
その名は――
**光暁創陣〈アストラル・オーヴァチュア〉**
ユイが叫び、空間を震わせた。
「創造と記憶のすべてよ、今こそ――奏であえ!」
光が奔り、ノンコードたちを押し返す。
グラヴィ=ネフの顔から、初めて笑みが消える。
「これは……“光と音の共鳴”……!?
まさか、全ての宝がここまで調和するとは……!」
◆
だが、異音の胎動は止まらなかった。
裂けた空間の向こう――そこには、“無限に消された記憶”が渦を巻いている。
「次に出現するのは……“記憶を喰らう竜”……」
ウイネの顔に緊張が走る。
「それは、忘却の核。異音の中枢にして、
あらゆる記録を“最初からなかったこと”にする、最悪の存在」
その名は、**虚音竜ラグナ=ノヴァ**
九聖龍に匹敵する、あるいはそれ以上の力を持つ、
“記憶の否定”そのものだった。
ユイたちは、あまりに大きな試練を前にして――それでも、決して退かない。
「僕たちの音は、止まらない……!
たとえ、宇宙ごと忘れ去られても、君たちと歩いた記憶は、確かに“今”にある!」
虚音が鳴り響き、戦いの幕が再び開かれる。
――つづく